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【完結済み】アラフォーのおっさんによる異世界転移の錬金生活  作者: 薙尋
あくまでアクマは良魔にこだわる1
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あくまでアクマは良魔にこだわる108 身体を動かす

 自分はどうも身体を動かすのが好きだ。

頭を使うのはとかく苦手である。

そういえば、一年ほど前にこんなことがあった。

とんでもないことになったと、当時思ったのを思い出した。


 トサ帰国後、すぐのことだ。

ミト藩士のスミ谷寅之介トラノスケ、大ゴ聿蔵イッゾーから一通の手紙が届いた。

安政の大獄にからみ十月十一日にエドを出立し、十一月十七日にトサとイヨの国境タチ川へ到着した、とあった。

応接に出向くむねを返書にしたため、それを受け取ったスミ谷らのもとへ二十三日に到着した。


 エドのきな臭い動静をここで結構彼らから仕入れた。

彼らには最近までエドにいたのに何も知らんウカツなヤツだと思われたようだ。

彼らを入国させてやれる権限などあろうはずもなく、ひどい失望感を抱かせた。

結局彼らは各地を回ったがどうにもならず、帰国していった。


 お役に立てず、この時は大変ふがいない思いをした。

なんでこんなことを思い出したかというと、二十六歳になった今、井イ直弼ナオスケがミト脱藩浪士らの襲撃を受けて暗殺された。

世にいうサクラ田門外の変である。

安政の大獄が、これをきっかけにあっさり終わってしまった。


 これで収まるところに収まったかといえば逆である。

人々の憎悪は今まで抑えられていたにすぎない。

世の中には不穏な空気が充満しだすことになった。

攘夷だの尊王だの非常にこの手の騒ぎが、現実的な脅威になりつつあった。


 いろいろある懸案は全く解決していないからだ。

幕府もキョウも藩士も町人も、上士も郷士も。

互いに不協和を感じている。

それぞれで立場が違い、信じているものも違う。


 そんな中、十九歳になったナオが、九州に武者修行の旅に出た。

その後七月にタケチさんが以蔵イゾーらとともに武者修行のためトサを出立していった。

サヌキ丸ガメ藩に入り、ビゼン、ミマサカ、ビチュウ、ビンゴ、アギ、チョウ州などを経て九州に入るそうだ。


 自分としては今更、武者修行をする彼らの真意がわからない。

各地の志ある人たちに教えを乞い足並みをそろえたい、と彼らはいっていた。

頭のいいヤツの考えそうなことだ。

まあ、そうやって作った人脈はムダにはならんだろうけど。


 自分には剣術試合で対戦したチョウ州のカツラ小五郎コゴローぐらいしか興味はない。

かといって幕府の要人暗殺なんていう血なまぐさいことには全く興味が持てない。

どういう形であれ先々黒船で商売できる相手を、なんで殺さにゃならんのだ。

ひょっとしたら資金的に援助を受けられるかもしれんのに。


 そもそも外国との開国は、もはや井イ大老の条約で成っている。

今更攘夷といって騒いでも、外国勢力相手に覆すのは難しかろう。

キョウの勢力に勅を得ていないという落ち度はあるが幕府は独断で動いている。

今のうちに何らかの資金を得て外国から黒船を手に入れておく方がかしこい。


 そういう国家の問題とは別に、トサ藩特有の問題もある。

上士と郷士の身分差の問題である。

これが今や、憎悪を含んだ対立にまで発展していがみ合っている。

この部分もいつ爆発するかわからない状況だ。


 そしてここに関しては、二十七歳になった自分も他人ごとではない。

翌年三月にイグチ村刃傷事件(永フク寺事件)が起こった。

イケ田虎之進トラノシンの自宅に自分含め郷士らが集まり、上士に対抗する気勢を示した。

そのあと、イケ田さんはすべての責任を負って腹を切った。


 痛ましすぎる事件であった。

四月にタケチさんたちはエドへ行ってそのまま各地の志士と交流していたようだ。

そこで八月にトサ勤王党を結成した。

その後タケチさんはトサに戻って百九十二人の同志を募った。

自分は九番目、国元では筆頭として加盟することになった。


 その代わりというわけではないが、タケチさんから使いを頼まれた。

その年の十月に丸ガメ藩への剣術修行の名目で土佐を出る。

実際は、チョウ州のハギでク坂玄瑞ゲンズイという御仁と面会するというものだった。

タケチさんはどうもエドでかなり感銘を受けたようだ。


 途中ウワ島藩に立ち寄り、クボ田派田ミヤ流剣術師範、タヅ味嘉門カモンの道場に他流試合を申し込んだ。

タヅ味道場にはド居通夫ミチオ、コ島惟謙コレカタがいた。

久しぶりに自分は血が騒いでしまった。

やはり自分にはこれが向いている。


 そんなこんなで実際にク坂さんに面会できたのは翌年一月だった。

草莽崛起ソウモウクッキ糾合義挙キュウゴウギキョを促す、ク坂さんからタケチさん宛の書簡を託される。

二月にトサに帰着し、二十八歳になっていた。

チョウ州のク坂さんには、本当に尊王に対する志を感じて自分の不明を恥じた。


 自分では幕府を転覆させて尊王を実現するなんて絵空事に感じていた。

白札郷士のタケチさんにいろいろいわれても、やはり信じきれない。

容堂公にしても、本気で幕府を転覆させようとはしていない。

上士だ郷士だとトサの内輪で対立している程度で済んでいる。


 ミトやらチョウ州と違って、トサはやはりおおらかで田舎なのだ。

チョウ州の人は松陰ショーイン先生の教えによりク坂さん始め本気で実現を願っている。

こういう可能性を排除してしまうのは、実はもったいないことなのかもしれない。

攘夷はともかく、尊王というのは改めて目標にすべきなのかもしれない。


 そうなると気になるのは、サツマ藩の動静である。

シマ津斉彬ナリアキラ公亡き後、久光ヒサミツ公に変わったはずだ。

兄弟仲が悪いとは噂になっていたが、どんな感じだろうか。

英明で知られる兄を持つと、きっと大変であろう。

わが身に置きかえて、そう思う。


 それにしても、前回はとても柔和な話題で楽しかったのに。

今回は、最初から最後までこんな調子に物騒だ。

自分の嫌いな頭の痛くなる話題ばかりで、恐縮である。

こういう話題の時は、ホノカも全然口を出してこない。

実につまらん。


 失恋を連発しているため、そういう意味でもクサクサする。

いったいいつになったら我が妻ホノカは登場してくるのか。

キョウのテラ田屋に何かキーがありそうではある。

確かあそこで初めて夢に出てきたからな。

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