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【完結済み】アラフォーのおっさんによる異世界転移の錬金生活  作者: 薙尋
あくまでアクマは良魔にこだわる1
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あくまでアクマは良魔にこだわる107 加尾さん

 自分はどうも加尾カホさんが好きだ。

心底困っている。

物心ついたころから一緒にいる。

どうも、自分との関係性で悪いうわさがあるらしい。


 あの二人はデキている。

端的にいうとそういうことだ。

困ったことに、事実そういう要素はある。

更に困ったことに、彼女の兄である収二郎シュージローにも同じように見られている。


 ただ、何度も言うが、自分には前世より約束した許嫁がいるんだ。

相変わらず、ホノカは夢に出てきては、ひどくすねることがある。

佐那子サナコさんについても、どうにかするのは大変だった。

加尾カホさんについても、この先どうにかするしかない。

そう思っていた。


 今、この問題が思わぬ形で解決しつつある。

トサ藩父ヤマ内容堂ヨードー公が、例の件で隠居謹慎した。

ただ、藩内の権力構造自体は変わらず、ヨシ田東洋トーヨーさん中心の藩政改革はその後も着々と進められた。

エドの幕府や中央のキョウに対しては、政治的な押し出しがなくなっただけだ。

しかし、それでは済まない。


 容堂ヨードー公は、妹のトモ姫をサン条公睦キンムツさんに輿入れさせることにした。

キョウの権力に喰い込んで、中央へのルートを確保する妙手だった。

これに加尾カホさんは、侍女としてついていくと決まった。

まあ、悪いうわさがある女性は、こういうルートもある。

そう簡単にはここへ戻ってはこれないだろう。


 結果として、自分は恋路を邪魔され、加尾カホさんに振られた、という格好だ。

少なくとも、周囲や、兄の収二郎シュージローはそう思っている。

自分は加尾カホさんにお別れをいい、手紙を書く約束をした。

別れるとなったら、あっさりしたものだった。


 オトコだったら、好きなオンナを奪い取る、駆け落ちするという情熱を燃やす。

だがしかし自分には、ややこしい人にいえない事情がある。

手をこまねいて見ているしかなかった。

ああ、自分は本当に彼女が好きなのだと、なんとなく思って泣いた。


 そのあと見た夢で、あの子はミツバチのウズメよ、とホノカにいわれた。

健気でいい子でしょう、といわれて、なんだかなぐさめられた。

いや、もう慣れたけど、前世の自分はいったいどんな環境で生きていたんだ。

周囲に人間の影がなさすぎるだろ。


 傷む頭を押さえながら、目が覚めてすぐそう思った。

しかも、やはり自分の周囲にきっちり配置されていることがこれではっきりした。

それもかなり好意がある、なれ合っている状態で。

前世の自分は妙な生き物のハーレムでも作っていたんだろうか。


 なんとなくタケチさんと会って話していた。

そこで、イワ本おトクという女性の話を聞いた。

城下等から毎日多くの侍たちが来て求婚しているが、うまくいかないらしい。

医師の父、里人リジンさんにつれられ、シマン十の旧ナカ村城下から十三歳でこっちに移ってきたそうだ。

小さい頃より美少女として評判が高く、ナカ村小町といわれているようだ。

自分の七歳年下である。


 実にイヤな予感がする話である。

タケチさんは無責任に寂しいだろうから彼女を口説いてみたらどうか、といった。

彼なりに気を遣ってくれているのはわかる。

しかし、自分の事情を考えると、これも例のアレじゃないかと思う。


 結果として、自分の予感は当たっていた。

夢でやっぱりホノカはひどいことをいった。

あれはトリのウズラだよ、まだオトコになっていなくて自信がないの。

あのコで試したら、ヤラしいことは大事だよって、子供みたいな顔で何をいう。


 結構悩んだが周囲にお膳立てをされて導かれ途中からこれも運命とあきらめた。

意外とナカ村小町も自分に興味を持っているようだ。

ちらっと見たが、確かに美人である。

ちょっと加尾カホさんに面影が似ている。


 自分は夜這いのようなことをやらかし、そのまま付き合い続けた。

ちゃんとオトコになったし満更でもない。

しかし、またしても自分と彼女の悪いうわさが立ってしまった。

父の里人リジンさんはそうとう気にしているようだ。

ただ自分が求婚したら、彼女にはっきりと、良魔はトサにじっとしている人ではないから、と断られたんだけどね。


 その後はどうなったかというと。

トクさんは里人リジンさんにつれられて、キョウ見物に行ったそうだ。

そこで、オオサカの豪商、コウ池善右衛門ゼンエモンに見初められた。

善右衛門ゼンエモンは嫁を亡くしたばかりらしく、彼女を妾にしたそうだ。


 まただ、これおかしくないか。

失恋フラグばかりが立ちまくりじゃないか。

夢に出てきてホノカがなぐさめてくれるのはうれしい。

うれしいが、こうなると思った、みたいな目で、自分を見るのはなんでだろう。


 前世の自分は、こういう妙な生き物たちとどんな関係性だったのだ。

少なくとも、ハーレムでは断じてなさそうだ。

そういえば乙女姉さんや春猪さんは、前世がクマなんだよな。

結構なスパルタ教育だったことを、今更思い出した。


 強く生きよう。

孤独感にさいなまれても、オトコなんだ、強く生きよう。

悲しくても、寂しくても、強く生きよう。

そうだ、剣術修行だ、そうだそうだ。


 黒船の商売のことでも考えよう。

金があればな、おトクさんのことだって、どうにかなったかもしれん。

加尾カホさんだって、踏みとどまってくれたかも。

そもそも部屋住みの次男坊には、この手の話が一番キツイ。

いかんいかん、余計なことは考えてはいかん。


 そんなこんなで自分は二十五歳の大事な時期を過ごした。

安政の大獄のひどい時期だがトサにいる間集中していろいろ考えることができた。

世の中が変わっていきつつあるこの時期は、実は幸せな時期でもあった。

トサは退屈だなんてそんなことはいわない。

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