あくまでアクマは良魔にこだわる103 放浪生活
自分はどうも旅が好きだ。
旅というより行方定めぬ放浪生活が自分には合っている。
どこでも行ける船旅というのが、どうも性には合っている気がする。
前世のおっさんの生活もそんな感じが大半だった気がする。
そうでなくても例の夢のせいで、自分の記憶はブツ切れの断片になりやすい。
物心ついたころから、整理して考えるのが苦手になった。
あっちへフラフラこっちへフラフラ定めのない旅。
これがバカな自分の人生だと思う。
ただ今回は、エドへの剣術修行というゴールが設定されている。
徒歩や馬ならともかく、船に乗ってしまえばイヤでも目的地に近づく。
フラフラする要素はそんなにない。
海の機嫌で船が出せなくなる場合を除いて、予定通り向かうことになる。
よって徒歩のうちにその恨みを晴らすべく、あっちへフラフラこっちへフラフラ寄り道しまくった。
同行しているミゾ渕広之丞には格別の迷惑をかけまくったようだ。
自分にはもちろんその自覚はない。
何度もいうが、自分の記憶はブツ切れの断片になりやすく道にも迷う。
薄ノロ扱いもされようというものである。
ただ茫洋としている男の器量だと乙女姉さんがいつも褒めてくれた。
背のたてがみの毛も、竜のたてがみだ麒麟の気風だと、いいように解釈していた。
姉さんの前向きさは、自分をいつも救ってくれた気がする。
だから本当のことはとてもいえやしないのである。
なんだかんだありつつ、結局無事にキョウへ到着した。
ここまで来てしまえば、エドへ向かう手段はいろいろある。
トサの田舎者にとっては、ちょっと安心できる状況だ。
それにさすがは千年の都。
初めての都会の空気にテンションも上がる。
キョウのトサ藩邸は居心地が悪いので、向かいのオウ江屋に宿泊した。
郷士ということで、藩邸ではスゴク狭いところに押し込められる。
寝る場所しかない三間しかなく、とても落ち着いていられない。
きっとこういう扱いは、トサ藩では今後も続くんだろう。
聞いてくれ。
豪商サイ谷屋の分家であるサタ元家は、地元では結構金持ちなのだ。
つまり普段は部屋住みとはいえ結構な屋敷に住んでいる。
金に困ったことも実はない。
サイ谷屋は上士に対する貸金業も、大々的にやっている。
地元では表だってサタ元家を悪くいうものは、あまりいない。
郷士なんぞという身分で見られるのは、ここへ来て初めて意識した。
実はこのオウ江屋も、藩邸の向かいなので落ち着かない。
なんとかいい宿はないものかと思う。
ミゾ渕さんに聞いてみたら、一つ心当たりがあるらしい。
テラ田屋という旅籠があるそうだ。
お登勢という女将が、病みがちな伊助の妻だ。
面倒見がよく気の強い、いい女らしい。
どうもイヤな予感がする。
翌日にはテラ田屋に移った。
お登勢さんはいい女だったが、ややトウが立っている。
なんとなくホッとした。
どうも気に入られたらしい。
背中をバンバン叩かれながら、中に招じ入れられた。
サツマ藩の常宿になっているそうだ。
その日は夢を見た。
そこでホノカというドラゴンがニコニコ笑っていた。
例の神様の夢の先があるようだ。
ホノオとホノヒは私の子供だ、つまりおっさんの子供だといわれた。
後で私もうかがいます、といわれてちょっと寒気がした。
おっさんというのはヨシオのことか、と訊いたら頷かれた。
ここで唐突に夢が終わった。
何度もいうが、こんなことが頻繁に起こって現実味が薄れる。
頭が痛い、これがなんだか現実味を与えてくれる。
神様に色々話しかけられるなんてのは、いいもんじゃないぞ決して。
この後は何も起きなかった。
ホノカというドラゴンが急に来たりしない。
なんだか自分はよかったと思った。
しかし、イヤな予感や寒気はしばらく消えなかった。
こんなことを考えていると、また寝小便をやりそうだ。
しかしエドへの旅は続く。
ミゾ渕さんとの旅は、実に快適だ。
どうも自分が頼りにならないので、相当事前に調べて調査をしているらしい。
この辺りの展開も、なんだか身に覚えがある。
エドへ明日到着できるところまできた。
妙な夢もあれ以来ずっと見ていない。
いつにもましてボーとしている自覚はある。
ホノカというドラゴンの今後の登場方法にとても気を取られる。
わざわざ出てきてうかがうといった以上、来るんだろう多分。
どんなタイミングで、どう自分の人生に絡んでくるつもりだろう。
こういう夢のお告げのようなものは今までにもあった。
楽しいことになるといいな。
気の強そうないい女だったので、気になって仕方ない。
前世でどうも妻だったオンナだということは、すぐに分かった。
乙女姉さんのせいにしていたが、どうも筋金入りらしい。
よって気になるところはここだけだ。
おっさんの人生と自分の人生は関係ないはずだ。
前世の関係性を今世でも実現させようと頑張られても、なんだか釈然としない。
ただ神様みたいな存在の頑張りは、きっと現実を変えちまうんだろうな。
ほんとに困ったもんだが、気づくとエドに入っていた。
ミゾ渕さんは、話しかけても答えないので相当困っていた。
内心どう思われているのか、考えるとこわい。




