異世界転移の錬金生活115 海に向かって
さあ、そろそろ出立しよう。
新拠点ヨシオは、とりあえずこれでいい。
また、先に進もう。
荷物を整理して持っていくものを決めよう。
荷物は確実に増えてしまった。
特に持ち運べる土器のタイプを劇的に増やしたため、
相当いろいろ持ち出せる。
ちなみにぴったりくる木のふたは、苦労しつつもそろえることができた。
口に入れるものを優先に、この土器に入れている。
それ以外は、残念ながらポケットに直接いれる。
炭と灰は、さすがに土器を準備したが。
土器同士で擦りあって割れないように気をつけよう。
さて、大事なものは持ったし、あとは真水である。
真水は、自分でどの程度いるのか把握できるようになった。
真水の壺を三つぐらい持ち歩く予定である。
真水がなくなったら拠点を作る感じで行く。
やはり心配なのは真水の確保である。
とにかく雨が降らないし、乾燥した気候が続く。
火事は起こっていないが、これからはわからない。
あとは大事なヤリとオノをわなとともに背負う。
いやあ、なんだか探検家っぽい風情の格好である。
冒険者っぽくもある。
どの程度、戦えるのかさっぱりわからないけど。
なにせ、経験値が全くかせげないからな。
それと、実は結構今回は希望を持っている。
廃村があるのだ。
その住民を受け入れた大き目の町がそばにあるのではないか。
大き目の町がすんなり自分を受け入れてくれるかわからない。
でも、状況把握はできるし、心の準備ももうできた。
おおむね、自分の状態はよくなり健康だ。
あとは金の問題だけだが、鉄のインゴットやガラス質の塊もある。
この辺を適当に換金すれば、現地の通貨ぐらいは手に入るのではないか。
それ以外にも、アイツの干物や野草の煮びたしがある。
このあたりを早急に商売でもして現金に変えたいものだ。
商売の許可がどうこう、税金がどうこう。
ややこしいことにならないことを切に願う。
このあたりがややこしいのは、もはやお約束だもんな。
あと、このあたりにいる山賊のたぐい。
見かけないけど、いる可能性はある。
せいぜい警戒しながら、でも気楽に行こう。
気持ちの乗りようは、さすがに森の中でさまよっていたころとは違う。
先行きは結構明るい。
それぐらい人の暮らしの痕跡は、自分に力を与えてくれた。
自分には言語能力がない。
でも、身振り手振りでなんとかしてやる。
どうにもならなきゃ、絵でも地面に書くさ。
非常に前向きに、心の中で自分は吠えた。
新拠点ヨシオは、保険でもある。
これでなんともならなければ、いつでも戻れる。
ここで、だましだまし生活するのは可能なのだ。
いやあ、余裕ができると思考の仕方も変わるものだ。
大工さんや石工職人さんを連れてきて、この拠点を充実させる。
水回りは、泥川経由の汚水洗浄で上下水道をうまく作りこむ。
むしろ、こういう手もあるのだ。
さあ、自分に大き目の町を発見させろ。
入場する権利を自分によこせ。
冒険者でもなんでもなってやる、自分が生きていくために。
町の宿屋に泊まりたい。
その辺で売っている食い物が食べたい。
袋ものや衣服をいい加減手に入れたい。
一度意識してしまうと、自分の抱く欲望は限りがない。
物質文明の極致のような現代日本から、ここへ来たのだ。
足りないものが多いというよりは、ない。
ないから一から作ろうとなるだけで、あれば欲望が噴き出す。
結局しばらくして、強制的に自分で考えることをやめた。
きりがないからだ。
こうして、風景を見るともなく、ガシガシ歩く。
どうも風景を楽しもう、という余裕を自分は失っている。
困ったもんだが、会話もなく人とも会わずにここまで来ている。
どうも、この辺の精神的な部分はまだ傷ついたままなのだろう。
そしてこの辺が癒されるのは、人との交流のみなのだろう。
だから、警戒心が散漫になる。
見れども見えずというのを地で行くやりようだ。
乗用車を運転していれば確実に事故っている。
こういう感じにパニックになるのは本当に危険なのだ。
ただ、今のところ、これがフラグになったりはしていない。
つまり、結構見通しがいいはずだが、町の影は発見できない。
だいぶこれで下流に来ているはずである。
町を見つける前に、海に出てしまう恐れができた。
もし、海に出てしまったら、塩をとる仕組みを考えていこう。
塩がうまくとれたら、新拠点ヨシオに戻ってもいい。
この塩を商売道具にできれば、結構儲かるのではないか。
海で漁もできるだろうし、豊かに暮らせるはずである。
ひょっとすると新拠点ヨシオも、昔はそうやって暮らしていたのかもしれない。
それがあるとき、何かの事情で村ごと放棄した。
そのまま、船で海に出てどこかへ逃れていった、とか。
この話の通りなら、近くに大き目の町などはない、ということだ。
いやなことに気づいてしまった。