異世界転移の錬金生活523 因幡のこと
おっさんは気が進まないながら、スクに例の件を聞くことにした。
イナバのことである。
因幡というのは、稲葉、印場というのも地方によってはある。
こういう漢字の違いというのは、好字を作ったときに決められたものだ。
実際はイナバという意味の土地が各地にあるイメージでいいと思う。
イナリやイナホとのつながりもゆるくある可能性がある。
INN-ABAという音節の切り方をする可能性もある。
これはINN-ARIもそうだし、INN-AHOもそうだ。
つまりヤマト言葉ではなく西洋由来という可能性である。
日ユ同祖論や日シュメール同祖論の関連だ。
アバの中に、という意味なのかもしれない。
ABBAというバンドが昔いたよね。
もしくは、イスラムのアッバース朝ペルシャかな。
おっさんはそれ以上はなんもわからんぞ。
悩みだすと、こういう話はきりがない。
まあ常識的にシンプルに考えると、稲の場だよね。
田んぼの古いいい方だ、とするのが妥当じゃないの。
各地にあるのも、この意味ならば問題ない。
スクがこれを知っていれば、万事解決ということになる。
つまり、イナバ自体にはさほどの意味はない。
逆にイナバに妙な意味づけがあるとおっさんが困る。
先行きにはそもそも不安がある。
オオナムチは幸せになったのだろうか。
日本の英雄ってどうも苦労の末うまくいかなくなるイメージがある。
ヤマトタケルが確かそうだった。
まあ、今は雪ウサギ様については保留だ。
どんどんやればいいというものでもない。
仲間として受け入れるなら、準備がいると思う。
ホノカちゃんは新しくティムしたと勘違いした時、すごい怒っていた。
こういうことを勝手に進めるのは、いかにもマズイだろう。
ホノカちゃんは温泉には行きたがる。
雪ウサギ様のことはともかく、イナバのことをスクに聞くのはすぐできそうだ。
どういう意味で普段使っているか聞けるだけで、とりあえずはよしだ。
そう思っていた。
スクに聞いたら、オババに説明された、といってこういった。
古代に忌部氏という呪術を盛んにやっていた氏族がいるよな。
このイナバというのも、こういう呪術的な場を意味する言葉だそうだ。
オババが村にやっていたあの結界を張るような動きが、まさにソレだそうだ。
コメなんか全然関係ないそうだ。
だから漢字としても因や印、忌を使っている、ということだ。
イナバに妙な意味づけがあるとおっさんが困る、といったじゃないか。
まさにそのど真ん中だったというわけだ。
不吉だ。
幸せになれるなら、イナバなんてわざわざ断わらないよな。
そもそもさ、イナバのシロウサギはどうしてサメにケンカを売ったのかな。
穏便に済ませる方法はあったと思う。
回り道なぞいくらでもあっただろう。
人間に助けを求める雪ウサギ様というのが、そもそも想像できない。
サメともワニともいわれているが、我々が知っているあの生物なんだろうか。
サメのような悪魔のような何者かとの戦争で瀕死だったみたいな話じゃないよな。
実は、人間の戦争を動物のもめ事として描写を緩和しているのではあるまいな。
これをうまく収めることで、オオナムチとして政治家デビューしたのかも。
これをおっさんに求めてもらっても、どう見てもムリだぞ。
いよいよおっさんが不幸になるビジョンしか描けない。
雪ウサギ様の話はこの辺で終了して、ホノカちゃんと温泉を楽しんだ。
スクも別段いろいろ聞かれたことを不審に思っている様子はない。
グレゴリーズに聞いてはいたが、ジビエ料理も含め実に快適だった。
スクはやっぱりよく気が利くいいヤツであった。
いつも通りの経路でホノカちゃんと帰還した。
この辺は慣れないけれど、確かに温泉はありがたい。
この気持ちよさに紛れて、雪ウサギ様関連は忘れてしまった。
おっさんの脳みそはこの程度である。
グレゴリーズに聞けばいいって。
聞くと妙なフラグが立ちかねない。
日本の古代にいろいろ知識がある人たちだけに、聞くのがこわい。
身もふたもない真相は、おっさんをへこませるだけだ。
いい加減に今までのことがあれば、おっさんも悟るよ。
状況が一変するようなことがあれば、イヤでも対応せざるを得ない。
それまで、雪ウサギ様や例のカギについては保留でいいだろう。
カギについてもどうも決心がつかない。
グレゴリーズが以後何もいってこないのも気になるし。
まあ、おっさんの意思次第と思っている可能性は高い。
そのあとやっと、グレゴリは戻ってきた。
おっさんは今までどうしていたか聞き出した。
ロートル町の娼館はどうも限界らしい。
ワカ町の娼館には一回も行っていない、といっていた。
ホノカちゃんは嬉しそうだ。
その流れで、雪ウサギ様については討伐できているか聞いた。
自分の巣箱がないから、今まで討伐できていない、といっていた。
危険なのでそろそろどうかと、どるぎも思っているようだ。
困ったことに、状況は以前と変わっていないようだ。
雪ウサギ様用の巣箱は倉庫にある。
おっさんは決心した。
とりあえず、雪ウサギ様を見に行ってみるか。
グレゴリがどういうかわからないが、状況次第では救出の真似事でもしてみる。
これによって事態が大きく進展するかもしれない。
もう五匹も葬ってきたのだ。
グレゴリもいい加減丸くなっている可能性はある。
無益な殺生をヤツも望んではいないだろう。




