異世界転移の錬金生活514 初の温泉
おっさんは意識を取り戻した。
モ〇ルポッドからやっとの思いで外に出た。
服を身につけて、その辺りでうがいがしたいと強烈に思った。
ホノカちゃんはそばで自分を見ていた。
小川の流れる音がして、おっさんはそこへ向かった。
ホノカちゃんはおっさんにスリスリしてきた。
無意識におっさんは、ホノカちゃんの頭をナデナデした。
ホノカちゃんはピヨピヨ喜んでいた。
おっさんは周りも確認せずに、小川で自分の欲求を満たした。
つまり、手を洗い、口をゆすぎうがいをし、のどの渇きを潤した。
おっさんはホノカちゃんに注意を払ってさえいない。
とにかくのどの酸っぱい感じをどうにかしたかった。
いつものルーティンでもある。
ホノカちゃんも別に不審に思う様子もない。
違うのは辺りの状況であり、今までいた場所とは全く違う。
新拠点ヨシオ周辺は、相当みどり豊かな土地に生まれ変わっている。
今気づいたが、この辺りの状況とは全く逆である。
硫黄の臭いが相当きつい。
草木の生育も若干悪いような気がする。
岩場もむき出しで、苔の生育もあまりよくないようである。
新拠点ヨシオ周辺は、からっと涼しい気候風土だ。
それよりは、気候はやや蒸し暑いか。
小川の水には全く異常はない。
硫黄そのほかの味がしたりはしない。
そうでなければ、のどの渇きを潤したりしない。
泥川なんかより、よっぽど飲める清水である。
水の温度か、ややぬるいのかもしれないが、気になるほどではない。
人心地ついたところで、おっさんは温泉を探そうと思った。
ホノカちゃんは、おっさんが元気になってきたのを知って嬉しそうだ。
ひょいっとモ〇ルポッドを担ぎ、てくてくとおっさんの隣を歩き始めた。
映像としては、はなはだ異様な感じである。
しかしこの状態で大気圏を突入できるのが、ホノカちゃんなのだ。
硫黄の臭いを頼りに、一人と一匹はてくてく歩いた。
正確には、ホノカちゃんの確かな足取りにおっさんがついていく感じだ。
どうもグレゴリーズに相当いい含められているような気がする。
もうある程度は、彼女の中で場所の特定も済ませている可能性がある。
その証拠に段々硫黄の臭いがきつくなり、小川とは別の水の音がし出した。
すぐに視界が開けて、蒸気と水の音が鮮明に辺りに響き始める。
あったぞ、温泉らしき湧水が。
どの程度の温度かにもよるが、すぐに周囲を石で囲って試したいものだ。
ホノカちゃんに助けてもらって石を集め、それをせっせと積み上げた。
さっきの清水のあるあたりに戻って、そこからここへ水を引いてきた。
どう見ても、水を埋めながら温度を調節する必要があるためだ。
石と石の間を漆喰のようなもので埋めて、温泉露天風呂の完成である。
モ〇ルポッドには今回、例のクワが装備されている。
あと試験管に似たものを持たされている。
温泉成分を分析したいから、入れてそのまま持ってくるようにいわれている。
温泉の場所に関しては、ホノカちゃんが覚えるから問題ないといわれた。
おっさんはいらん、とかいわない。
おっさんはいるのだ。
覚悟を決めて未知の温泉露天風呂を味わうという神聖な任務が。
想像以上にこわいぞ、これが。
そしてホノカちゃんでは、人類の身体にいいかどうか全くわからん。
ホノカちゃんは魔物なので、結構いろいろ耐性があるのだ。
見た目に騙されてはいけない。
しかしおっさんは愚者なので、スッキリ全裸になって飛び込んだ。
そもそも覚悟を決める期間はあったのだ。
いいんだ、死んだって。
温泉露天風呂に殺されるならいい。
イヤ、むしろ気持ち良さで昇天してしまうかもしれない。
すぐにホノカちゃんもスッキリ全裸になって飛び込んできた。
イヤ、ロリコンとかいわない。
健全ですよ、どう見ても。
娘とおやじのお風呂シーンですよ。
ほほえましいでしょ。
見た目に騙されてはいけない。
変な目で見る人は魂が穢れているので、神社でお祓いをしてもらってね。
そういうわけで、試験管のことはすっかり忘れて、おっさんは楽しんだ。
ホノカちゃんも楽しんだ。
それでいいじゃないか、結局はさ。
試験管には、おっさんやホノカちゃんの茹で汁や何やが入っちゃったけどね。
どうもグレゴリーズにはわかるみたいよ、スゴイよね。
このあと、おっさんは大変なことに気づくけどね。
石鹸やタオル、手ぬぐいの類を全く考えていなかった。
いわゆる、銭湯セットというかお風呂セットというか。
グレゴリーズも浄化の魔法があるから考えていなかった。
まあ、モ〇ルポットには浄化機能が標準装備だからね。
結果としてビチャビチャの状態のまま、弁当を食い寝たんだ。
モ〇ルポッドの中でね。
モ〇ルポッドは、一人と一匹の居住空間としてはまあまあである。
ホノカちゃんは身体が乾いたなと思ったら、外に出ていった。
飯の調達は相変わらず外で、ということらしい。
そんなわけで、翌日は起きてすぐホノカちゃんは外に出ていった。
おっさんも弁当を食った後、帰ってきた彼女と温泉露天風呂を楽しんだ。
そのあとはモ〇ルポッドの中で一人と一匹で二度寝した。
昼過ぎに、覚悟を固めたおっさんとホノカちゃんは帰還の旅に出た。
いそいそとおっさんはモ〇ルポッドに乗り込んだ、全裸で。
ひょいっとモ〇ルポッドを担ぎ、ホノカちゃんは宇宙へ飛んだ。




