異世界転移の錬金生活504 高級絵画
残念なお知らせがある。
フデ〇ラベのような現実を変えてしまうスキルは芽生えなかった。
やっぱり妙なスイッチを押さないと自重を捨てたこういうスキルはムリだそうだ。
ただ浄化の魔法は、ゆすいで使い終わるたびにかかっている。
これは地味に便利だし、墨のついた筆の穂先を傷めない工夫である。
サクヤさんはすぐに見事な日本画を、その辺の紙にさらっと描いていた。
ある種、そういう意味では妙なスイッチを押された人はいる。
実に嬉しそうである。
私の宝物ができた、とかいっている。
あれ、そういうこと。
おっさんがちょっと文字でも書いて、版木にしようとしていただけなのに。
プレゼントしたつもりもなかったけど、こうなったんじゃしょうがない。
それに、この日本画を版木に起こせば結果として万事オーケーである。
この手の版画絵を集めて、北斎先生のようなノリで売り出せないかねえ。
宇宙人の描いた絵が結果とんでもない巨匠の作品扱いになったらおもしろい。
この絵にはポテンシャルは十分あると思うんだけどな。
版木として起こしていきながら、そんなことを思った。
ヤバイな。
これ、版木のデキが責任重大じゃないの。
タロットカードのように、色味がいまいちなどといわれてしまうとまずいだろう。
色の調合とスキルを挙げないと、前世の版木職人に完全敗北してしまう。
今世の北斎先生を芸術方面では何とか守らなければならない。
いやあ。
カグヤさん辺りにお任せしたいような気分になってきた。
でもカグヤさんは版木製作は専門じゃない、とかいって逃げそうだ。
おっさんにはそういう専門性はないから、なんでもありだ。
それからはちょっと本気で取り組んでしまった。
多色刷りはきちんと合わせるのがそれなりに難しい。
摺り師も兼任している状態のおっさんは、その辺も頑張った。
いつの間にか、みんながそこで自分の仕事を見ていた。
以前はローテクで興味もなさそうだった。
多色刷りは少しずつ色が乗っていく感じが楽しい。
一枚できると、ウオーと雄たけびが上がった。
まあ、ククリさんの声だとすぐに分かった。
完全コピーできる宇宙人は、普通この苦労はいらない。
しかしこの苦労はおもしろい苦労だから、おっさんは好きだ。
売り物になるレベルかはわからないけど、できあがる喜びはある。
サクヤさんは今回はまあよし、と納得してくれた。
それにこれなら、ダンザおやじに渡したら商売もできる。
ちょっとした現金にはなるだろう。
ただ今回はあくまでも今世の北斎先生を守らねばならない。
版木を直接渡してしまうのは、ちょっと違うかもしれない。
以前のような騒ぎは避けなければならない。
ただ大量に流通させたいため、結局時期を見て任せる感じにはなるけどね。
金持ちになったダンザおやじは、その辺り融通が利く。
よく考えると宇宙人は神様なんで、神様の絵が神がかってるのは当たり前か。
人間の北斎先生と比較するのは、実は失礼なのかもしれない。
あくまで北斎先生が人間だった場合の話だけど。
北斎先生の逸話はどれも、生活力が壊滅的でまともな人ではない感じだけど。
むしろ、あんな生活でよく百歳近くまで生きたもんだと感心した覚えがある。
だから人間じゃなかったとしても不思議ではない。
戯言はともかく、生活がダメな人というのはスゴイ人に思われやすい。
ダメな人が何とかそこまで生き延びるにはなんかあるはずだと勝手に思い込む。
そういう思いを踏みにじって、自分のようなダメな人が何もなく生きている。
いやあ、きついですね。
非常に迷惑なのは知っています。
その後の流れである。
ダンザおやじは意外とまだまだ脂ぎっていた。
鼻息が荒いし、また商売の予感に震えているようだった。
金持ちになったんだから落ち着けよ、と思ったが、おっさんも自分がそうなったら落ち着ける自信はない。
きっともっと金の魔力にとり憑かれるに違いない。
欲深くなるというよりは、欲の展開が以前より速くなるんだろう。
金があることで、できることが増えてしまうというか。
おっさんはちょっとイヤな予感がした。
サクヤさんの日本画版画は結構な高値で売れた。
版木はいずれ渡すといったら、当然、摺るだけ摺って売ってくれ、と鼻息が荒い。
他へも卸すぞといったら、贅沢品専門の商人が扱いたがるから行け、といわれた。
まあ、ここら辺も結局裏ではつながっていた、みたいなオチだった。
贅沢品専門の商人にも順調に高値で売れた。
娼館へ貢ぐかどうか悩むぐらいのまとまった大金が手に入った。
相変わらず、贅沢品専門の商人は何ともいえないもやっと感を感じる対応をした。
苦労してレベルを下げた作品にあえて美を見出す文化だ。
金継ぎのように不完全な壊れ物にあえて手を入れ美を見出すのは自分に似ている。
ワビサビは自分には難しいが、禅の世界だろう、といわれた。
褒められているのかどうなのか、わからんいい方である。
娼館へ行って命の洗濯をせざるを得なくなった。
自分としては今回黙って帰るつもりだったのだ、何もなければ。
会った後なんだか後悔したような気分になるのは、例の兄ちゃんの特技である。
娼館は自分の料理を納入してもらえるので普通に喜ばれたけどね。
ああ、勘違いするなよ。
ちゃんとたまった状態だ。
文句でもあるのか。
バカなガキは、いつまでたっても成長なんかしないといったろ。
金を使ってバカだなと思っても、バカな自分を変えられるわけじゃない。
ここは我慢して金を節約しようとか、そういう自分になぞならない。
これはサクヤさんの金なんだから、今使ったらダメだ、とかね。




