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異世界転移の錬金生活503 筆と硯

 おっさんは今、和紙と筆を作ろうとしている。

まあ、昔ちょっとやっていたのを思い出したのだ。

バカなガキだったおっさんが、唯一オトナの先生に褒められたのが習字だった。

まあ、書道というヤツである。


 版木を起こす過程で、文字に迫力を出したい。

ここで重要なのが、書道の筆遣いと勢いである。

今までの文房具では、この辺りがどうしても難しい。

困難だが、筆だけは何とか完成までもっていきたい。


 書道で使うような和紙を本気で作ろうとすると、これはこれでいばらの道だ。

パピルスに毛が生えた程度で、とりあえずはよしとしたい。

しっかりほぐした植物の繊維を複雑に絡ませるのが、とりあえず重要だ。

結局は版木に固定して彫っていくガイドになれればいい程度だ。


 いざとなれば、模造紙や稿半紙のような紙は存在する。

ムリして和紙まで開発しなくとも、版木に張り込む程度は可能である。

やはり急務なのは、墨をつけて文字をかける筆である。

もっというと、木炭か灰を使って墨づくりをしないといけない。

粘度を出し固着するために、動物性の膠がいると思う。


 いろいろ考えていくと挫折しそうである。

一つ一つできそうな素材から集めることだ。

動物性の膠や筆に使える毛髪なんかは、ロートル町のどるぎに頼めそうだ。

クマの子供から採取する方法もあるが、なんだかかわいそうだ。

毛髪がなくなってへこんでいる子供を見たくはない。


 あとは筆の軸部分として竹を加工しよう。

この辺りは教わりながら作成できるであろうから、ひどいモノにはなりにくい。

問題は、動物の毛髪をいかにうまく植えられるかである。

例のホウキの時の苦労をまたする羽目になりそうだ。

しかも今回は結構な精度を保たないと、まともに使えないシロモノになる。

穂先を調えるのも、相当な苦労が予想される。


 うまい方法はないものか。

宇宙人には、こういうローテクな製法は逆に期待できない。

そもそもなんでそんな苦労をしているのか、という説明から難しい。

ある程度形になった後、いろいろフォローが入る可能性はある。

この辺りの感覚は、農機具の時と同じである。


 よく考えると、この筆ってアイテムは危険じゃね。

いろいろフォローが入る、と簡単にいっているが、何が起こるか想像できない。

昔オ〇カミというゲームソフトがあった。

そこに出てきたフデ〇ラベというスキルは、文字通り現実を変えるツールだった。

丸を書いたりすると穢れは払われ、緑や花のあふれる大地が生まれる感じだった。

おっさんは年甲斐もなく号泣してしまったのを覚えている。


 ヤバイぞ。

この魔法的なアプローチで現実を変えてしまう感じはヤバイ。

むしろ宇宙人にとっては得意なアプローチではないか。

言霊信仰というか引き寄せ信仰というか、はなはだ今流行りのヤツでもある。

描いてしまったものは現実となる。

言葉になってしまったものは、現実を縛りつける。


 この辺りは、おっさんにとって功罪があると思っている。

日本の古代史がはっきりしないのは、おおむねコレのせいである。

はっきりしないから史実でないという教育を、我々日本人は長く受けてきている。

大学の先生から何から、みんながこういう思想にとり憑かれている。


 世界でもまれな長い歴史を持っている日本人が一番自分たちの神話を知らない。

これは思っている以上に、日本人にとって問題がある。

ルーツを知らない民族は滅びる、と西洋人は警鐘を鳴らしている。

こういった教育を押しつけた当の西洋人がいっているのだ。

西洋人は、はっきりしないからといって聖書や神話を捨てたりしない。


 ネガティブから自由に、執着を手放しするという発想。

ネガティブな感情から気づきを得るという発想。

ネガティブな感情をバネにして戦い続けるという発想。

何が正解なのか誰かに決めてもらう必要があるのか。


 なんにせよその時々の感情を受け入れていくのみで、コントロールはしない。

そうかと思うとネガティブな感情は感じないようにせよ、手放せなどと言い出す。

過去に受けた傷やケガが、精神肉体問わずその後を決めるので結局逃げられない。

スピ系オトナは、いまだに肉親との関係に悩んだり顔を整形したりしている。

なんだか自分で自分の人生を決めていく積極性が感じられない。


 よし終わり。

おっさんの日課、毒を吐く時間は終わりだ。

どうせダメなおっさんの戯言なので、勘弁してほしい。

引き寄せ信仰で実際幸せになっているオトナに、文句はもちろんない。


 問題は筆というアイテムの是非である。

今のところ、素材を集めきってさえいないのだ。

宇宙人がどういう風にするか今から悩んでも結局自分ではコントロールできない。

運を天に任せて、自分の出来そうなことをゆっくりやろう。

フデ〇ラベに関しては、できるものならちょっとやってみたい。


 おっさんの謎の情熱は、結構続いた。

おかげで結構なレベルの筆が完成した。

竹の軸は漆でしっかりコーティングしたので高級感もある。

そうそう、墨は木炭と灰、漆を混ぜてみたらそれなりのものができた。

これを手を真っ黒にしながら膠で固めて完成した。

知らないうちに、漆でカブレない体質になっていた。


 最後まで思うに任せなかったのは、筆の穂先部分である。

そうとう器用に押し込まないと、ちゃんと機能するような穂先にならない。

一本一本の毛髪も微妙に太さ長さが違うため、そこを揃えるところから職人芸だ。


 結局、ククリさんが空間を微妙にくくって押し込んだ。

穂先部分はカグヤさんがなんかの植物を操ることで太さ長さを揃えた。

おかげで穂先部分が非常に腰がありながら繊細な書き味に仕上がっていた。

触ったこともないような高級筆になってしまった。


 硯は見たことがあるサクヤさんが土をこねたりして作ってしまった。

石のように硬質化したのはククリさんである。

サクヤさんも、絵を描くとき等に硯が欲しいと思っていたようだ。

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