異世界転移の錬金生活502 アラクネ登場
おっさんは悲しい。
アラクネさんはみんなから、おっさんには気をつけろといわれている。
なんだというのか。
気をつける必要などない。
おっさんには最後まで、彼女の存在は隠されていた。
ちょっと病弱系美少女キャラだから、おっさんは好きに違いない。
孕まされてからでは遅い、とか大きなお世話である。
邪念で形まで変えられてしまうとか、いらんことをいうな。
ちょっと料理が得意な、かわいそうなゴブリンだ。
指輪物語のゴクリみたいなもんだ。
いとしいしと、とかブツブツいっているだけの。
実は全然、手を出す勇気なんぞない。
そうだからこそ、グレゴリーズは万事無事である。
ピクシーちゃんだって、一緒に寝ても何の問題もない。
クマままだって変な展開になぞならない。
せいぜい夢の中でちょっと相手してくれるだけだ。
そうだな、唯一危ないのはクマの子供二名だな。
手籠めにされて、毎日ナデナデされ続けてしまうかもしれん。
テディといいながら、キモチワルイ迫り方をしているヤツがいたが。
ああいう可能性はないとはいえん。
ミツバチさんやウズラさんは、生産者の鏡だ。
本人たちに自覚があるかはわからんが、自分はそういう性的な目では見れない。
以前ちょっとした冗談に使った記憶はあるが、あれはあくまで本気ではない。
さすがにそこまで変人ではない。
え、言い訳がましいから、かえってアヤシイって。
いやいやいや、待ってくれ。
おっさんは結構ノーマルなんだよ。ほんとだよ。
変態的でキモチワルイのは、きっとこの目つきのせいだよ。
え、意外と自覚がないのが、かえって変態だという証拠だって。
そんなことをいい出したら、みんな変態でキモチワルイが結論になっちゃうぞ。
そういう不毛な議論はやめようよ。
自然体で行こうよ、そうすればきっとみんなで幸せになれるよ。
まあそんなわけで、アラクネさんをやっと紹介された。
ピクシーちゃんは最後まで、抵抗していたみたいだ。
だから、何でトモダチ出来たのにおっさんには紹介しないの。
クマままのときも、教えてもらうよりバレる方が早かったよね。
アラクネさんに関しては、どうもいろいろあったみたいだ。
相当ケンカしたらしく、クマの住処のあたり周辺がちょっと焦げている。
もちろん上手にごまかしてあるけどね。
あと、気づかぬうちにアラクネさんの拠点も築かれていた。
まあ、普通にクモの巣である。
そうとう広大な領域をカバーしている時点で普通じゃないけど。
どこに敵が侵入しても、すぐに察知して動けるそうだ。
正直、運動会の時はユニフォームを着ていたので気にならなかった。
しかし病弱系美少女顔なのに胸部装甲がでかい。
ここがピクシーちゃんとの大きな違いである。
けしからん話であるが、事実なのでおっさんは隠さない。
ちなみに魔物なので、アラクネさんも普段は隠さない。
ピクシーちゃんはやっぱり、そんなおっさんを見て怒っていた。
グレゴリーズに慰められていて、なんだか申し訳ない気持ちになった。
やっぱり、という目で見ないでくれ。
でかい胸部装甲を見ないようにするのは、結構な苦行なんだ。
イヤらしい目で見てしまうのは、バカなガキの本能だ。
逆にアラクネさんは、全然イヤそうではなかった。
普通は、イヤらしいおっさんにこういう目で見られるのはイヤなはずなのに。
妖艶な笑みを浮かべていて、病弱キャラが崩壊していた。
絡新婦というワードが浮かんだ。
娼館にいるような気分になって、逆に我に返った。
好きになったら喰われてしまう。
自分の息子がオトナの中に入るとき、実はガキの側には喪失感がある。
自分の息子が食べられてしまった感が実は漂う。
ガキが必死に動くのは潜在的に息子が食べられていないか確認しているわけだ。
中に入ったまま根元からボソッと抜けてしまうのを、ガキは何より恐れている。
オトナの側には逆に受け入れていく感覚があるだろう。
ガキについている息子を食べて、お腹に宿す。
食べて死んで、宿して生き返る。
ガキには残酷で神秘的な瞬間であると思う。
絡新婦は、アレしたあとどうなるんだっけ。
ガキはそのまま許されるんだったか。
ガキは許されずに、そのままオトナの養分になるんじゃなかったか。
好きになったら喰われてしまう。
アダムになったおっさんは、エヴァを探して子孫を残したい。
しかし自分の死後にエヴァと子供が残されるのは、おっさんの本意ではない。
ちなみに、アラクネさんの子供がクモかどうかは、おっさんにはどうでもいい。
家族的な幸せをおっさんは味わいたいだけだ。
ピクシーちゃんは気がもめたかもしれないが、おっさんは大丈夫だ。
意外とこの辺りは、年の功で惑わされない自信がある。
単純にビビりで奥手になって、バカなガキむき出しではないだけだが。
今の家族はピクシーちゃんだ。
ピクシーちゃんを呼んで、頭をそのままナデナデした。
ピクシーちゃんは、ピヨピヨないて喜んだ。
寄ってきてスリスリ攻撃を繰り出した。
アラクネさんはあっけにとられたようにおっさんを見た。
ちょっと悔しそうにした後、プイっと横を向いた。
よかったよかった。
変な誤解をされないのはよかった。




