異世界転移の錬金生活422 飛び出せ宇宙へ
グレゴリーズにとうとういわれてしまった。
宇宙空間に飛び出せるかどうか試したい。
おっさんは思わず、だれが、と聞き返してしまった。
天羽衣の実験の中で、そこだけが未検証だ、といわれた。
ピクシーちゃんの話か、よかったよかったと安心していた。
おっさんは甘かった。
ピクシーちゃんがこわいからおっさんと一緒に試す、といって聞かないそうだ。
おっさんはまた、どうやって、と聞き返してしまった。
飛行用拘束具も未検証だから、併せて実験する、といわれた。
おっさんはちょっと涙目になりながら、反論した。
飛行用拘束具は宇宙に行くには問題が多すぎる。
まず、おっさんは大気がある普通の状態でも生きた心地がしない道具だ。
この状況で宇宙空間に放り出されたら、パニックになる自信がある。
絶対生きて帰れない道具になってしまうぞ。
グレゴリーズは、なぜか頑なだった。
飛行用拘束具に関して問題が山積している自覚はある。
そのためにも検証実験は必須。
むしろここを通過しないと、いつまで経っても今の状態が続く。
おっさんはここは我慢して犠牲に。
いかんぞ。
学究肌な感じのこだわりがいかんぞ。
実験のためにおっさんは犠牲になるストーリーが見える。
完成したが当の本人がいないというオーヘンリーの小説のようなほろ苦さが残る。
宇宙空間での戻したモノの行方は、いったいどうなるのか。
それをのどに詰めて死ぬというような話は、断じて拒否したい。
だいたいピクシーちゃんがこわがってるなら、やめたらいいのだ。
ムリに強行するメリットが、ユーザー側に一切ないではないか。
しかしそういったら、ピクシーちゃんはおっさんが一緒にやるならイヤじゃない、といったそうだ。
かわいいことをいうじゃないか。
おっさんはそういうのに弱いのだ。
結局何もいえずに実験の当日となってしまった。
ピクシーちゃんは、明らかにニコニコ嬉しそうである。
おっさんはこの辺りで、あれっこれはハマってる、と違和感を感じた。
おっさんの反論なぞ予測の上で、ピクシーちゃんと口裏を合わせて交渉していた。
最初から実験とは、飛行用拘束具の宇宙空間における検証実験ではないのか。
ピクシーちゃんの天羽衣の方がむしろ付け足しなのでは。
実験は地獄だった。
熱いような寒いような死ぬような生きるような意識があるようなないような。
臭いような酸っぱいような身体から抜けていくような入っていくような。
様々な状況が矢継ぎ早に、おっさんの身体と心にダメージを与える。
ピクシーちゃんは当然のようにノーダメージだった。
おっさんはいつも瀕死だったが逆にいえばそのせいでそれ以上のことはなかった。
生命維持装置は、そういう意味でも謎の高性能だった。
この間に何度も輪廻転生を繰り返していたと後でいわれても、自分は納得する。
しかしそのおかげで、ある新規開発計画が発動した。
おっさん専用モ〇ルポッド(操縦機構付き)だそうである。
おっさん専用試作型モ〇ルスーツではなかったようだ。
まあ与えられても壊すのがオチである。
騎乗するときは、服を脱ぎ全裸になる必要がある。
おっさんの防御力は文字通りゼロである。
なぜかって。
ひどい居住性能で、戻し続ける状況は変わらないからだ。
戻したモノがそこにとどまり続けないように、神経を尖らせている。
どうせ大して防御力のない服は、そういう意味でも邪魔なんだそうである。
操縦機構付きがカッコつきとなる理由は引っ張るのはピクシーちゃんだからだ。
操縦はできるけど、というニュアンスである。
もちろんおっさんにも異論はない。
いざというとき操縦できるのは安心材料ではあるがうまくやれる自信は全くない。
まあピクシーちゃんが自信を深めていく姿を見ると、まあいいかとなる。
ピクシーちゃんは、生命維持のためフルフェイスのようなものを頭にかぶる。
なんだか戦隊モノの赤のヒーローのようである。
ちなみにおっさん専用モ〇ルポッドも血の出るような赤に統一されている。
龍神が珠を持っているだろう。
イメージソースはあれだよ。
今はサイズ感がおかしいが、ピクシーちゃんが大きくなれば解決だ。
グレゴリーズに笑顔でいわれた。
外から見ている分には、すごくカッコいいらしい。
宇宙空間でピクシーちゃんが大きな珠を従えている感じとかが。
中で全裸のおっさんが瀕死の状態だ、なんてわからないからな。
大気がなくても、ピクシーちゃんの羽根は飛べる性能なんだそうだ。
それを天羽衣が補って性能アップさせているそうだ。
おっさんには特にメリットはない。
宇宙に行って、しないといけない用事なんてないからな。
しかし宇宙からの眺めという得がたい感動はある。
ピクシーちゃんとそれを分かち合って、結構興奮してしまった。
異世界の地球も前世と同様、実に美しかった。
グレゴリーズもホクホクしている。
おっさんの犠牲により、結構有用なデータが取れたそうだ。
どういたしまして、とイヤミに答えるしかなかった。
あれっこれはハマってる、と違和感を再度感じざるを得ない。
ピクシーちゃんと直接意思の疎通ができない自分はこういう場合泣き寝入りだ。
ときどき宇宙空間へ出て、異世界の地球を眺めてお月見のような気分に浸る。
しかし、いい経験をさせてもらったと素直には喜べない、飛行機具の数々である。
ちなみに、このモ〇ルポッドは宇宙限定ではなく汎用型である。
内部に戻したモノ等を保管しておけるスペースまである。
ちなみに地上に戻った時に、海に排出され浄化の魔法がかかる。
以前の飛行用拘束具の方は簡易版という扱いになった。




