異世界転移の錬金生活410 沖合に出る
きっかけは、カグヤさんの一言だった。
カツオ節はどこにあるの。
周囲の人間は宇宙人も含めて、あっまた始まった、という反応だった。
おっさんはみんなを代表して、さぁ、と答えた。
チクワとかハンペンとか魚の練りモノが欲しい。
ソードフィッシュとかで作ってみるか。
以前におっさんはこんなことを考えた。
考えただけで終わっている。
よくよく考えてみると、まずカツオ節であろう。
製法など全く知識がなくて恐縮だが、確かに和食といえばコレだ。
豆腐を食べるときに、何か足りないと思いながら生姜に醤油をかけていた。
そしておっさんは、海の沖合での漁法を今まで封印してきた。
理由はいうまでもない。
まず、しっかりした船がない。
海の沖合に生息している生き物に、危険しか感じない。
一本釣りのような原始的な漁法で、この荒海を生き抜くヤバイヤツをどうにかできるかわからない。
前世でだってカツオやマグロの一本釣り漁法は、命がけのギャンブルだった。
ギャンブルの意味合いが、前世と今世で微妙に違う気がするけど。
前世のまともな海の生き物は、海獣のような魔物のせいでほぼ絶滅している可能性さえある。
クラーケンとかいないよな。
ダイオウイカとかさ。
シャチやサメ、ウミヘビ等、前世とはいろいろサイズとかが違ったりしてな。
海竜の類がそのまま生きていたりしないだろうか。
ピー〇ケだったら、おっさんは殺されても許すぞ。
アシカやトド、イルカやクジラがちゃんと生息してるんだろうか。
どうしような。
正直こういう展開は予想していなかった。
海の沖合でのカツオの一本釣り漁法なんていうのは、考えたこともない。
でもそこを何とかしないと、カツオ節は今世で手に入らない。
しかも一匹なんとか捕まえても、それで終わりとはなりそうもない。
カツオ節はどう見ても、和食においては消耗品の類である。
使い始めたら何本いるか正直自分にもわからない。
厄介なことを思いついてくれたものである。
まずじっくり、できることからコツコツと、である。
船がないと始まらない。
ということで、まず目の前で設計図を引き出した。
あわよくば、宇宙人たちの謎知識を引き出そうとしているのはいうまでもない。
おっさんに対する宇宙人ルールを、なんとか回避していきたい。
しかし宇宙人たちはしぶとかった。
おっさんが船の設計図をシコシコ引いているのをじっと見ている。
ああ、船って何かと思ったら浮舟のことなのね。
浮舟が必要だったら呼べばいいよ。
浮舟から魚釣りはできないけどね。
どうも、宇宙人は根本的に理解できていないようだ。
天浮舟ってあの動力も不明で、聞いていいのかわからんシロモノだろ。
あれが当たり前の移動手段だから、自製作して自分で漕ぐという発想がない。
宇宙人たちの謎知識は引き出すのも難しい。
結局、例のタル作りのような苦労を自分はすることになった。
当然船を作るには、木材を曲げて固定し、防水する必要がある。
曲がらないし固定できない。
防水は何か適当な野草汁を塗布することしかできない。
この曲げる部分は、木属性のカグヤさんが全面的に協力してくれた。
固定は当然、ククリさんが力づくで空間を曲げてやっていた。
防水は、セオリツさんがコツコツ作った謎織物が役立った。
地面を緩やかに削って、スロープ状にしたドックは、サクヤさん作製である。
結果として、いつものごとくのデキになった。
自分で漕ぐといったら引いていた。
疲れるじゃない。
体力もない癖に。
まず体を鍛えるのが先だ。
いいたい放題だが、微妙に真実をついていてヘコむ。
櫂を作り始めた。
見ているうちに、みんなが結構真似して作り出した。
木材を削ったり竹を使ったり、人によって個性が出る。
結果非常にデキがいいものが、複数出来上がった。
それらは船の側面に謎の技術で固定される。
手漕ぎ式のボートが完成し、これで海の沖合に出られる。
いやあ、最初期の試行錯誤が懐かしい。
久しぶりに最初期のような楽しさをおっさんは味わっていた。
できたものが非常にスゴイのはおいておいて、である。
おっさんはもちろん危険がないとは一言もいっていない。
しかし、おっさんには昔いなかった同志がいる。
ピクシーちゃんである。
空から自分を防衛してもらいつつ、カツオの一本釣り漁法に集中する。
ダメなら、ピクシーちゃんがカツオに直接攻撃してもらう。
おっさんは、この場合指示応援係である。
そこ、いらんとかいわない。
ピクシーちゃんは、当初自分を防衛するために大空に羽ばたいた。
おっさんはカツオの一本釣り漁法に集中する。
小魚しかかからない。
前世のギャンブル要素が悪い感じに作用している。
もしくは気の小さいおっさんにはふさわしい相手しかかからない。
しかし唐突にアタリがきた。
おっさんは踏ん張り切れずに海に落ちた。
その後はどうなったかよく覚えていない。
こわっ、海の沖合こわっ。
ピクシーちゃんは、鬼神のごとき活躍だったそうだ。
大量の魚介類が、カツオとともにピクシーちゃんに殺された。




