西津 幸 にしづ こう
全員が部屋にいるスライム――幸を見ていた。
(消滅……。消滅はちょっと幸運じゃないかな~)
「ぴっきゅう……」
その悲しい音を聞きながら、エーミィも悲しい顔をして言う。
「あたしもそこだけがちょっと抵抗あって……」
「だってね、スライムってたぶん心みたいなものがあるの。偶然かなとそのときは思ったんだけど、あたしがピンチのときに助けてくれようとしたし」
「オレもそう思う。なんかこいつ、言葉が通じてるように感じること結構あるよ」
(コウ様、ちゃ~んと聞いてるぜ~)
「ぴきゅっ」
エーミィとガズのその説に、クロカイトは、
「我にとってはモンスターはモンスターだ。……ただ、そこまで気にするなら、こういう方法もある」
そう言って、魔獣使いの杖を取り出した。
「残り使用回数が1のものを拾い、後生大事に持ち続けている。スライムほどの低級モンスターであれば、この杖から出る魔法を当てることで、人かモンスターのどちらかが倒れるまで使役することができるであろう。町に連れ帰ることはできぬが、ここにいるかぎりは安全だ」
エーミィが心配そうに問う。
「そんなに大事にしているものをもらってもいいの?」
クロカイトは、フッ、と気取って笑う。
「我には不要なものだ。貧乏性の極みと思ってくれ」
しかし、彼は言ってすぐに思い出した。
「あっ、いかん。そのスライムは幸運が異常に高い」
ガズが首を傾げる。
「え? どういうこと?」
「いや、その……我の攻撃すら当たらないほど、運がいいんだ。おそらく杖の魔法も当たらない。そこの矢も、そいつがスイッチ踏んで避けまくったやつだ」
壁際には二桁に届かんほどの矢が落ちていた。
「マジかよ……。無傷じゃん。お前とんでもねーのな」
(だってコウ様だもんね♪)
「ぷふん♪」
「すげーけど、今はそれで困ってんの!」
ガズがツッコミを入れる。
横ですこし考え込んでいたエーミィが、おずおずと口を開いた。
「あの……あたし、クリティカルが結構出るんだけど。これって幸運のせいだったりする?」
「ふむ。それはたしかに幸運の影響だな。そうなると、お前がこの杖を振ることで、もしかしたらその幸運スライムにも当たるかもしれん。幸運値と、確率との勝負だな」
どうなるかはわからん、とクロカイトは言葉を結んだ。
「どうするかはお前たちが決めろ」
「うん――」
「当然やるっしょ。それしかないなら、やらないで後悔するほうが損だもん」
だよな?とガズは幸に言い、一緒に笑った。




