川副 真一朗 かわそえ しんいちろう
(あの少女が2人め――いや、奥に少年もいるからまとめて3人めもいいだろう)
ガズが前衛、エーミィが後衛で進んでいる、その背後を真一朗は見ていた。
真一朗は通路を進む。
最初の部屋の隣にも扉があるが、無視。
十字路も、エーミィをめざして一直線に、
突っ切ろう――としたところで、
「おお? ハイスライムではないか!」
(ッ!?)
十字路の左から喜色に満ちた声が響いた。
「なぜB1にハイスライムが? いや、そもそもこのダンジョンにスライム系は生息していない。なぜかあの部屋にだけ湧くのだが……ああ」
「なるほど、そういうわけか」
真一朗が見ると、そこには黒衣の男が杖を構えていた。
スライムが冒険者を倒してハイスライムとなったことを理解したうえでの、臨戦態勢。
(こいつはナメクジではない。速度は同格――)
殺人士・真一朗は一瞬で判断する。
(こいつを2人めとする)
「連日、モンスター図鑑の空きが満たされるとは、我はツイている」
ジュバッ。
真一朗より早く彼に気づいた黒衣の男が、先制で黒い雷を落とす。
(くっ、こいつは厄介だな)
(だが――)
冒険者に26ダメージを与えた!
(面白い。面白いぞ、この世界は)
前世では一方的な狩りばかりで、狩り合いは経験していない。
真一朗は、初めての高揚を覚えていた。
「ほう、さすがはハイスライム。B1レベルの冒険者ではひとたまりもあるまい」
ジュバッ。
(ははは、強いな。強いな!)
真一朗は生の実感を得ていた。
人間としてはついぞ得られなかった、この感覚。
冒険者に28ダメージを与えた!
「うむ、たしかにスライムよりだいぶ強い。だが残念だったな。あと一撃で我はお前を倒し、図鑑のNEWマークに変えてしまうのだ」
(まさか、わたしが負ける……のか……?)
真一朗がそう感じたとき――
「あっ」
黒衣の男が短く叫び、攻撃を停止した。
(どうした? なぜ戦意を失う?)
冒険者に25ダメージを与えた!
「……だ、駄目だ。これでは駄目だ」
黒衣の男は苦悩を始め、行動を放棄する。
冒険者に29ダメージを与えた!
(この殺人士を前にして、自分の世界に入り込んでいる……?)
「あの部屋に別のザコを持ち込んで……ああいや、スライムより弱いのは難しい……」
冒険者に52ダメージを与えた!
クリティカルヒット!
(こいつ、どこまで倒れない……)
「……駄目だ。詰んだ。我にはこのハイスライムを倒すことはできぬ」
冒険者に27ダメージを与えた!
(!? どういう、意味だ?)
「ドロップアイテム欄を埋める方法がなくなる。ならば、モンスター図鑑のハイスライムのところは空きのままのほうがまだ落ち着く。つまり、倒しては駄目なんだ」
黒衣の男は真一朗にではなく、自分に言い聞かせるように、言った。




