川副 真一朗 かわそえ しんいちろう
真一朗は2時間近くが経過しても、待ち始めた瞬間そのままの意識を維持していた。
意識を小型ナイフのように自在に操る――
それが殺人士としての真一朗だった。
(あと9人。数年、数十年と待つこととなってもわたしは構わないが……)
(どうやら前世とは違い、殺さなければ長生きできるような、悠長な世界ではないらしい)
スライムだからな、と真一朗は口の端で笑う。
待つ。
待つ。
待つ。
(来る――)
ガチャっ。
「スラちゃん可愛がってる~?」
「そろそろ俺らにも断末魔のおすそ分けちょ~だい」
(……違うな)
真一朗は2人を無視して扉をくぐった。
「あら? スラちゃんもあの新参もいねーじゃん」
「風のシルフ亭に戻ったか? あの不人気宿を選ぶあたりも初心者らしいってもんだが……あ、おい! 剣と鎧が落ちてる。これってまさか」
(あと9人だとして、そのうち2人をあいつらにするのは違うだろう)
死んだ冒険者の装備品に気を取られている2人は、倍速で移動する真一朗を完全に見落とした。
皮肉にも、それが彼らの命を救うこととなったのだった。
部屋を出た真一朗は、左右を素早く見る。
(――いた。あれなら合格だな)
右の通路の先に、真一朗はエーミィの後ろ姿を見つけていた。




