『薔薇騎士』は王妃殿下直轄ハニートラップ部隊です!
「ねえフローリエ。そろそろ、一仕事してみない?」
冬の最中にしてはやけに暖かい日、ヴァルデルバ王国の王城の一室で、七人の女性がお茶会をしていた。
一人は、王妃であるアーネスティン。
二人の王子と一人の王女を産んだ今も若々しい美妃である。
あとの六人は、いずれも少女。
令嬢らしい装いの者も、メイドか侍女のようなお仕着せの者もいる。
「……わたくしですか?」
アーネスティンが声をかけた少女――フローリエは、侍女見習いのお仕着せを着ている。
本来なら、同席しているはずのない彼女や他のお仕着せの少女たちだが、この場ではそれが当たり前だった。
「ええ、うちの娘が、公爵家のルイスくんと婚約しているのはみんな知ってるでしょ。
そろそろ見極めないとね……フローリエ、娘からの指名よ」
アーネスティンの娘――王女であるメリーローズの指名と知り、フローリエは一気に青ざめた。
「そのような大役を、わたくしに……」
他の少女も、表情にわずかの困惑に滲ませる。
「あら、王女殿下とルイスさまの仲は良好だと聞いておりましたが……」
「まさか、メリーローズさま直々のご依頼だなんて。どうなさったのかしら……?」
ため息をついたのは、侯爵令嬢のナンシー。
王家公認のメリーローズの友人であり、公式の場でもその名を呼べる数少ない令嬢だ。
「まあまあ、ナンシー。メリーも気にしていたのよ。あなたに頼まなくて、落ち込まないといいけどって。でも、ルイスくんとあなたじゃ、お互い知りすぎていて難しいものね」
フォローを入れるアーネスティンに笑いかけながら、ナンシーは大きくうなずいた。
「左様ですわ。血が近いので、よく会いますからね。いくらなんでも、知られすぎです。……フローリエ、大丈夫?」
そして視線をフローリエに向け、呆然としている彼女を気遣う。
「初仕事にしては荷が重いでしょうけど、だからいいのよ。あなた以外は、多かれ少なかれ動いているから。いくら王妃殿下が姿を変えてくださっても、見る人が見たら分かるわ。多く仕事をこなすほど、怪しむ人が出るものよ」
肩をすくめたのは、男爵令嬢のキティ。彼女は、男爵令嬢でありながら六ヶ国語を操る才女として、各国でも引っ張りだこの逸材である。
「キティはさすがだわ。慣れているわねえ。……フローリエ、それに、今回はあなたのその性格も見込んでのことよ。メリーは割と勝気なところがあるから……だから、正反対の性格のあなたがいいと思ったのよ。――ね、メリー?」
アーネスティンが笑うと、音もなく扉が開き、メリーローズが現れた。
「そのまま、楽にして。わたくしは、あなた方みんな大好きよ。同じくらい信頼しているわ。でも今回は、思わず守りたくなるようなフローリエ、あなたがいいと思うの。お願い」
真剣な声でフローリエに語りかけるメリーローズ。
敬愛する王女からの言葉に頬を染めるフローリエのその姿は、確かに庇護欲をそそる。
その場の全員が、メリーローズの言葉に大きくうなずいた。
そして、フローリエは立ち上がり、王妃と王女に最上の礼をする。
微笑したアーネスティンも立ち上がり、フローリエの正面に立った。
「『薔薇騎士』が一人フローリエ。王妃アーネスティン・エイミー・アーサ・エリザベスの名の下に命じます。王女メリーローズ・ミシェルの婚約者ルイス・ライバーが、彼女の伴侶に相応しいか確かめなさい」
フローリエは深く頭を下げてひざまづき、はっきりとした声で返答する。
「はい。このフローリエ、王妃殿下に賜りました『薔薇騎士』の称号に誓いまして、必ずやご命令を遂行いたします!」