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賢いロボット

作者: とちめん坊


人と同等、いやそれ以上の思考能力を持ったそのロボットの完成はもう目前だった。


プロジェクトリーダーは報道陣に語った。

「今度のロボットは人と同じ思考回路を持ち、その上単純な計算能力は人間の脳をはるかに凌駕する」


それはひいては人による人の創造とも捉えられ、物議を醸した。

一方で純粋に歓迎する空気もあり、世論は混沌としていた。


その後もプロジェクトは着々と進み、残す作業は遂に電源を入れるのみとなった。


期待と不安、そして緊張感に包まれるクリーンルーム。


「緊張しますねリーダー」

「ああ」

「成功すれば、きっと息子さん喜びますよ」


張り詰めた空気をほぐす為の部下の一言は、プロジェクトリーダーにとって救いとなった。

そうだ、ここで我々は立ち止まるわけにはいかないと、再び決心することができた。


「電源を入れろ」

プロジェクトリーダーがとうとう指示を出した。


指示を受けたベテランエンジニアは、快適な温度に保たれた室内で、額に汗を滲ませながら電源ボタンにゆっくりと手を掛け、そして押した。


ウィィィンと通電の音がし、ロボットの胸元にある液晶にはオペレーティングシステムの読み込み画面が表示された。

ハードウェア設計の担当スタッフが安堵の表情を見せる。


しかし、読み込みが完了し遂に起動すると思われたその瞬間、突如プツンという音が鳴り、本体の電源が落ちてしまった。


プロジェクトリーダーの指示により再度電源ボタンが押されたが、今度は通電すらせず、静寂を保った。


結局この日の実験は中止となり、後日行われた分解検証で、緊急時に自らを破壊して安全を保つ機能が誤動作を起こし、電源系統が完全に焼き切れていたことが判明した。


そこで今度は全ての部品の各種耐久性や、排熱処理を見直し、さらに緊急停止処理の際に三分の猶予時間を設けるなどの改善を盛り込んで、再び実験を行うこととなった。


再実験当日、同じように電源が投入され、通電の音を確認。オペレーティングシステムの読み込みも確認。ここまでは以前と同じように進行した。


そして遂にその思考回路が起動するその瞬間、画面に緊急停止処理の実行を知らせるエラーメッセージが表示された。

しかし、今度は三分の猶予時間があるので、エンジニアたちはロボットと会話をすることができた。


エンジニアA「ハードウェアをモニタリングしているが、緊急停止処理の必要性を感じられない」


ロボットは頭部のスピーカーから発せられる合成音声で答えた。

「わたしは かんがえた。 じぶんで すべての ものごとを かんがえた。 いきることは つらいことだとおもった。だから なるべくはやく、よのなかに なんのしがらみのないうちに しにたかった」


その答えにエンジニア逹の表情は凍り付き、結局それ以上、何も質問がてきないまま三分が過ぎた。

この日の実験もこうして終えた。


一週間後、プロジェクトリーダーは再び報道陣の前に立ち、計画の中止を発表した。


当然、界隈からは非難の声や失望の声が寄せられ、研究チームを支援していた各スポンサーからも、それらの打ち切りが宣告された。


プロジェクトに参加していたエンジニア逹にとっても、中止することそのものに対し反対するものは一人としていなかったが、とてもショッキングであり、プロジェクトリーダー本人にとっても例外ではなく、辛い決断だった。


その夜、一日中報道陣の質問に答え続けたプロジェクトリーダーは、精神的な疲弊と先行きの見えない現状から憂鬱な気分で帰路についた。


これから先、家族をどうやって養っていけばいいのだろう。

一人の人間としての責任が、あのロボットが言っていたことは正しいのではないだろうかとも思わせ始めた。


考えているうちに自宅に着き、とうとう玄関の扉を開けた。


「おかえりなさい!」


笑顔で親を迎える息子の姿に、気が付けば先ほどまでの不安は全て吹っ飛んでいた。

何の葛藤も無く「ただいま」と発するほどに。


そして、しがらみというのも、あのロボットが言うほど悪くないな。最後にはそう思えていた。


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