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ダニエルは村のおきてに背き、16歳になったにもかかわらず村から旅立つことを拒否した。
彼はそのことで今校長室へと呼び出された。
部屋に入ってみると、そこには二人の男がソファに腰かけていた。
一人はこの学校の校長であるトレント・ハンプトン。
そしてもう一人はこの村の長、レオ・カーランド。
二人とももう還暦を迎えているのか迎えていないのかわからないが、とにかくおじいさんよりのおっさんたちである。
ダニエルが部屋に入ると、まずソファに座ることを促された。
特に拒否する理由もないので座ると、まず校長のハンプトンが言った。
「どうしたん、ダニエル君。おじさんたちちょっとビックリしちゃったよ」
「すみません」ダニエルは言った。「でもなんかやっぱりどうしても無理だなって思って」
すると村長のカーランドも言う。「どっか体の具合でも悪かったん?」
「いや体調はどこも悪くないんですけど」
「じゃなんか他に理由があったん?」
「いやこれといったのは特にないんですけど」
横から担任のジェームス・フラワーズという教師も加勢してくる。「ダニエル、お前ホンマどうしたんや。何があったんや」
「いや……」
「お前あれやんけ、別に成績とかも悪くなかったやんけ。むしろほかの生徒たちよりも立派な冒険者なれると思ってたけどな」
「そんなことないですよ」
「なんや、成績悪かったわけちゃうんか」村長のカーランドが言う。
フラワーズが言う。「そうですよ、こいつ全然普通の生徒なんですわ。なんやったらちょっとこなれててうまいな、みたいな印象的でしたけどね」
「演習とかも?」
「去年は班ごとのリーダーやってましたわ」
ダニエルを無視して、ダニエルのことをああでもないこうでもないと話すおっさんたち。
ダニエルは沈黙を守っていたが、内心ではこんなことを思っていた。
こいつら何を言っとるんや。
あんなもんあくまでも練習やんけ。遊びみたいなもんやろ。あの頃、ある程度真面目にがんばってた自分が今ではクソさぶい。
自分の実力は自分が一番ようわかっとんねや。
校長のハンプトンが言う。「まあ、とりあえずテーブルのその肉まん食べや。君がこんなことなってるって聞いてな、ここくる途中で買ってきたんや」
「ありがとうございます」
「あ、もしかしたらあんまんも混じってるかも知れんわ。あんまん食べれる?わしあんまん嫌いやねんけどな、店員がな、もう肉まんないっちゅうからしゃーないやん、数合わせや。あったかいうちに食べや」
ダニエルは、いや俺朝ごはん食ったばっかしやし、それに嫌いなんやったら買ってくんなや、と思いながらも、しかし確かに急にこんな大人3人にガチで囲まれる展開になり、さすがにこれはまずいな、とも思っていた。
どういうことか。
もちろんこの状況は、いきなり森の中でばったりモンスターに遭遇するよりいい。
ほとんど何の技術もない状態で敵意むき出しの牙を見せつけられるよりは百倍ましだろう。
だが楽な状況でないことも確かだ。
明らかに重苦しい雰囲気が室内を支配している。
まあそうか……考えてみて、俺は今かなりぶっ飛んだことをしている。
自分では全然ぶっ飛んだことなどしているつもりなどなく、むしろ当たり前の行動ができていると思っているが、この人たちにとってはそうじゃないんだろう。
この人というか、この村の人たちにとっては、か。
で、俺もこのあとどうするんだ?
旅立たないとしよう。
このままこの村から旅立たないとして、俺はじゃあ一生このままこの村で暮らすのか?
何をして?
冒険者相手の店でも開くか?
それとも畑でも耕してのんびりと……
あかん!
そんなん絶対村八分みたいな感じになって俺終わるやん!
ダニエルはもちろんあんまんを頬張りながら焦った。
せや、俺あかんわ。
このままやったらまずい。
昨日の夜はなんか、とにかく死にたくないってことだけ考えて、そんでとりあえず今日は旅立たないことを選択したけど、それがあんまりにも急やったから、そのあとのこと考えてなかった。
こんなほぼ知らんおっさんたちに囲まれて俺重罪人やん。犯罪者みたいなもんやん。
これまだあんまんとか提供されてるだけましちゃうか?
ってかあんまんでも全然ええわ、この中身全部大量のカラシでもまともなリアクションできひん!
ダニエルは今やっとおっさんたちに囲まれながら、全然自分の状況が受かっていないことに気がついた。
あんまんおいしくない。
この話には落としどころが必要だ。
おっさんたちが怖いからといってもちろん今さら普通に旅立つ気はない。
そっちはそっちで死ぬ確率が高い。
だがこのままあんまんを食べていると、社会的な死というシナリオが待ち構えている。
こいつも何とか回避しなきゃいけない。
何ができる?
今この俺は、俺の生存確率を高めるためにどんなカードが切れるんだ?
そのときだった。
けたたましい音とともにドアが開き、女の教師が
部屋の中に駆け込んできた。
「大変ですよ校長!ちょっと来て下さい!」