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ダニエルは16歳の日を無事に迎えたが登校した。


本来ならば彼は、もうすでに村を旅立っていなければならないはずである。

なぜなら彼の生まれ育った村には、16歳になった男は村から旅立つべし、というおきてがあるからである。


彼はそれを無視した。


しれっといつも通りに学校へと向かった。足取りも順調で歩幅などにもおかしなところはない。普通に何事もなかったかのように、自分の誕生日を間違えていたように、村のおきてなどそもそもこの世になかったかのようにその歩みは確かだ。


教室について鞄の中から筆記用具を取り出していると、ダニエルは声を掛けられた。

サシャというクラスメイトである。

彼女は言った。


「え、ダニエル君どうしたん?」

「どうしたんって?」

「今日旅立ちの日じゃないん?」

「え、旅立ちの日やったけど?」

「やったけどって?」

「ん?」

「え???」


サシャはあきらかに混乱している表情をしていた。そりゃそうだろう。先程もいったように、本来ならばダニエルはもう村の外の世界に旅立っているはずなのである。


でも俺そんなん知らんから。


ダニエルが黙っていると、サシャは言った。


「え、昨日お別れ会的なんしたよね?」

「してたね」

「出店のたこ焼きとか食べてたよね?」

「うん、いか焼きも食べた」

「夕方いくん?」

「夕方?」

「え、なんかダニエル君には夕方行った方が有利になる条件とかあるんちゃうん?」

「いや、夕方は家帰るけど」

「え、きいていい?」

「何が?」

「ありなん?」

「え?」

「旅立ちの日に旅立たへんってありなん?」


ダニエルはサシャと会話をしながら、やっぱりまあこの女の言うこともわからなくはないな、と思った。


っていうか自分も、つい昨日まで、いやもっと真実をいうと今日の朝までそんなことを思っていた。考えていた。


だがしかし。


そんな見送られたからとか、みんなその歳になったら旅立ってるからとか、それが伝統だからとかおきてだからとか、そんなことでは生きていけないなと思った。


餓えはしのげないしケガした箇所も治癒しないしモンスターに襲われなくなるということもない。


このイベントは、本当の旅立ちにおいていいことなど一つもないんじゃないか?そんなことでははっきりいってすぐに死んでしまうだけなのでは。


ダニエルはそう思ったのである。


だから自分でもとんでもないことをしているなという感覚はある。生まれたときからこの村で育ってきて、そういえばこのタイミングで旅立たなかった16歳の男子なんて見たことがない。


そりゃ人一倍体が弱い子などは、例外で旅立たないこともあるみたいだけれども、自分は、健康に関しては特に問題がない。一度も困難な状況に追い込まれたことなどない。


したがって自分は、今までの流れをくむなら完全に今日このタイミングで村を旅立たなければならない男子だろう。まごうことなき新人冒険者たる人材であるに違いない。


けどもうそんなん自分の死ぬこと考えたらどうでもええわ。

サシャもなんかビビってるけど、普通にしてたらそのうち慣れるやろ。


教室にドアが相手の1時間目の授業の先生が入ってきた。彼は教室に入ってくるなり言った。


「うわホンマや、ダニエルまだおるやん!」

「先生、おはようございます」

「いやおはようございますちゃうで。お前今校長先生が呼んでるからはよ校長室行ってこい」


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