おてつだい
部屋に戻ると、ルーナはもうひとつの部屋にいた。真ん中の囲炉裏に火を起こして、小さな片手鍋をかざしている。
「おかえり、アウロラ」
「た、ただいま!」
帰ってきて、こんな風に笑って声をかけてもらえるなんて、初めて。ううん、もしかしたら、お母さんがいたときにはこんなこともあったのかもしれないけど……。
わたしは嬉しくなって、すぐに奥の部屋に上がりこんで、ルーナの隣に座った。お鍋の中には白っぽくて透明な、トロトロッとしたクリームが入っている。嗅ぎなれない匂いがするけど、嫌いじゃない。臭くもないし。
「ルーナ、これは?」
「塗り薬の原料……素になるものだよ。今から薬草オイルを入れていくんだ」
「すごい!」
ルーナは自分の脇に置いていた瓶の中身を、お鍋に垂らした。
「あっ」
「えっ?」
「だ、大丈夫だ。爆発なんてしないから……」
バクハツ、てどういう意味なのか、聞いてみたかったけれど黙っておいた。ルーナは別の瓶から中身を匙ですくって、お鍋に入れる。
「……も、もうちょっとかな。あっ」
「ルーナ?」
「だ、大丈夫だよ、オイルを足せばいいんだから……あっ、あっ、あ……」
「ルーナぁ!」
ルーナはそれから何度か油と薬草オイルを足して合わせた。ようやく手を止めた頃には、お鍋はたぷたぷだった。
「ちょっと、作りすぎてしまったか」
「ちょっとじゃなくて、たくさんだよ」
「そうとも、言うな……」
ルーナはわたしから目を逸らしながら言った。それから、ごほんと喉を鳴らして、わたしを見た。
「ともかく、できた軟膏を詰めよう。アウロラ、手伝ってくれ」
「うん!」
わたしはルーナに手渡される白い陶器の容れ物に、出来たてのクリームを詰めていった。これが傷にも火傷にも効く、薬草が入ったルーナの軟膏。薄黄色くて、あんまり匂いがしない。ちんまりした丸っこい陶器に入れて、ツルツルした紙を入れて蓋をすると、ルーナはそれを紐で縛っていく。
「ルーナ、もう容れ物がなくなっちゃったよ」
「そうか、仕方がないな。残りは私たちで使ってしまおう。アウロラ、手を出してごらん」
ルーナはわたしの手を取って、お鍋の中のクリームを塗ってくれた。指や、掌や、肘にも。クリームを伸ばしてくれるルーナの手は、少しガサガサしてる。でもあったかくて、わたしはちょっと泣きそうだった。
ルーナはまるでお母さんみたい。もしもお母さんが生きていたら、ルーナみたいに優しかったのかな。ルーナにお母さんになってもらいたい……でも、そんなことを言ったらきっと困らせちゃう。
わたしはお父さんのことも思い出していた。あのひとは今、どうしてるのかな。……もしかして、もう、わたしの代わりを見つけてしまったのかな。わたしはやっぱり、いらない子だったのかな。
ポトリと落ちた涙が、ルーナがクリームを塗ってくれた手に当たって滑り落ちて行った。
「どうした? どこか、痛い?」
「ううん、ちがうの。違うの……。それより、ルーナにも塗ってあげるね、クリーム。ルーナこそ、お肌が痛そうだよ」
ゴシゴシこすって涙を追い払って、わたしはお鍋の中のクリームをすくった。ルーナは困ったように笑って、わたしのためにじっとしていてくれた。お顔も手も、ルーナのお肌はどこもボロボロ。クリームを塗ったら少しは良くなった。本当に、ヒビが小さくなった。
「ルーナはもっと自分に使わなきゃダメだよ」
「え、でも」
「いいから、使ってよ。ルーナが痛いの、やだもん」
「うん……」
わたしたちは全身にクリームを塗りあって、それでも残ったのは、ルーナが用意した別の器に入れた。花の模様が入った、特別な陶器の器。売り物には入っていない柄だった。
「さあ、今度はお守りを作ろう」
「やったぁ!」
とうとう、お守り作りだ!