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竜と盗人  作者: 天界音楽
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戻ってきた首飾り

 夕食を終えてお茶を飲んでいるとき、レインたちはやってきた。レインは日が沈んでからしか街を出歩かない。そして、いつもカイともう一人、護衛を連れて三人で動いている。


 街の皆は、レインの話題が出ると必ず周りを確認する。下手なことを言ってレインの部下に聞かれたら、この街にいられなくなるかもしれないからだ。


 『金貸しのレイン』、『陰の支配者』、『血も涙もない悪人』と人は言う。そして「やはり市長の座は弟のディルク様が継ぐんだろうな」と呟くのだ。


 つまりレインは権力者の一族なんだ。「金で何でも解決できると思ってる」人で、それなのにルーナのことは思い通りにできないでいる。ルーナの魔法は欲しいけれど、同時に怖がっているのかもしれない。


 わたしに言わせれば、ルーナの気持ちがレインにあるんだから、恋人関係になって魔法を使ってもらっちゃえばいいと思うのだけれど。ううん、でも、レインとルーナが恋人だなんてやっぱり嫌だ! でも、でも、ルーナの気持ちを思えば恋心が叶ったら嬉しいだろうし……でも、レインは悪人だし……。


「さて、これで全部だな。確かに金貨百八十枚分の硬貨だ。約束が果たされるっていうのは気分がいいな」


 レインの声にハッとする。いつの間にか、レインは机の上にたくさん積まれていた銀貨や銅貨をすべて数え終えていた。満足そうなレインの言葉に、ルーナが頷く。


「レインのおかげでもある。材料も融通してくれた」

「まあな、そこは持ちつ持たれつだ、気を回すな。ただ……」


 レインの視線が机の上に落とされる。


「細かい硬貨が多すぎるな。金貨で、とは言わなかったが」

「す、すまない……」


 レインがルーナに意地悪をしている。仕方ないじゃない、わたしたちみたいな普通の人間は、ふだん金貨なんて使わないんだから!


「仕方がないな。金貨に替えてやろうか?」

「え、じゃあ……」

「だめーーーー!」


 わたしは慌ててルーナを止めた。何が悪いのかわかっていないルーナと、面白いものを見る目をしているレイン。最後の、最後で……油断のならない男だ。


「金貨に替えるのにお金を取る気でしょう? そんなことしたら、返すお金が足りなくなっちゃう! 金貨には替えないわ。このまま受け取って!」

「フン、ガキにしてはなかなか頭が回るようだな」

「レイン……」


 深く座り直してわたしに顎をしゃくってみせるレイン。ルーナはおろおろした表情でわたしたちを見ている。


「それに、度胸もあるな」

「色々と、鍛えられたので」


 真っ直ぐに目を見て言い返すと、さらに満足そうにレインは笑った。


「さっさと捨ててしまえと思っていたが、これは良い拾い物だったかもな。ルーナ、こいつにもっと教育を受けさせてみないか」

「えっ……、それは、つまり……?」

「俺の屋敷から学校に通わせる。お前も来い、アウロラもお前が一緒に暮らすなら文句はないだろう」


 レインの提案にわたしは驚いた。わたしを、学校に? レインのお屋敷の別棟にいる、子どもたちと同じように?


 何も持っていないわたしからお金を搾り取れるとは思っていないだろうし、これは純粋に親切での提案だと思う。レインの屋敷に住むことになれば、ルーナはふかふかのベッドで寝られるし、寒さに震えることもなくなる。


「ルーナ……!」


 期待を込めてルーナを見ると、ルーナはうつむいて沈んだ表情をしていた。


「ルーナ?」

「……アウロラが学校へ行きたいなら、レインについて行くといい。私は共には行けない。私は私がいるべき場所にいる」

「ルーナ! そんな、わたし、ルーナと一緒じゃないなら行かない! 学校になんて行きたくない、ルーナとここにいる!」


 手を伸ばして、ルーナにすがりつく。ルーナの肩に顔を埋めると、そろそろと背中に触れられる手があった。


「アウロラ、私は……」

「ルーナ、言ったよね。わたしは、わたしが好きな場所に行っていいって。わたしの居場所はここ! ここなんだから……!」

「ごめん、アウロラ……。ごめんなさい……」


 チッという舌打ちと一緒に、椅子がガタンと音を立てる。ルーナは体を強張らせてわたしから少し離れた。


「まぁ、好きにしろ。ひとまずのところこれで完済だ。新しい借金の契約はいつでも窓口を開けておくぜ。薬の物納もな」

「日を改めて、また伺う」

「それと、薬の代金を前払いしておく。後で届けに来い」


 レインはもう、冷たい仮面を被った商人の顔に戻っていた。後ろに控えていたカイが、革の財布を取り出して金貨を一枚、机の上に置く。仕事のときのカイは、レインと同じように冷たい雰囲気をしていて好きじゃない。


「さて、最後にこれを返しておこうか。お前が一番大切にしている物だ」

「ああ……! 良かった……」


 レインが胸元の内ポケットから取り出したのは、あの日、ルーナから奪っていったペンダントだ。革紐から下げられた、掌大の葉っぱのような形をした首飾り。ルーナはそれを大事そうに両手で包み込んで、胸の前で抱きしめた。


「ずっと持っていたが、何も起こらなかったぞ」

「……持っているだけで、災いを引き起こすわけではない。ただ、これが目印になってしまうから……」


 目印……。

 いったい、何の目印だろう。


 レインはそれ以上は何も聞かずに帰っていってしまった。

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