表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜と盗人  作者: 天界音楽
15/19

あたたかい夕餉

 薬草を持って帰ったルーナは、すぐにかごの中身を空けて種類ごとに分けてチェックして、丁寧に拭いて束にして、小部屋の天井に干していった。


「すぐ乾くかな」

「さぁ。天気次第だ」


 ルーナはわたしが拾ってきた、咳に効く葉っぱを小さく刻みながら言う。


「ルーナ、それ何になるの?」

「せっかくアウロラが採ってきてくれたのだから、煎じて茶にしてみようと思ってな」

「そうなの? なら、拾うんじゃなくて直接枝からむしってくれば良かったなぁ」

「いいんだよ、拾ってきた葉でも。綺麗に洗ったんだから」


 ルーナが作業するのを眺めていたら、カイがやってきた。いつも通り、いきなりドアを開けて。


「来たぜ〜って、クサッ! なんだこの臭いは!」

「カイ、いらっしゃい。これは煎じ薬だよ。咳止めに効く」

「げっほ! いや、無理だろ! 今まさに喉がやられるわ!」

「それを言うなら鼻だろう」


 咳き込むカイにルーナが冷静に言う。やっぱり、ひどい臭いだよねぇ? わたしもそう思ってたよ。


「そんなモンよりメシ作れよ! もうそろそろ良い時間だろ」

「わかった、では、続きは向こうでやろう」


 ルーナはお鍋を手に奥に引っ込んでいった。カイは持ってきた袋から布に包まれたお肉を取り出すと、上機嫌で準備を始める。


「チビ助、今日はどこに行ってたんだ?」

「薬草摘みに連れて行ってもらったの」

「へぇ、いいじゃねぇか。自分で草の見分けがつくなら、自分で採ってきたほうがカネがかからずにいいやな。まじない屋がカネに執着してねぇのは知ってるが、オレに言わせりゃ勿体なさすぎる」

「そうなの?」

「もしかして、わざと貧乏な暮らしをしてんのかもしれねぇなぁ。たまにいるんだよ、目立ちたくないっていう、変わったヤツ。まぁ、まじない屋はもう兄貴に捕まっちまってっから、関係ねーけど」

「レイン! ねぇ、それ、どういう意味?」


 まな板の上で、野菜がスコンと音を立てた。カイは手を止めずに続けた。


「まじない屋は本物の魔法使いだからなぁ。お前、見たことあるか? あれはすげぇぜ」


 わたしは首を横に振った。この世界には、すべての法則を超えた魔法という力があることはルーナが教えてくれたけど、ルーナが魔法を使うところなんて、見たことない。ちょっとだけ胸がちくっとした。


「もしかしてもう、本物はアイツだけしかいないんじゃねぇか? この目で見るまで、ガキに聞かせるおとぎ話の類だと思ってたよ、正直。いやぁ、いる所にはいるんだよなぁ。あ、そんな顔すんなよ、お前もそのうち見られるって」

「そうじゃない……」

「へ?」

「ルーナが、捕まったって、どういう意味なの? ルーナとレインはどういう関係なの?」

「そりゃ……」

「カイ、鍋が焦げ臭いぞ」

「うおっ、やべっ!」


 後ろからの声に、カイは慌てて火加減を調節した。いつの間にかルーナが立っていた。まるで、言われたくないことでもあるみたい。


 わたしはじっとルーナを見た。


「なんだい、アウロラ」

「さっきの話……」

「ああ……。そうだ、私は本物の魔法使いだよ。おいそれと見せるわけにはいかないが……」

「そこじゃなくて、レインに捕まったって。どういうこと? お金を借りてるだけじゃなかったの?」


 ルーナはゆっくり首を横に振った。それがどういう意味なのかわからずに、わたしはルーナの言葉を待つ。


「……この街へ逃げてきた私を拾ってくれたのがレインだった。私は彼と契約をした。それが果たされるまではこの街を離れない、と。カイはおそらく、そのことを言いたいのだと思う」

「そうなの? じゃあ、ひどいことされるわけじゃないのね」

「ああ。レインは私の力が欲しいのだろう。だが……私の存在は災いを招く。何とか穏便に出ていく方法を考えなくてはならないな」


 ルーナの言葉にドキッとした。災いを招く……。ルーナの見た目は確かに怖いけど、ルーナが悪いことをするなんて信じられない。だから、何か悪いことが起こるとしても、それはルーナがやりたくて起こすことじゃないはずだ。


 でも、それよりもっと気になるのは、街を離れるっていう部分だよ。前にもルーナは、わたしを「一人で生きていけるようにする」って言ってたけど、街を出ていくとき、わたしのことも連れて行ってくれるよね……?


 わたし、ルーナのこと、もっと知りたい。だって、ルーナのことまだ何も知らない気がする。よく知らないから、不安になるんだ、きっと。


「ルーナ、もっと色んなこと教えて。魔法のことも、たくさん」

「ああ、もちろんだとも」

「おいおい、それは良いけど、オレの前で兄貴に言えなさそうなハナシすんのはやめてくれよな。オレが誰の下についてんのか忘れてんのか、もしかして」

「あっ」

「あ……」

「おいおい」


 カイは大きくため息をついて、自分のおでこをペシンと叩いた。


「ホント、心配だわ、お前らのこと」


 わたしとルーナは顔を見合わせて笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ