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竜と盗人  作者: 天界音楽
11/19

役に立てるなら

「アウロラ? どうした、何かされたのか!?」

「ルーナ……!」


 のっぽがドアを開けた部屋には、ベッドに背中を預けて座っているルーナがいた。その顔にはガーゼが貼ってあって、首には包帯が巻かれていて、すごく痛々しい格好だった。家を出るときには、こんなじゃなかったのに!


 わたしはルーナの足に取り縋って泣いた。朝起きたときから、ずっと不安だった。こわかった。きっとレインがルーナをこんな目にあわせたんだ! あのひとは、こわい……あんなやつ、大嫌い!


「アウロラ……」

「泣かせておけよ。具合は少しは良くなったのか。兄貴はチビを他のガキどもと同じ場所に放り込むつもりだぜ」

「何故だ。少し休んだら私はアウロラと家に戻るぞ。契約は成った。これ以上レインに迷惑をかけるわけにはいかない。……まぁ、借金がすでに迷惑なのではないかと言われると立場がないのだが」

「リターンが見込めるなら悪手じゃねぇさ。オレとしちゃ、ホントは、兄貴のためにアンタをここに閉じ込めとくのが正解なんだろうが」

「だめ!」

「まぁ、そうなるよなぁ」


 のっぽはツルツルの頭を掻いて笑う。でも、嫌な感じじゃなかった。もしかして、のっぽはわたしの敵じゃないのかもしれない。……あの男が命令しなければ。


「カイ、手を貸してくれないか。アウロラと家に戻りたい」

「兄貴の許可が下りなきゃダメだぜ」

「私はずっとここにいるわけにはいかない。レインには借りがある、だが、それを返し終わればそのときは……」

「いや、そもそも借りとか以前に動けないだろアンタ。何もない場所ですっころんで立てもしなかったクセに」

「えっ? ルーナ?」


 思わずルーナの顔を見上げると、ルーナは恥ずかしそうに目を逸らした。


「アイツにやられたんじゃないの?」

「レインに? まさか! レインはそんな男ではないよ」

「でも、でも、最初家に来たとき……」


 今思い出しても体が震える。いきなり部屋に押し入ってきて、のっぽともうひとり、横に丸いひとを暴れさせたレイン。ルーナの服を掴んで無理やり立たせたり突き飛ばしたりしたこと、わたしは絶対、忘れない。


「あれは……彼も、仕事だったから……」

「仕事だったからって、どういうこと? 仕事なら、何をしてもいの? あんなことする仕事なんて、おかしいよ……!」


 叫ぶわたしを、ルーナものっぽも困った顔で見ていた。わたしのこの感情は、怒りだ。本当なら、レインにぶつなくちゃいけないものだ。


 でも、怖くて……。わたしはアイツが怖くて、アイツにはこんなこと言えない。だから、ルーナを困らせてしまった。わたしは……わたしは、卑怯だ。弱くて、ずるくて、ルーナに迷惑ばかりかけてしまう。


「ごめんなさい、ルーナ」

「いや、アウロラは悪くない。おかしいのは我々の方だ。帰ろう、アウロラ。もう少し休んだら、私も、動けるようになる……」

「ルーナ!」

「おっと」


 倒れていくルーナを、のっぽが受け止める。ルーナが動けるのは、一日のうちだいたい半分くらいだから、どうしても途中で寝てしまうの。ちゃんとベッドに寝かしておいてあげるんだった。後悔の気持ちが水のように溜まっていく。


「おいおい、どうしたんだよ」

「魔力が……すまない、少し、動けなく……」


 ルーナは説明の途中でグッタリしてしまった。のっぽが毛布をバサリとどけてルーナをベッドに寝かせたから、わたしが毛布をかけ直してあげた。


「大丈夫なのか、これ」

「しばらくしたら、起きてくるから大丈夫。いつものことだよ」

「これが、いつも? じゃあお前はその間どうしてるんだよ」


 のっぽが眉毛をぐにゃっとさせながら聞いてくる。変なの。なんでそんなこと知りたいんだろう。


「家の掃除をしたり、色々だよ。でも、すぐに終わっちゃうの。だから、部屋でルーナが起きるのを待ってるの」

「待ってるの、って。どこへでも遊びに行きゃいいだろうが」

「……同じ年の子は嫌い。いつもわたしのこと除け者にして笑うんだもん。それにひとりで市場に行ったらいけないし、外の広場のおばちゃんたちはわたしに質問ばっかりするもん。だから外には行かない。それに、お守りは余ってるし、わたしにできることなんて、ないんだよ」


 のっぽは、何も言わずに聞いていた。ルーナ以外のひとにむけて、こんなにしゃべったのは初めてかもしれない。それにのっぽは、カイは、わたしの言葉を途中で切ったりしなかった。


 それどころか、わたしの頭にその大きな手を乗せて、ワシワシしてきた。びっくりして、まばたきの間だけ体がビクッとしたのは内緒。どうか気づかれていませんように。殴られるかもしれないなんて思ったこと、カイには知ってほしくなかった。


「よし、じゃあ、別館に行くか」

「えっ?」

「他のガキどもと一緒になって、遊んだり勉強したりして来い」


 一瞬、何を言われているのかわからなかった。でも、頭がちゃんとその言葉の意味を飲み込んだとき、わたしは怒った。


「いやだっ! 絶対、いや!」


 カイのバカ! いいひとだと思ったのに!

 いったい何を聞いてたの!?


「まぁまぁ、落ち着けよ。まじない屋が目を覚ますまで、ここにいなきゃならないんだ、そうだろ? だったら、時間を有効活用しようぜ。こりゃ兄貴の受け売りだけどよ」

「やだ!」

「お前は別館に行って、メシ食って、遊んで、勉強するんだ。んで、ここに戻ってきたら、まじない屋は起きてて家に帰れる。これでどうよ」

「…………」


 わたしはべつに、ルーナが目を覚ますまでここにいたってよかった。ひとりでだって、ずっと待ってられる。でも……。


「勉強したら、まじない屋の役に立てるかもしれないぜ」

「……行く」


 カイの言葉がわたしを変えた。ルーナの役に立てるなら、わたしは何だってするって決めたの。だから、嫌なヤツに出会っても、きっと絶対、投げ出さない。

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