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居酒屋『冒険者ギルド』  作者: ヒース
第2話 ある魔法使いの苦悩(後編)
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ある魔法使いの苦悩55 精霊使い

 シンクの導きにより、私たちは大森林へと一瞬で移動した。


 どうやら迷うことがなければ大森林と妖精の森はシームレスで行き来できるようだ。ただ、行きは白虎、帰りはシンクに誘われていなければ、そもそもどこから移動できるのかもわからないから行きようがない。既存の地図にはもちろん載っていないし、私が描き込むこともできない。このあたりに妖精の森の入口があるよ! という話ではないのだ。


「トレントはいないようだな。だが、少し様子がおかしい」


「それはトレントが二体現れたことと関係していそうかい?」


「先にも言ったが私は大森林に来たことはない。だが、森の雰囲気が正常ではないことはわかる。微々たる変化だが、私からすればかなり大きな違和感だ」


 シンクは鋭い視線を周囲に配っている。私も同じように様子を窺うが、同じような森が広がっているだけでまったく違いがわからない。そもそも森の民であるシンクですら微々たる変化というのだから、人間の私が察知できるわけがない。


「サラは何か感じるかい?」


「トラさんは近くにいないみたい」


「もしかして、白虎の気配がわかるのかい?」


「どこにいるのかがわかるんじゃなくて、近くにいるとなんとなくわかるの」


「へぇ……それでも充分だよ。サラとシンクがいれば無事に白虎に会えそうだ」


 シンクは周囲の様子を窺うのをやめ、目を閉じて何かに集中している。これは声をかけないほうが良さそうだ。


「……誰か近くにいるようだな」


「大森林は近くの町の人が採取でよく利用しているみたいだし、それかな?」


「私にはそれが町人なのかはわからないが、単独だな」


「どれくらい近い?」


「この場所は森の中頃だが、かなり近い」


「それはおかしいな……町民は迷いでもしなければこんな奥深くまでは入らないって聞いたぞ」


「そうなのか? ……違和感の正体はそれか」


 シンクはある一定の方向に視線を固定している。その先にその誰かがいるのだろうか。


「どうする? 正体を確認しておくか?」


「こちらから近付くことが危険じゃなければ確認しておきたい気もする。けど、ちょっと様子を見たい」


「そうか。私たちを追跡しているかどうかはしばらく歩けばわかりそうだな。少し進んでみよう」


 私は頷き、シンクを先頭にして間にサラを挟んで進み始めた。白虎を探すのが先決だ。



   ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「どうやら私たちをつけているようだな」


「やっぱりそうなんだ。どうして私たちを追いかけてくるんだろう?」


「さぁな。……どうする? やはり正体を確認しておくか?」


「さすがにそうしたほうがいいだろうね。いつまでも後ろをつけられるというのは気持ちいいことじゃない」


「では、私がやろう」


 シンクはそう言うと、シュッとジャンプをすると体重がないかのように木の枝に着地する。「そのまま進んでくれ」そう言って私とサラに前に進むよう促す。


 私はサラと一緒にゆっくりと前に進む。すでにシンクの気配をまったく感じない。森に同化しているのだろう。潜伏状態になってしまえばもう見付けることができないんじゃないだろうか。


 シンクの言う私たちをつけているという存在の気配も感じない。なので私はただサラと歩き続けるしかない。よくそんな気配を感じることができるものだ。こんなことでも人間の感覚器の弱さとエルフとの違いを思い知った。そうした劣等感で、人間はどんどんと便利な道具を創り出すことが出来たのかもしれないな。


「止まれ!」


「……ひゃあ!」


 私たちをつけていたという存在を見付けたシンクの静止の声を受け、その存在が変な声を上げた。女の声だ。


「見付けたのか!」


「ああ。木に隠れてファーレンたちの様子を窺いながら後をつけていた。私には気付かなかったようだが」


 木にしっかりと掴まったままの追跡者は、背後からシンクの弓に狙いを定められて固まっている。


「……ん? このローブ姿には見覚えがあるぞ。それにこの顔も」


「ここに来るときの馬車にいた人?」


「そうか! あのときもサラのことをずっと見ていたが、もしかしてサラに何か用でもあるのか。こんなところまで追いかけてくるなんて、まともな理由じゃなさそうだが」


 馬車で鋭い視線をサラに向けていた追跡者は、アメジストの瞳をやはりサラに向けている。馬車の中でもスラッとした細身だと思っていたが、意外と背が高い。


「キミは魔法使いだろう? 私たちを追いかけて何をしようとしていたんだ?」


「……言わないとダメかな?」


「言ってもらいたい。どう見たってキミは怪しい」


「……怪しくない!」


 この魔法使いの女は見た目としゃべり方にギャップがある。道中の雰囲気は異常に刺々しいものだったのだが、口を開くと口調が妙に幼い。下手に背が高いだけに、違和感がハンパじゃない。まさかシンクの感じた違和感もこれか? いや、さすがにそれはないか。


「言えない理由があるのか?」


「……言ってもいいの?」


「言えるのか?」


「聞きたいなら」


 会話が絶妙に噛み合っていない。ただ、ずっとダンマリのほうが困るから、話してくれるならそのほうがずっといい。言い方は気にかかるが。


「あのね、ボクは精霊使いなんだよ。だから、その子のことを初めて見たときからずっと気になって仕方がないんだ」


「その子って、サラのことか?」


「サラって言うんだ? そうだね、サラのことだよ。ボク、もう我慢できない」


 紫の瞳を怪しく輝かせ、ボクっ娘の魔法使いはサラをうっとりした表情で見つめている。おい、なんだその視線は! サラが引いているじゃないか!


「ちょっと待った! 話が飛躍しすぎている。それじゃあ、何がなんだかまったくわからない」


「そうかな? ボクはサラのことが気になっているって言ってるんだよ? それ以上何が必要なの?」


「いろいろと足りない。さぁ、まずは落ち着こうか」


 サラに向かってゾンビのように手を伸ばすこの女をひとまず落ち着けよう。私はペシッとその手をはたき落とす。「何するんだよ……」涙目で言われて私が動揺する。こんなので泣くのか!?


「ボクはサラに興味があるだけだよ。それに何か問題があるのかい?」


「あるある。だから、なんでそんなに一方的なんだよ」


「善は急げ。早い者勝ち。先手必勝。よく言うでしょ?」


「使い方おかしいから! だから、落ち着けって」


 自由すぎる! シンクも呆れて弓を下ろしている。いや、そのまま弓で狙いを定めておいてもらったほうが良かったかも。制限がなくなったからか、サラへ近付こう近付こうという力が強すぎる。完全に私が警備兵のようにガードをする羽目になる。


 進行方向に立ち塞がっているので、結果として抱きつかれているみたいになっている。女がサラに向かって手を伸ばしているからなおさらだ。落ち着かない! ローブでわからなかったが、胸が大きい!

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