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居酒屋『冒険者ギルド』  作者: ヒース
第2話 ある魔法使いの苦悩(後編)
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ある魔法使いの苦悩52 器、そして使命

 エルフの長は満足そうに三人並んだ私たちを順繰りと見た。


「あなたたちの名前を聞かせてもらえますか?」


 エルフの長が私に声をかけた。そう言えば名乗っていない。


「失礼しました。私はファーレンと申します。こちらが——」


「サラです……」


 エルフの長は口の中で私たちの名前を繰り返したようだ。


「ファーレンにサラ。あなたたちは四神に選ばれし者と思われます。特にサラ、あなたは四神の器に選ばれているようです」


「……先ほどもシンクさんに話されていましたが、その器というのは?」


 私は器という重いワードがさっきから気になっていた。サラが四神の器というのはどういうことだろう。あまりいい印象を持つことができないのだが。


「四神は神とはいえ無限の存在ではありません。しかも、何十年も姿を見せることもありませんでした。それが、この近い間隔で青龍、そして白虎とあなたたちの前に姿を現しました。これは、四神の力が相当に弱っていることを示していると言えるでしょう」


 エルフの長は私、そしてサラを順に見る。特にサラを見る時間が長い。


「四神はこのままでは消滅してしまいます。人で言えば寿命に相当するので仕方がありません」


「寿命……」


「ええ。寿命ですから、わたくしたちにはどうすることもできません。本来ならそれが自然の流れ。何もおかしいことはないのです」


「でも、そこに器たるサラが現れた……」


「そうです。偶然なのか必然なのかはわたくしに知る由もありませんが、事実として今ここに存在しています。器であるサラに身を委ねることで、四神はその存在を残すことができます。サラのような器は過去に存在したことはありません。四神が消滅することなどなかったからです」


 エルフの長が優しそうな表情に変わってサラを見つめている。まるで母親のような、なんでも包み込んでくれそうな母性を感じた。


「サラ、あなたは四神の救世主なのかもしれません」


「わたしが、救世主……?」


「そうです。誰でもができることではありません。あなたにしかできないことなので」


「わたしにしかできないこと……」


「その先に何が起こるかは正直なところわたくしにはわかりません。おそらくわかる者はいないでしょう。ですが、ひとつだけ言えることは、このことは必要なことなので。あなたが四神の救世主であり、あなたが四神を助け出すことは」


 厳かな雰囲気が辺りを支配する。エルフの長の優しくも真剣で厳格な立居振舞に、私は伸ばした背を曲げることなどできないんじゃないかというくらい背筋がピンと張る。サラも直立を崩せない。


 重圧がかかる話の内容だ。特にサラに対しては想像を超える規模の話だ。四獣を助けるという目的で私もサラも動いている。結果としてその通りに話は進もうとしている。でも、規模が想定を遥かに超えている。動物の救助とは訳が違う。


 四獣とは四神のことだ。つまり神だ。神に触れるということは、日常の延長にある話ではないのだ。私は自分の認識が浅かったことを反省した。


「ファーレン」


「はい」


「あなたにはサラを守ってもらう使命があります」


「元よりそのつもりです」


「それは安心しました。決して簡単な話ではないでしょう。多くの苦労もあると思います。それでも、常にサラと共にあり、その使命を成し遂げるのです」


「なにがなんでも私がサラを守り抜きます」


「よろしくお願いしますね」


 次にエルフの長はシンクさんに視線を移した。


「シンク」


「はい」


「あなたは真面目なのはいいのですが、少々堅苦しさが目立ちます。もっと緩めても良いのですよ?」


「それは…………善処します」


 シンクさんの回答にエルフの長はおかしそうに、ふふっと笑った。真剣な表情ばかりだったので、初めて見た笑顔はとても可愛らしいものだった。エルフの長もシンクさんも大人になりかけの少女の姿をしている。シンクさんも笑ったらとても可愛いんだろうな。


「……何を笑っている」


「え? 私、笑ってた?」


「ああ。今もな」


 とても怖い顔でシンクさんから睨まれてしまった。笑顔どころか真顔すら向けてもらえない。


「そんな怖い顔で睨まないでおくれよ。笑っていたのは謝るから」


「やはり笑っていたのだな」


 笑ったつもりはなかったのだが……。シンクさんからそう見えたということは、私はきっとエルフの長とシンクさんのやり取りを楽しそうに見てしまっていたのだろう。真面目にやり取りをしていた彼女にとってはそれは屈辱的だったのかもしれないな。


「とりあえず、ごめんなさい」


 私はシンクさんに頭を下げた。これで機嫌を直してくれるといいんだけど。


 エルフの長は私とシンクさんのやり取りが面白かったのか、くっくとちょっとだけ身体を折って笑っている。さっきまでの威厳がどこへやら、そこには見た目相応の少女が楽しそうに笑っている姿があった。


「……さて、じゃれ合うのはこの辺までにしておきましょう」


「私はじゃれ合ってなど——」


「シンク、いいのですよ、それで」


「しかし——」


 エルフの長はシンクさんの反論を手で制した。ついたった今ままで笑っていたことなど存在しないかの如く真剣な顔で、私たちを順に見る。


「ファーレン、サラ、それにシンク。三人とも四神のことをよろしく頼みましたよ」


 そしてふっと優しい笑みを浮かべた。


「わかりました。いい結果となるよう努力します」


 私はエルフの長に対して深く頭を下げた。サラもシンクさんも私に倣ったようだ。

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