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居酒屋『冒険者ギルド』  作者: ヒース
第2話 ある魔法使いの苦悩(後編)
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ある魔法使いの苦悩43 麓の町

 町の中にもかなりの木々が植えられていた。というより、自然に生えてきたのをそのまま整えただけのようだ。


 大森林に一番近い町なので田舎に近い造りをしている。下手に近代化しておらず、自然と調和した町並みだ。家は木造と石造が混在しており、藁葺という珍しい家すら存在した。さすがにそこに人が住んでいる様子はなく、観光客や旅人への展示が主たる目的のようだ。


 移動馬車が町に到着するなり商人の男と護衛の戦士たちは速やかにどこかへと行ってしまった。商売はスピードが大事だからさっさと店でも構えるのだろう。馬車にあった荷物の一部がこの商人の物だと知ったときは驚いた。普通は馬車を運営する商人ギルドの収益が目的の配達物や商品だ。そこに自分の物を混ぜてくるとは。もしかしたら商人ギルドに登録されていれば、移動馬車をそういう風に使うことはあたりまえなのかもしれない。


 老夫婦は観光に来たようで、馬車から下りても特にどこかへと行くわけでもなくその辺をウロウロとしていた。私たちは降りるときに彼らにだけ会釈をしておいた。悪い人たちではなさそうだし、せっかくいい印象を持ってくれているのだ。悪い印象を持たれることにメリットはない。いい印象は可能な限り重ねがけするに限る。本の受け売りだが。


 動向が気になっていた女魔法使いは全員が下りてもまだ馬車に残っていた。さすがに彼女がどこへ行くのかを確かめるまで様子を見ているわけにもいかず、心残りはあるものの私はサラを伴ってまずは宿屋へ向かうことにした。


 それほど大きな町ではないが、馬車が到着したところに町の大まかな見取り図が設置されていた。観光用に設計されている便利な造りだ。来てすぐに食べられるように、ご当地の屋台も出ている。ただ、訪れたのは私たちだけだ。その誰もがスルーしているのに商売としてやっていけるのかがちょっと心配になってくる。


「ファーレン、美味しそうな匂いがしてくるね」


「本当だ。朝からほとんど食べていないから、お腹が空いてきたね」


「うん。馬車で食べたおにぎりも美味しかったけど、わたしちゃんとしたごはんも食べたいな」


「そうだね。ちゃきちゃき宿を抑えて、それからちょっと食べ物屋さんも見てみようか」


「うん!」


 サラがニカッと笑った。


 朝夕の気温が落ちてくることもあり、私は馬車から下りる前にサラに軽めのコートを着させていた。中が腰を絞ったワンピースだから、重ね着なのにすごくスラリとしたシルエットになっている。森の中で保護色になるかもしれないと思い薄緑色のコートを選んだが、サラによく似合っている。


 私は自慢の白衣を翻し、サラを伴い宿へ向かった。



 宿は至極あっさりと見つかった。見取り図にデカデカと描かれていたから位置はわかっていたし、大きく宿屋であることをわからせる主張が強く背の高い看板も掲げられていた。これだけ集客に意欲的だと、予約なしだと当日は厳しいかもしれないな。他にもそこまで大きくはなさそうだけど宿屋はあるみたいだし、最悪どこかに泊まれれば贅沢は言っていられない。


「おや、どうやら泊まれるみたいだな」


 いつもそうなのか、『空き有り』と描かれた小さな看板が宿の前の地面に豪快に突き刺さっている。あれを差したり抜いたりしている店員の姿を想像して口元が緩む。


「よかったね、ファーレン」


「ああ。幸先は悪くないな」


 馬車での道中も何も起きず、懸念だった当日の宿確保も問題なくクリアできそうだ。これで明日森で白虎を見付けることができれば言うことなしだ。ただ、さすがに伝説の四獣である白虎が相手だ。そこまでうまく進むとも思えないが。


 宿の入口に近付くと、集客熱心の主人が直接出迎えてくれた。二名で一泊予定を伝えると、主人は満面の笑みでお礼を述べてくれた。宿泊数に関係なく大歓迎のようで、とても気持ちの良い接客だ。立地的には傲慢になってもおかしくないのだが、驕らない対応は好感が持てる。


「それでは、こちらの部屋をお使いください」


 主人に案内されたのは、サラとふたりにしては充分に広い部屋だった。間取りは大きなひと部屋と、室内にお風呂とトイレが付いている。簡易だけどキッチンもある。随分と充実した内装だな。これであの値段だなんて、どれだけの創意工夫をした産物なのだろう。


「ここはベッドがないんだね」


「そうだね。布団を敷くタイプみたいだ」


「布団?」


「そうか。サラはベッドでしか寝たことがないのか」


 私はサラに説明するより見せたほうが早いだろうと押し入れから布団を取り出し、ササッと広げて寝床を作り上げた。


「すごい……これがお布団」


「こういう宿が用意している布団は良い物が使われているから、ふっかふかで寝心地もいいと思うよ」


「わたし、寝てみたい」


「こらこら。これから食事に出るんじゃなかったの?」


「うー。美味しいものも食べたいけど、ふかふかのお布団でも寝てみたい」


「ごはん食べ終わったらどうせ寝れるんだから、あとにしよう?」


「……わかった」


 まだ心残りがありそうだな。サラは布団をじーっと見つめている。さりげなく足で端っこを踏んで感触を確かめている。意外と抜かりがないな。


「あとでファーレンもいっしょにお布団で寝ようね。約束だよ?」


「一緒か……ああ、わかったよ。約束だ」


 布団はどう見ても二セットある。でも、サラは一緒の布団に入って寝たいような言いっぷりだ。私は別にいいのだが、せっかくなら広々と布団を使ってくれてもいいと思うんだけどな。


 私は一度敷いた布団を折りたたんで隅っこに寄せておいた。


 どうせあとでまた広げるんだし、いちいち仕舞うほどでもないよね。

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