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居酒屋『冒険者ギルド』  作者: ヒース
第2話 ある魔法使いの苦悩(後編)
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ある魔法使いの苦悩41 四獣を求めて

 私は所長に呼び出されて所長室に来ていた。


「ファーレン君、長らく待たせたね」


「情報の精査が終わったのですか?」


「ああ。四獣の一体、白虎の存在が濃厚な場所がわかった」


 今度は白虎か。別名ホワイトタイガー。文字通り白い体躯の虎だ。ただ、その大きさは動物としての虎を遥かに凌駕し、ドラゴンもかくやという大きさと言う。他の四獣である玄武や朱雀も同様に大型の生物だ。だからこそ、聖なる四獣あるいは四神と呼ばれる。


 大昔に実在した伝説の生き物ではあるが、現代ではその存在が確認されたことはなかった。あくまで神話の存在なのかと思っていた。だが、サラが救助したドラゴンが伝説の青龍であった。このことで、四獣が現代に生き残っていることが確認されたのだ。


「白虎も青龍のときと同様に、真っ白な身体の子虎が見かけられたということだ。青龍のときと同じであれば、小さな姿である時点でかなり弱っている状態と見て間違いない。急ぎ現地へ向かい、事の真偽を確認してきてほしい」


「わかりました。準備が整い次第速やかに向かいます」


「頼んだよ」



   ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 所長は話が終わると私に情報を記した書面を渡してくれた。この情報を参考に、今度は白虎を救助することになる。


 場所は、ここ王都から東に位置する大森林。森の中で白い影がときおり見かけられるようになった、という情報がまことしやかに囁かれていた。あれは伝説の白虎ではないかと。


 だが、白虎の背丈は森の木々よりも高く、ひとっ飛びで軽く山ひとつ超えたという言い伝えが残っているほどだ。とてもじゃないが、森の中にすっと影がよぎる程度の大きさではない。見間違えか、あるいは見た目通りただの白い虎なのかもしれない。いずれにしても、目撃情報はあまり多くはない。多くはないが、間違いなく何人もが目撃をしている。


 実際に白虎に遭った者はおらず、そのすべてが白い影が横切ったという同じレベルの情報だった。


「これはとりあえず行ってみる以外の方法はないな」


「次はどこに行くの?」


 サラは私を見上げると、その真紅の瞳に少なくない好奇心の色を浮かべていた。サラもずっと研究所にいるより、あちこちへ旅に出たほうが楽しいのかもしれない。


 それはそうか。私は研究所での魔法開発は仕事だから特に何も思わないが、サラにとってはひとりの時間になる。私の仕事の邪魔になるからとおとなしくしていた。サラは熱心に本を読んでいたから気付きづらかったけど、やはり寂しかったのだろう。


 幸い所長は私のことを旅もできる魔法使いと評価してくれている。今回の四獣保護以外にも、折に触れて調査や探索などの仕事をもっと多く引き受けることにしよう。


 あるいは休みの日にもっとサラと遠出をするのも悪くないな。


「次は東にある大きな森に向かおうと思う。そこに伝説の白虎がいるかもしれないんだ」


「白虎?」


「ああ。大きな虎さんだ。真っ白な毛並みで、穏やかな目で街を守る守護獣だという話だよ」


「虎さんかぁ。虎さんもどこかで困っているのかな?」


「そうかもしれない。サラには負担がかかるかもしれないけど、もしかしたらまたドラゴンと同じようなことが起きるかもしれないんだ」


「……うん。わたし、頑張る」


 サラが私をまっすぐに見つめる。好奇心の色が真剣なものに上書きされる。大きな瞳で私に自分の意思を伝えてくる。


「サラは優しいね」


 私はほっぺたを指でむにっと軽く押した。サラの整った顔が私のせいでちょっと歪んだ。


「ファーレン、なにするの?」


「ごめんごめん。サラがあまりにも真面目すぎる顔をしていたものだから。ちょっとリラックスしたほうがいいよ、ってね」


「だって、わたし真剣だもん」


「わかってるよ。だからごめんって」


 ぷんぷんと怒りを表明するサラに、私は両手を挙げて降参の構えを見せた。それから、怒るサラの頭に手を乗せて軽く撫でた。


「サラの気持ちはわかってる。今回も自分にできることをしっかりやりたいんだろ?」


「うん。わたし、なんだか虎さんも助けを求めてる気がするの」


「白虎がかい?」


「うん……たぶん」


 自信を持って言い切りたいんだろうけど、その根拠がないからかサラは言い切れない。感覚的な話になっている。


 ただ、サラは青龍のときもそうだったが、我々ではまったくわからなかった精神体が発していたであろう『声』を聞くことができた。また、精神体と同化することも、四獣の身体を取り込むことすらも。


 私では及びもつかない特別な力をサラが備えていることはもはや疑う余地もない。であれば、サラを連れて行かない理由も何ひとつない。むしろ私ひとりで向かって、そこで最悪の事態――四獣の死が起こらないという保証のほうがない。


「サラにばっかり難しい役割を押し付けているかもしれない。でも、きっとサラにしかできないことなんだ。私がサラと出会い、四獣とも出会っていくことに必ず意味がある。私はその謎をこれからも追っていこうと思う」


「ファーレンもがんばってる。大丈夫。ちゃんと、わたしが見てるから」


「サラ……」


 私はサラの小さな頭をギュッと抱き寄せた。サラの手が私の背中に回り、同じようにギュッと抱き締める。


「今回も、必ず白虎を救い出してあげような」


「うん」


 私はすぐに旅支度を始めた。前回は準備不足もあったから、今回は予め相当数の魔法道具を購入している。森へ向かうとなると、いくつか追加で用紙しておいたほうがいいものもありそうだ。


 いつもの白衣に袖を通そうとして、そこでハッとして動きが止まる。私は備え付けた簡素なワードローブにずっと吊り下げていた、ほとんど新品と変わらない魔法の白衣を取り出し、改めて袖を通した。


 この研究所に来たときに支給されたものであったが、サイズは変わらなかった。問題なく袖を通すと、扉についてる小さな鏡で自分のその姿を確認する。


 なんだろう。いつもと同じ白衣姿なのに、どこかできる男がそこにいるように見えてしまった。いかんいかん。私自身はいつものファーレンだ。白衣を着ただけで自信を持つなんておかしい。


「ファーレン、似合ってるよ」


 サラが後ろから嬉しいことを言う。


 私はクルッと一回転半回り、白衣の裾をピッと伸ばしてサラに見せた。サラは「おー」と言ってパチパチと拍手をしてくれた。


 ……やっぱり、これは自信を持っちゃうな。私は今一度姿見を覗き込み、今日イチのいい顔をそこに映し出した。

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