ある魔法使いの苦悩40 ストークの弱点
アメリア君のセッティングしてくれた夜の食事会は、アメリア君の狙い通りにストーク君の弱点が露呈するものとなった。
「……眠い」
ストーク君は本当にお酒に弱く、ほんのちょっとの量で酔い始め、少しの量で呂律が怪しくなり、半分の量でぐっだぐだになった。ちなみに今の割合はすべてたった一杯のものだ。で、かなり飲み進めたところで眠気を訴え始めた。
「ほら、弱いでしょ?」
アメリア君はよくわからない名前のカクテルを飲んでいる。カラフルでちょっとの量しかないのに結構な値段がするのだが、彼女はお構いなしに頼みまくっている。
ストーク君は本当にお酒が弱いが、アメリア君は逆に物凄く強い。私はどちらかと言うとあまり飲まないほうだが、今日は勢いもあってかそれなりに進んでいる。料理が美味しいこともあり、自然と飲んでしまった。
サラは私たちがお酒を飲んでいる横で美味しい料理を目一杯頬張っている。
ここは別に飲み屋というわけではなく、癖のあるものから普通に美味しいものまで多種多様の創作料理が楽しめる上に、これまたジャンルを問わずバラエティに富んだお酒も飲める店だ。ノンアルコールのおしゃれなドリンクもあるが、サラは水でいいとのことで料理にお金をかけることにしたようだ。その分、料理に関しての遠慮はないようだ。
「アメリア君もこんな店をよく知っていたね?」
「だから、女子の情報網を甘く見ちゃダメですよ。あたしたち、いい情報も悪い情報も回ってくるのが早いですからね」
「それは……肝に銘じておくよ」
女子は敵に回すと怖いという話は良く聞く。共感能力に秀でている女性は、自分たちに危害を加えるものを集団で排除する傾向がある。悪い噂がすぐに広まるのもそのためだ。
「ほら、ストーク、ファーレンさんのグラスが空いているわよ?」
「うーん……眠い」
「アメリア君、ストーク君に無理させちゃダメだよ」
「えー、だってストークってば、ファーレンさんとお酒が飲めるって楽しみにしてたんですよ」
「眠い……」
確かに、ここに来る前のストーク君はクールマスクではなく楽しそうな顔をしていた。お酒を飲む前もちょっとテンションが高かったような。あれがそれなのか。
「まぁ、こうなるのは知ってたんですけどね」
アメリア君はぺろっと舌を出した。わかっててやるあたり、この子も相当だ。
「聞いてはいたけど、思いのほか弱くてちょっと驚いたよ」
「ストークの数少ない弱点だから、あたしもついつい遊んじゃうんですよね」
「かわいそうだからほどほどにしてあげてね」
「はーい」
反省している様子がないけど、彼女もお酒に酔っている状態だから仕方がない。強いとは言っても、徐々に酔いが回ってきてはいるようだし。
「ファーレン」
不意にサラに服の袖を引っ張られた。
「どうした、サラ?」
「メニュー表取って」
「あ、ああ……」
サラがちょっと怒ったような口調なのでビックリしたが、私が肘の下に敷いてしまっていたメニュー表をずっと取りたかったようだ。私もお酒に酔い始めてしまったようだ。アメリア君と話している間、サラのことが意識から外れてしまっていた。
「まだ食べるのかい?」
「うん。ここの料理、美味しい」
「そうか。私ももっと何か食べようかな」
「ならあたしも頼みたいです」
サラが真剣な顔でメニュー表を繰るのを、私とアメリア君も一緒になって見ていた。私も、おそらくアメリア君も注文するメニューが決まったが、サラがまだ迷っているのでそのまま待っていた。
ようやく決まったのか、サラがパタンとメニュー表を閉じた。
私とアメリア君とサラの分の注文を店員にお願いし、私は残っていたビールをちびちびと飲む。アメリア君はカクテルグラスを手に取り、残っているお酒を飲むでもなくグラスを回して眺めている。
「あっ、ストーク寝ちゃいました」
「本当だ。こう見ると、随分と少年のような顔をしていたんだね」
「普段クールを気取っていますからね。けど、あいつ中身は結構ガキですよ」
「それは同年代のアメリア君の前だからじゃないのかい?」
「そうかもしれないですけど、もっと素直に素を出してもいいと思うんですよね」
「まぁ、彼がそうしたいならそうすればいいんじゃないかな。今のストーク君でも私は好きだけどね」
「ちょっとカッコつけすぎだと思うんだよなぁ。実力があるから仕方ないんですけど」
アメリア君は眠っているストーク君のおでこに軽めのデコピンを繰り出した。「うっ……」小さく呻くストーク君がちょっと気の毒だ。
「アメリア君は誰かをいじるのが好きなんだね」
「ちょっとファーレンさん。なんか誤解を生みそうな言い方ですよ」
「誤解……なのかな?」
「あたしなりに盛り上げようとしている結果です。決してただいじりたいだけじゃないんですからね」
「……なんかごめん」
「ふふっ。あたし全然怒ってませんよ」
満面の笑みを浮かべるアメリア君。やっぱりちょっとずつ酔っ払ってきているみたいだ。
しばらくして私たちが頼んだ料理が運ばれてきた。サラの前には「まだそんなに入るの!?」と思わず口から出た量の料理がでんと置かれた。対峙するサラは立派なチャレンジャーの目をしていた。食べ切る気だ。
私とアメリア君はほどほどの量の料理を食べつつ残っていたお酒も飲み切って今日は打ち止めとした。ストーク君も寝ちゃったし、ちゃんと送り届けてあげないといけないからね。
フードファイターと化したサラは、身体からしたら尋常じゃない量の料理を本当にひとりで食べ切った。なんだかんだと観戦に回っていた他の客や成り行きを見守っていた一部の店員からサラへと賛辞と拍手が送られた。
夢中で食べていたサラは、いきなりの賞賛の嵐に戸惑っていたけど、大量盛りの料理を食べ切ることそのものが功績であることを知るとはにかむように笑っていた。
サラが褒められるとなんだかうれしいな。自慢の娘が褒められてうれしく思わない親はいない。
アメリア君が「えらいえらい」とサラの頭を撫でている。サラがまた困惑していたが、アメリア君は気付かなかったのか、気にしなかったのかそのまま撫で続けていた。
「眠い……」
寝ているはずのストーク君の寝言に思わず私とアメリア君は顔を見合わせ、ぷっと吹き出した。サラも釣られるように大声を出して笑った。





