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居酒屋『冒険者ギルド』  作者: ヒース
第2話 ある魔法使いの苦悩(後編)
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ある魔法使いの苦悩39 一時的な日常

 季節は巡り、暑い日差しの日々も過ぎ、朝夕が涼しくなってきた。


 私はサラと話をし、四獣救助の件を受けることを所長に報告した。所長はとてもうれしそうに何度もうんうんとうなずき、私に「よく決断してくれた」と言いながらバンバンとかなりの力で背中を何度も叩いた。高齢を思わせない若々しくパワフルでまるで武道家のようなパワーで貧弱な魔法使いを殴らないでほしい。


 所長は私たちの決断を尊重してくれたものの、今現在では情報があまりにも少ないとのことでしばらくは出発することもなかった。ある程度の方向性は所長の持つ情報網を使ったほうが早いということだ。元々四獣の情報は集めていたようだが、どれも最終的な信憑性の確認まではしていなかったようだ。私たちが旅に出るまでに、情報の確度を上げる作業がある、というのが待機の理由だ。


 そんなこともあり、私は日常的な魔法の研究開発に戻っていた。


「しかし、本当に失敗しなくなりましたね」


 アメリア君が私を冷やかす。失敗している姿を彼女に見せた記憶はあまりないが、この研究所内のファーレンの噂をわざわざ使っているのだろう。アメリア君はちょっとこういうところがあるな。


「私も成長しているんだよ。この歳になってからやっとだけどね」


「いいことじゃないですか。若いのに自分の力を過信して努力しない奴なんて結構いますよ?」


「私にとっては贅沢極まりない話だな。もっとも、この研究所に来る前の私もそんな過信した若者のひとりだったわけだが」


「ファーレンさんにも輝ける青春時代があったんですね」


「皮肉なことにね」


 アメリア君の距離感はかなり近い。私に対してはこれくらい言っても大丈夫だろう、という位置を適切に弁えている。からかうのが好きなようで、主に私はからかわれる側なのだが。


「サラに出会い、そしてキミたちに出会って私の中で何かのスイッチが入ったんじゃないかな。魔法の研究開発も、なんで今までそんなに失敗が多かったのか、今ではよくわからないというのが本心だ」


「ファーレンさんも元から才能があったんじゃないんですか? たまたまその発揮の仕方がわからなくなってしまっただけで」


「かもしれないね。さっきも言ったけど、学生時代は結構やれていたんだ。ここのレベルが高く、思わぬ劣等意識に潰されてしまっていたのかも」


「たしかにここは凄まじいですよ。あたしの研究とかも、周りのレベルが尋常じゃないですから」


「そんなところに私が入ったら、また自信を完全に喪失してしまいそうだね」


「案外うまくいくかもしれませんよ?」


「よしてくれ。そこまで自信過剰じゃない。今の仕事をミスなくこなすことで精一杯さ」


「そうですか? 意外と難しいものほど才能が開花するタイプかもしれませんよ」


「それだったら素晴らしいね。まぁ、リスクが高いので今は遠慮しておくよ」


「残念です。ファーレンさんと一緒に研究できたら楽しそうなのに」


 本当に残念そうにアメリア君が困ったような笑顔を浮かべる。そこまで私を評価してくれるのはうれしいが、さすがに評価が不当に高すぎる。今までの累積マイナスを埋めてからじゃないと、私はそんなだいそれたことはできないよ。


「ストーク君は元気かい?」


「ストークならあの日以来、外に出ていることがとっても多くなりましたよ。やっぱり、サラちゃんのことが気になるみたいで、同じような話がどこかに転がっていないかを熱心にかき集めていますね。成果は芳しくないみたいですけどね」


「そうか。ちゃんと約束を果たしてくれているんだ。やっぱりストーク君はいい男だな」


「ふふっ。ファーレンさんはストークをいつも絶賛しますよね」


「実際凄いからね、彼は」


 なぜか私が自慢したくなる。それくらいストーク君との冒険で彼への印象が天井知らずに上がってしまった。もしかしたら私がなりたい姿がストーク君の姿と重なるのかもしれない。私がなれなかった理想の私に。


「今度ストークを飲みにでも連れて行ってあげてください。あいつ、お酒弱いから楽しいですよ」


「弱いのに連れ出すのは感心しないな」


「まぁまぁ、そのときはあたしも誘ってくださいね。サラちゃんは……難しいかなぁ」


「飲み屋は難しいけど、食事のときに一杯飲むくらいなら大丈夫じゃないかな」


「じゃあ、あんまり飲ませてもストークがかわいそうだから、美味しいごはんがあって美味しいお酒が飲めるところがいいですね」


「良かったら探しておいてくれないか? サラも安心して入れるようなところがいいな」


「わかりました。女子の情報網もストークに負けませんよ」


 アメリア君は小さなガッツポーズを作った。なんだか頼もしいねぇ。


「じゃあ、あたしそろそろ休憩時間終わるので戻りますね」


「ああ。いちいち私のことを冷やかしに来なくてもいいんだよ」


「ファーレンさんはついでです。サラちゃん成分をときどき回収して、それで一日頑張れるんですよ」


「ついでって……まぁ、私も君と話せてリフレッシュできてるから、君が来たいならいつでも来ていいよ」


「……はい」


 なんか照れてる? アメリア君はほんのりと頬を染めると、そそくさとした様子で私の部屋から出て行った。


「ファーレンは、スゴイと思う」


 今まで何も言葉を発していなかったサラが不意に零した。


「ん? 何が?」


「なんかわからないけど、ファーレンはスゴイと思う」


「よくわからないけど、ありがとう、サラ」


 私はサラの頭にポンと手を乗せると優しく撫でた。

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