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居酒屋『冒険者ギルド』  作者: ヒース
第3話 ある女商人の苦労話
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ある女商人の苦労話11 これが勇者なのね

 私はひたすらに元勇者に話を聞いた。


 彼は終始にこやかに私の質問に的確な回答をくれた。ときには思い出話を語ってくれて、それが素敵な冒険譚なものだから聞き入ってしまったわ。取材なのに。


 なぜか名前は教えてくれないから、元勇者という呼称で呼ぶしかないんだけど、周りも特にそれを不思議がっているところはないから私だけがおかしいのかもしれない。


「…………とても参考になったわ。私、思ったより勇者のことを知らなかったみたい」


「仕方ないんじゃないかな。勇者ってレアな職業みたいだし」


「みたい、というかレアよ。私は書物でしか知らなかったし、同じ世代に勇者がいただなんてことも知らなかったわ」


「同じ世代……じゃないかもしれないからね」


「えっ……どういう意味?」


「もしかして君は居酒屋『冒険者ギルド』の仕組みを知らないのかな?」


 元勇者がにこやかな表情から一転、真剣な顔になって私の目を覗き込む。……吸い込まれそう。


「初めてだったら仕方ないんじゃねーか?」


「そうね。未だにあまり気にしていない人も多いと思うし」


 戦士風の男と妖艶な美女もどうやらその『仕組み』とやらを知っている模様だ。


「それって……?」


「ああ、簡単に言ってしまえばこのお店は時空が歪んでいるんだ」


「時空が……歪んでいる!?」


「うん、そう」


 簡単に言ってしまっていい内容じゃない気がするんだけど、これも誰も不思議がらない。ミユも聞いているはずが元勇者に夢中で張り付きすぎてさっきから全然発言もしないし。


「とんでもない話なんだけど、本当……なの?」


「本当だよ。だから僕が生きている時代に君は生きていないかもしれないし、逆もまた然りだね」


「そんなことって、ありえるの?」


「ありえるありえないじゃ、ありえているとしか言えないよ。一番わかりやすいのは一緒に店から出ることだよ。みんなバラバラになるから」


「……俄には信じられないけど、信じるしかないのよね」


「信じる信じないは君の自由だよ。僕は別に君を騙そうとも思っていないし、疑われたところでそれも気にしないから安心して」


「ううん、ごめんなさい。信じるわ。勇者が嘘つくわけないし」


「そこまで全面的に勇者を信用してもダメだよ。元勇者なんて、一般市民と同じなんだからね」


 元勇者ははにかむように笑った。この笑顔も素敵だわ。


「私、そこのミユと一緒にお店に入ったんだけど、その場合は同じ時代ってこと?」


「そうだよ。一緒に入ってきたんなら一緒に出てもバラバラにならないからね。ただ、君たちは入り口で一緒だったから関係ないけど、もしこのお店で意気投合して外に出たら店の中と年齢が違うってパターンもあるんだよね。これは僕は体験していないけど、結構ビックリするみたいなんだ」


 元勇者はおかしそうに笑う。そこ、ちょっと笑えない気がする。例えば、元勇者と私が20年ズレた時代を生きていれば、ここから出たら元勇者が20歳若返るか、20歳年取るってことよね? 若返るほうはまだしも、いきなりおじさんとかおじいさんになったらちょっとショックで寝込むかもしれない。


 ……この勇者なら、おじさんでもありかも。


「勇者に話を聞けただけでも大収穫なのに、居酒屋『冒険者ギルド』の仕組みが知れたことも大きいわ」


「それは良かったね。でも、この店のことはあまり詳しく口外しないほうがいいと思うよ」


「なぜかしら?」


「これは僕が言うことでもないんだけど、まぁ、君がここに来ることが難しくなるから。それが理由かな」


「……予測でしかないけど、時空が歪んでいることと関係していそうね」


「察しがいいね。まぁ、マスターの気持ちを代弁するなら、ここはみんなに楽しんでもらいたいマイホームのようなところだから。あまり、荒らされたくないんだろうね。事実もありのまますべて伝えたり知ればいいってものでもないんだよ。知らないほうがいいこともあるってこと」


「肝に銘じておくわ。あなたのことは公にしても?」


「僕のことはご自由に。もっとも、さっきも言ったけど今はただの一般市民だから、なるべくなら静かに暮らしたいかな」


 元勇者はにこやかに許可をくれたが、結果としてこれは私に対しては大きな縛りになった。


 店の秘密も、勇者の詳細も、私は知った。ただ、その知ったことを言うか言わないかは私にバトンが渡されている。このバトンをどう使うかは私自身が決めないといけない。

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