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居酒屋『冒険者ギルド』  作者: ヒース
第3話 ある女商人の苦労話
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ある女商人の苦労話6 冒険者の食事

 次に運ばれてきたのは、フレッシュトマトとモッツァレラチーズのオリーブオイル和え。バジルの香りが食欲をそそるわ。もちろん、こんな洒落たおつまみを注文するのはミユよ。


「これはビールよりもワインが合うわね」


「もちろん! けど、好きならビールでもいいんじゃない?」


「私、揚げ物中心だからビールのほうが好きなんだけど、こういうおつまみだとワインも飲みたくなっちゃうわ」


「だったら頼みましょ。わたしももらうわ」


 ミユはもうちょっとで飲み終わるカシスウーロンのグラスを軽く左右に振る。見れば私のビールジョッキもほんのひと口ふた口で終わりそう。


「じゃあ、店員さん呼ぶわね」


 私は呼び鈴を鳴らし、ドリンクのお替りを頼むことにした。まもなくまた若くて元気な可愛い女店員さんが注文を取りに来てくれた。ふたりで飲むから、ワインはボトルを入れることにした。白と赤のどっちにする? ってい聞いたら、ミユが「ロゼ」とどっちでもないものをオーダーした。


「ロゼのボトルですね。グラスはふたつでよろしいでしょうか?」


「ええ。大きめのワイングラスってあります?」


「大きめですか? ありますよ。大きいグラスをふたつお持ちしますね」


 私とミユは注文前にグラスとジョッキを空けていたので、空いたグラスは回収してもらった。ドリンクのテンポをちょっと間違っちゃったから、美味しそうなアンティパストを前にお預けを食らう形になってしまった。


「ワイン、楽しみね」


「ええ。ロゼってどんな料理にも合うからオススメよ」


「私、ワインは赤か白しか飲んだことなかったわ」


「それはもったいないわ。ロゼは一般的じゃないかもしれないけど、赤と白のいいとこどりでもあるから温度次第で軽めの料理にも強めの料理にもどちらにも適しているの。今回は冷たいほうがいいと思うけど、そこはなんとでもなるのがロゼのメリットね」


 やたらと詳しくミユがワインについて語っている。冒険者としてあちこちに行っていたからこそ、その土地その土地に合うお酒も堪能したのかしら? 私は商人だけどお酒を扱わなかったからそんなに詳しくはないけど、もしこの先また商売をすることになったらロゼを取り扱ってみようかしら。なんてね。


「もっとも、そもそもワインを料理に合わせて飲むような感じでもなかったんだけどね」


「それって、ミユがいたパーティーの話?」


「うん、そう。もっぱらビールよ、やっぱり。わたししか女いなかったし。酒場とかだとワインそのものがないことも多いわ。あっても赤だけとか」


「お肉料理が多そうだものね」


「本当にそう! どこに行っても肉肉肉。冒険者が寄る宿や酒場って、どうしてもそうなっちゃうみたいね」


「あはは。私も食べ物を扱っていたからわかるけど、そういうところは仕入れる量がハンパじゃないわよ」


「そうなの? ……まぁ、そりゃ、そうよね」


 冒険者は基本的に男が多い。生命を懸けた戦いも多いし、力仕事も多い。遠方への長距離の旅や、ダンジョンの探索中は野営もあるというのも女性が敬遠しやすい。パワフルな活躍をするためにはエネルギーがいる。筋肉を増やすには肉を食べるのが一番。だから、冒険者向けの商売は肉と酒がよく売れる。


「ジェリカは食べ物には詳しそうよね」


「詳しいと思うわ。もう第一線を退いて久しいけど」


 私は今でも昔の商人仲間と連絡は取っている。特に、自分が借金してまでフォローしたからか、元部下からは今でも頼りにされることもある。もっとも、頼りにされても今の私じゃなんの役にも立てないんだけどね。


「なんか、ミユと話をしていたら商人だった頃の気持ちが戻ってきちゃうなー」


「それなら再開したらいいんじゃない?」


「……無理よ」


「借金があるから?」


「それが一番ね。返済しているとはいえ、親に肩代わりしてもらって実家でのうのうと暮らしておいて、また商売再開ってわけにはいかないわ」


「……うまくいかないものね」


「うまくいかなかったからね」


 そう。私は失敗した。多くの借金を抱えて身の破滅直前だった。確かに商人である自分は輝いていたと思うし、今でもまたうまくやれるんじゃないかって思ったりもする。失敗はたまたま運が悪かっただけじゃないのかって。


 でも、それは虫が良すぎる話。


 また失敗したら今度こそただじゃ済まない。親にもこれ以上の負担はかけられない。かといって、私の今の信用じゃたいしたお金も借りられないし、元手がいる商売はそもそも難しい。


「……ねぇ」


 ミユが真剣な顔をして私に話しかけてきた。

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