ある女商人の苦労話4 乾杯
「お待たせしましたー」
年の頃三十ちょっと前のそこそこガタイのいいお兄ちゃんが、シュワシュワと泡立つドリンクをふたつ運んできてくれた。
私はビール。そして、ミユはおしゃれにカシスウーロン。
私たちは「かんぱーい!」と言うなり、すぐに淹れたてのドリンクを口にする。しっかりと立てられた泡が口当たりの良さと滑らかな喉越しを運んでくる。あー、やっぱり最初のひと口がとってもおいしいわ。
ミユは私とは違い、チビリチビリとやっている。
「ミユっていつもそんなの飲んでるの?」
「うーん、マチマチかなぁ」
「ふーん。ビールは飲む?」
「飲むわよ。ただ、どっちかと言うと家で飲むときかな」
私は悟った。ミユはとても外面を気にしているから、外で誰かと飲むときは豪快な感じになるビールではなく、ちょっとずつ飲んでも不自然じゃないライトな印象のドリンクを口にする。酔いづらいし、何よりおとなしく清楚な感じを与える。たぶん。それで、家では何も気にしなくていいから、だらしなーい感じでビールを口にするのね。さすがだわ。
「私は家でも外でもビールかな。一度ハマったら抜けられなくて」
「ジェリカはそんなイメージね」
どういうイメージ? 女らしさなんてないって? ミユって意外と毒吐くタイプなのかな。ちょっと興味が湧いてきたわ。
「ミユはどれくらい飲める?」
「量?」
「うん、そう」
「そんなに飲めないわ。これだったら3杯くらいで結構酔っちゃう」
これ、というのはカシスウーロンのことなので、大きめのグラス3杯はそれなりね。
「ジェリカは? ジェリカってたくさん飲みそうじゃない?」
「私は飲むわよ。ある意味無限にいけるわよ」
ちょっとしたドヤ顔でアピールする。どうせミユは私に女らしさを期待していない。だったら、いっそ期待に応えるべくちょっとした男らしさすら漂わせるのが正解よね。ある意味、着飾らなくていいから気楽でいいわ。
「やっぱり!」
すっごい嬉しそう。そこまで?
「とはいえ、今は実家住まいだからそんなにたくさんは飲まないわ。お父さんに付き合って、軽く飲んでおしまいって感じかしら?」
「お父さんと飲むんだ。そういえばわたしは父親と飲んだことなかったかも」
「冒険者だから?」
「それもある。けど、きっかけがなかっただけね」
「私も実家に戻ったからそうなっただけで、商売しているときは実家にあまり寄り付かなかったから、仲間とか部下と一緒に飲みまくっていたわね」
「似合いそー。うん、似合う似合う!」
「そう? ……まぁ、もっとも、なんだかんだで私の奢りが多かったから、今思うと使いすぎたわね」
似合うというのは豪快な飲み会のイメージのことだろう。ミユから見た私のイメージがどんどん固定化されていっているけど、まぁ、いいか。
「今だったら私が奢ってもらいたいわね……って、別にミユに奢ってもらいたいとかそういう意味じゃないわよ?」
「わたしも奢る気ないから気にしないで」
きっぱり。
こういうところ、ちょっと好きかも。下手にぶりっ子でも疲れるし、テンションが違って疲れそう。それに比べれば、明け透かないミユの口調はわかりやすくていいんじゃないかな。
「ねぇ、ミユ」
「なに?」
「そろそろ何か頼まない?」
私とミユはただお酒を飲んでいた。一応お通しも出てきたけど、ムース仕立てのかまぼこと銀杏、それに小魚の釜茹ではあっという間に終わってしまう。私はビールだから、揚げ物がほしいかなぁ。
「せっかくだから、お互いに好きなものをいくつか頼んでシェアしない?」
「それぞれの好みに任せるってわけね。ちょっとおもしろそうじゃない」
「でしょ? ジェリカが何を頼むのか楽しみだな」
「変なものを頼むのはなしね」
「わかってるわ。わたしだって、美味しくないもの食べたくないしね」
ふふっとふたりでほぼ同時に不敵な笑みを浮かべる。やはり、一品はトリッキーなものを注文しないとね。闇鍋オーダーにした意味がない。とはいえ、せっかくお金払うんだから私も美味しいものは食べたいし。なかなか考えないといけないかも。





