ある魔法使いの苦悩34 連携
ストーク君が振り下ろした剣がきっかけで、ドラゴンの右側の床がかなり大きく崩れた。
バランスを崩したストーク君はすんでのところで転落を免れた。内と外から同時に力が加わったためか、さっきまで私たちがやっていた作業とは段違いの崩壊だ。
「ストーク君、もう充分だ!」
「わかりました。次は左手側を拡張します!」
ストーク君は大きく迂回をしながら元いたドラゴンの左手側に移動する。
「サラ、慎重に出てくるんだ」
私の声が届いたのか、ドラゴンは急激に身軽になったであろう右前足をのそりと床の上に乗せた。かなり大きな鉤爪の先端が床に食い込む。バラバラと破片が崩れて、体重を乗せたら足場が崩れてしまいそうだ。
「マズイな……ドラゴンを出すには穴を広げる必要があるが、それだとドラゴンの体重を支え切れないかもしれない」
「たしかに。どうします?」
「……とはいえ、どの道このドラゴンはここから出す必要がある。最悪、ここの床を全部破壊してでもドラゴンの救助を優先すべきかもしれない」
言って私は覚悟を決める。サラがドラゴンと同化してしまっている以上、いずれにしても私はサラを救い出さないといけない。アメリア君とストーク君を先に帰し、たとえ私ひとりになったとしても。
「ファーレンさん、あたしたちもいますからね」
私はハッとしてアメリア君を振り返る。まるで私の心を透かし見たようにうなずくと、アメリア君は笑顔を浮かべた。
「ひとりで抱え込まないでください。あたしとストークはファーレン班のメンバーです。存分に頼ってください」
「アメリア君……」
「ということで、早速ですが、ここからはあたしの出番です。サラちゃんの身体をお返しします」
アメリア君はそう言うと、今の今まで大事に預かってくれていたサラの身体を私に託した。私はサラの身体を受け取ると、抜け殻のようなサラをおんぶした。脱力しているからか、小さな身体なのにやけに重く感じた。
「アメリア君、何をするつもりだ?」
「土魔法の応用です。あのドラゴンが足場にするであろう地面を硬化させます。ストークが崩した範囲で崩落が止まるように」
「そんな高度なことができるのか……」
「ふふっ、あたしこう見えて優秀ですから」
失礼ながら私はアメリア君が優秀であること以外、どんな魔法が使えるかは把握していない。ストーク君にしても同じだ。私はもう少し仲間の力の把握をしたほうがいいな。反省だ。
「ストーク、硬化したところを壊さないでよ!」
「そんなヘマはしない。おまえこそ俺の邪魔はするなよ」
「あたしだってそんなヘマはしないわよ!」
ふたりの実力者は、お互いの魔法が干渉しないように影響範囲を共有した。ただの口喧嘩のように振る舞っているが、お互いにそれなりの信頼がないとできない。まるで反対の効果を同時に同じ無機物に適用するのだ。下手をすれば過干渉で魔法の暴発を招きかねない。
「それじゃあ、ドラゴンを救出するわよ」
アメリア君が精神を集中して、魔力を練り上げ始めた。
最近では直接魔法を使用する者は少なくなり、魔法は便利道具のように扱われている。魔道具や簡易魔法陣など、補助ツールを使えば少ない魔力でも最大の効果を得られる。うまく作り込んだ道具であれば魔力を持たないものでも、ほとんど魔法と同等の力を使うことができる。
魔法使いといえどその例外ではなく、わざわざ自分の魔力を消費して、副素材の利用もなく直接魔法を使用するのは効率が悪いとされている。だが、アメリア君は魔力の集中のみで魔法を行使しようとしている。そういえば夢中になって気にしていなかったが、穴を掘っていたときに使い続けてくれていた筋力強化も、アメリア君はなんの支援もなしに魔法を行使していたんだ。優秀とかそういう次元じゃないな。
「サラ、もう少し我慢してくれ」
右前足を中途半端に引っ掛けたところで身動きが取れなくなっているドラゴンは、アメリア君とストーク君の動きを目だけで交互に追っている。
「……できたわ!」アメリア君は両手を伸ばしてドラゴンの正面側の床を対象に魔法を発動した。「転用土魔法『硬化』!」
床全体が灰色の光に覆われるとすぐに吸収されるように消え去った。
「さぁ、出ていらっしゃい」
アメリア君は両手を広げ、まるで母親が我が子を抱き締める前のように優しく包み込むような笑顔を浮かべた。





