ある魔法使いの苦悩32 サラとドラゴン
「サラ……」
私は再びそうつぶやいていた。ほとんど無意識に口から出てしまっている。
「ファーレンさん?」
アメリア君が横から私の顔を覗き込んでくる。今、私はどんな表情をしているのだろう。
「どうしたんですか? サラちゃんなら後ろにいますよ」
そうだ。サラは後ろにいる。そのはずだ。
私は後ろを振り返る。たしかにそこにはサラがいる。だが、どうにも解せない。
「ファーレン先輩……もしかして」
ストーク君が何かを察したようだ。彼は鋭い。もしかしたら、サラの様子と私の様子からひとつの答えを導き出したのかもしれない。
「……サラの心が、ドラゴンの中にいるかもしれない」
私ひとりでは荷が勝ちすぎている。弱音になってしまうが、仲間の協力がほしい。
「どういうことですか!?」
アメリア君が驚きを隠さずに私に聞いてくる。
「言葉そのままだよ」
私はサラを見て、また振り返りドラゴンを見る。
「サラの心が身体から抜けて、どういうわけかドラゴンの身体の中にいる気がする」
「ドラゴンのこどもの精神体も消えていますね。何か関係がありますか?」
「おそらくいっしょに身体の中にいるんじゃないかと思う。サラがどういう理由でそうしたのかはわからない。自分からなのか、強制されてのものなのか……」
「……穏やかな話じゃなさそうですね」
アメリア君が真剣な口調でそう言う。彼女も賢い。状況で事態を察してくれたようだ。
「これが何を意味するのかはわからない。ただ単にサラがドラゴンのことを起こしているだけかもしれない。方法は普通じゃないけど」
そして、それは私がそうであってほしいと願っていることだ。
サラはドラゴンのこどもとコンタクトを取って、自分の意思でいっしょに精神体としてドラゴンの身体の中に入ったのだ。ドラゴンの精神体は弱っている。単独では身体に戻ったとしてもそのまま死んでしまったかもしれない。
サラは何らかの理由でそれに気づき、意を決して自分を危険に晒してでもドラゴンを助けようとした。
これがありえる一番マシな結果だ。
「いずれにせよ、ドラゴンが起き上がるのを待つしかなさそうですね」
「このドラゴンが悪いドラゴンじゃないといいわね」
ストーク君とアメリア君は警戒をしつつ、ドラゴンの挙動を見守ることにしたようだ。
精神体がこどもの形をしていたからあまり気にしていなかったが、もし力を取り戻したときに果たして私たちに対して友好的とは限らない。万が一攻撃を仕掛けられるようなことがあれば――さすがにただでは済みそうもない。
どうして掘り返す前にそう考えなかったのだろう。動かないドラゴンを見て、救助を優先したのは判断として間違ってはいない。いきなり動き出したから動揺しただけだ。
「危険は、ないと思う」
なんとなくだがそう思った。もしサラの心がドラゴンの中にあれば、絶対に私たちを襲うようなことはしない。そう信じられるからだ。
「あたしたちが心配しすぎなんでしょうか?」
「心配にしすぎとかはないよ。あのドラゴンは長いこと硬い床の下に埋もれていたんだ。ちょっとした背伸びをしたつもりでも、私たちにとっては攻撃に見えるかもしれないからね」
「じゃあ、やっぱり警戒は続けておきますね」
「そうしておいてくれないか」
私は一歩前に出る。
「サラ……きっと大丈夫だよな」
ドラゴンに向けて呼びかける。返事はない。だが、それでも構わない。
「サラ、何があっても――私が絶対助けるからな」
「”私たち”ですよ、ファーレンさん」
「そうです。俺たちもいますよ」
「アメリア君……ストーク君」
本当に頼りになる仲間を得られてうれしい。私は、サラを失うんじゃないかということをわずかに考えてしまったが、その考えを完全に捨て去った。
だいじょうぶ。サラはいなくなったりしない。
いよいよドラゴンの鼓動は大きくなり、その手足がピクピクと動き始めた。





