ある魔法使いの苦悩15 続・サラとお買い物
結局、サラが気に入った服を三着と、私が見繕った服を一着の計四着を購入した。色々なお店を見たほうがいいんじゃないかと言う私に関わらず、サラは一店ですべて決めてしまった。迷いがない、いい決断力だ。
私が選んだ一着はとても時間がかかり、サラが試着も含めて三着選び終わったのにまだ決まらなかった。迷いまくりのダメな決断力だ。
でも、これでいい。せっかくならサラにはかわいい服を着てもらいたいものだ。
「じゃあ、次は靴を見に行こうか」
「うん」
あいにく服屋に靴が売っていなかった。小物はいくらか置いてあったが、サラが特に興味を示さなかったので服だけを買って他は別の店に委ねることにした。
サラは心なしかルンルン気分で歩いているように見える。女の子だからやっぱりお買い物はたのしいのかもしれない。
今日は遅めに商業区に来ていたので、服を選び終わった時にはとてもいい日差しが出ており、少し暑いくらいだった。
靴を選び終わったらお昼にしようかな。いい天気だし、外で食べるのもいいかもしれない。
「あっ! あそこに靴屋があるな」
何段かの箱が積み重ねられていて、一番上に靴が乗っている。それがいくつも並んでいた。大人用の靴のようだが、中に入れば子供用もいくらかはあるだろう。
店内に入ると、案の定その一角に子供用の靴が並べられていた。
種類はそんなに多くないようだ。もっとも、サラが今履いているローファー以外に、ブーツ系とスニーカー系をひとつずつ買えれば充分だろう。
ここでもサラはやはり赤に目が行くようだ。でも、見ているだけで取りはしない。
「サラ、どれか気に入ったのあった?」
「迷ってるの」
「ゆっくり選んでいいからね」
今の靴が茶色だから、必ずしも赤ばかりを選んでいるわけでもなさそうだ。黒とか茶色とか、シルバーっぽいのも手に取っては置いてを繰り返している。
しかし、足のサイズが小さい子供用なのに、随分と細かい装飾を施しているのもあるもんだな。手が込んでいるものからシンプルなものまで様々だ。子供でもヒールの高い靴を履くのかな? 気をつけないとすぐに転んでしまいそうなものだが。
ひとつ試しに手に取ってみる。私の手の上にすっぽりと乗ってしまうのだからやっぱりかなり小さいな。
「ねぇ、ファーレン」
「ん? なんだい、サラ」
「これ、ほしいかも……」
「どれどれ――うん、いいんじゃないか」
「ホント?」
「本当だよ。サラが選ぶのはなかなかセンスがいいと思うよ」
サラがちょこんと摘むように私の元に持ってきたのは、ローヒールのパンプスだ。爪先部分に大きなリボンが付けられていてとてもかわいらしい。さっき買ったワンピースの袖にもリボンがついていたけど、サラはリボンも好きなのかな?
足首をクロスのバンドで留められるので、簡単に脱げないのもなかなかいい感じだ。バンドを留める金色の金具が黒い靴にワンポイントになっている。
動きやすい靴がこれで二足目になったから、だいぶ幅が効くようになった。
「もう一足もここで買う?」
「うん。また見てくる」
サラは私に靴を預けると「大事に持っててね」と言いおき、トテトテと別の靴を探しに行った。私はサラが選んだ靴を持って、店員に断りを入れて近くにあった試着用の椅子に腰掛けて待つことにした。
何気なく店の中から外を見ていると、不意に見覚えのある茶色の癖っ毛が通り過ぎて行ったように見えた。
ん? まさか、昨日の今日でアメリア君か?
「あれ、ファーレンさん?」
見間違いではなかったようだ。
通り過ぎたと思った彼女は、こちらに気がついたのかすぐに戻ってきた。
アメリア君は普段の白衣とは随分と印象が異なっていた。スラリとしたジーンズに、ゆったりとしたドレープの効いたカットソー、その上に薄手のカーディガンを羽織っている。首元にはリボンチョーカーが巻かれている。
「めずらしいですね。今日はどうしたんですか?」
「ああ。サラの服と靴を買いに来てるんだ」
「サラちゃんの服ですか!!」
ビックリした! 急にテンション高いなぁ。
「あ……ああ。あっちで選んでいるよ」
私がサラの方を指し示すと、アメリア君は店内にすすっと入って来るやそのままサラの元へ向かった。
どうやらいきなり話しかけたようで、サラがちょっとビックリしている。遠慮ないな。
サラがこちらに視線を向けてきた。私はひとつうなずきを返すと、それで理解したのかサラはアメリア君の方へ向き直り、何かを話し始めた。
「こういうのは女の子同士のほうがいいだろうしな」
私はそんなふたりの様子をなんとはなしに見ていた。すると、さっそくアメリア君がサラにいくつかの靴を見繕い始めたようだ。パッと見ではサラのセンスと似ているような感じだ。サラの様子からもそれが窺える。
あ、そうだ。私が提案するのも妙に思われるかもしれないが、このあとお昼ご飯の予定がないようだったらアメリア君にも声をかけてみるか。どうにも彼女はサラのことが気に入っているようだし、せっかくだからサラと仲良くなっておいたもらえたら何かと助かるかもしれない。
アメリア君の主導で、サラは店員さんに次々と靴を試着させてもらっている。サラも色々とカラフルな靴を履けて満更でもないようだ。
本当にだんだんと表情が豊かになってくるなぁ。
「ファーレンさん」
離れた場所からアメリア君が呼びかけてくる。
「これなんてどうかしら?」
どれどれ。……ほぉ、なるほどなるほど。
「アメリア君の目利きもなかなかだね」
「でしょ? あたし、誰かに似合う服を選ぶの好きなんですよ」
言うだけあってなかなかのものだ。身体の小さなサラでも違和感なく履ける、適度な長さの革製のブーツが良く似合っている。淡紅色のワンピースに勝ちすぎないように、やや黄色がかった薄茶色――亜麻色のブーツだ。主張が過ぎないので、どの服にも似合う気がする。
「サラに良く似合ってると思うよ」
「あたしもそう思いますよ」
私たちからべた褒めされて、サラもうれしいような恥ずかしいような微妙な顔をしている。えへへ、と言っているあたりうれしさのほうが強そうだ。
「ありがとう。キミもサラもたのしそうでなによりだよ」
「サラちゃんのためになるなら、あたしも協力しますから」
「よかったな、サラ」
「うん」
結局、この靴屋では合計三足の靴を購入した。
サラが「お姉ちゃんはこの靴が似合いそう」と言って選んだ靴をアメリア君がとても気に入ったので、今日のお礼にと私がプレゼントしたのだ。
どうやらアメリア君は今日は適当にぶらついていただけで用事があったわけではないようなので、せっかくだからお昼もいっしょにどうかと誘ったところ、ふたつ返事でオーケーをくれた。
――サラの力は絶大だ。





