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居酒屋『冒険者ギルド』  作者: ヒース
第1話 ある勇者の冒険譚
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ある勇者の冒険譚②

 ――勇者が負けた。



 この事実を受け入れるのには相当勇気がいるのだが、事実だから受け入れるしかない。


 大敗だった。


 仲間は誰も殺されなかったけど、皆どこかバラバラの場所に飛ばされてしまったのだろう。


 気がついた時には僕ひとりで道端に倒れていた――とあとから聞いた。


 通りがかりの人に起こされて、僕は自分の闘いが終わっていたことを思い知らされたのだ。


 魔王は笑顔だった……と思う。邪悪な笑みとかそういうのじゃなくて、とても純粋なもので、心から僕たちとの闘いを楽しんでいたみたいだった。


 実際僕らを圧倒的にぶちのめしただけで魔王が満足したから、僕は生き残り、今ここにいる。



「……勇者様」


 僕を助けてくれた村人の男性がおずおずと声をかけてきた。とても心配そうな、いや、不安いっぱいの表情だ。


 僕は休ませてもらっていたベッドで半身を起こしていたので、入り口から入ってこようとしていた男性をただじっと見ていた。


「具合いの方はどうでしょう? かなり傷を負っていたみたいですが」


「だいじょうぶ……だと思う」


「そうですか」


 男性はホッとしたように安堵の表情を浮かべた。不安そうな表情は僕の身体を思ってのことだったのだろう。


「助けてくれてありがとう。とても感謝しているよ」


「そんな……お礼なんて」


 照れくさそうに男性は後頭部を右手でさすっていた。


「いや、本当に助けてもらえて感謝してる。もしあのまま誰にも見つけられていなかったら、さすがの僕でもどうなっていたか」


「あのときはビックリしましたよ! 誰かが道で倒れているなと思って駆けつけてみれば、それがまさか勇者様だったなんて」


「そりゃ……驚くよね」


「はい。でも、あそこで見つけることができて良かったですよ! 勇者様がなんで倒れていたのかはわからないですが、傷だらけだったし、何かうなされていたので早く休ませてあげないとと必死でしたから」


 男性が当時を思い出したのか、驚いた顔や困った顔、必死な顔を百面相のようにするので、僕はちょっとおかしくなってしまった。


 決して笑えるような状況じゃないんだけど、勇者が魔王に負けても、特にまだ何も起きていなかったということにちょっと安心したというのもあったんだと思う。


 僕が目を覚ますまでに丸一日以上経ったようだけど、この村には特に情報は入ってきていない。人通りが多いわけでもないから情報が入りづらいというのもあるだろうけど、そういう感じでもない。


 本当に”何も起こっていない”のだ。


「いつまでもここで世話になってもいられないから、僕はそろそろここを出て行こうと思う」


「そんな、まだ休んでいてくださいよ」


「……」


 僕はちょっと言い淀む。勇者が魔王に負けたという事実を言っていいのかどうなのか。


 だが、このまま甘やかしてもらい続けるわけにもいかない。


 幸い勇者の身体は便利にできていて、戦闘をたくさんできるように自己治癒能力が極めて高い。僕の傷も運ばれてきたときがどんな状態だったかまではわからないけど、魔王の攻撃をたくさん受け続けていて負けたくらいだからかなりのものだったと思う。


 それがきれいサッパリ見える範囲での傷はもうない。身体に蓄積している痛みとかも特に感じない。


 状態としては万全の全快に近いのに、村の人の好意に甘えていつまでもダラダラしていては勇者としての尊厳が地に落ちる。


 すでに”魔王に負けた勇者”という不名誉な称号を得てしまっているんだ。今さらそれを隠したところでどうしようもない。


「どうされたんですか……勇者様?」


 さすがに僕がややうつむいたまままったくしゃべらないことが気になったのだろう、男性が僕の顔を下から覗き込むようにして声をかけてきた。


「実は、僕は――魔王に敗れてしまい、それでこの村まで飛ばされてしまったんだよ」


「魔王に……敗れ……えっ!?」


「ガッカリしたかい?」


「いえ……でも、ちょっと驚きました」


「手痛い大敗だったよ。魔王が勝負にしか興味がなかったから助かったけど、もしそうじゃなかったら今頃どうなっていたことか」


「勇者様でも負けてしまうなんて……魔王はそんなに強いんですか?」


「強かった。僕らの準備不足もあったんだ。それでも、もしもう一回戦ったとしてもやっぱり勝てないかもしれない」


「そんなに……」


 大げさに言っているわけではないが、あまりにも正直すぎてしまったか。



 村人や町民にとって、勇者は絶対の存在だ。


 あらゆるところに冒険者はいるし、彼らも戦闘をおこなっているし、人を助けたり魔物を倒したりかなりの活躍をしている。


 それでも、職業”勇者”は貴重なのだ。


 その絶対に存在が道端に傷だらけで倒れ、しかも本人の口から魔王に負けたなどという冗談にしては笑えない発言があるのだ。驚きを通り越してショックを得ても仕方がない。


「でも安心してくれ」


 僕は男性の目を正面から見据える。


「僕は勇者だ。絶対にあきらめない。何度だって立ち上がって魔王に挑む。何度負けても戦い続け、そして最後に――」


 ニッカリと笑い、


「絶対に勝ってみせるよ」


 そう言って僕は立ち上がり、男性と握手を交わした。



 勇者の復活劇。


 それが僕が最後にやらなきゃいけない――使命だ。

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