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居酒屋『冒険者ギルド』  作者: ヒース
第1話 ある勇者の冒険譚
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ある勇者の冒険譚⑯

 孤島の洞穴でそれぞれの武器強化を終え、迷いの森林にてリリアとネーメウスの魔法術式の簡略化を果たした。


 僕の長剣は一度目に魔王に挑んだときから状態がほぼ変わっていなかったが、せっかくなので命中時加重の付与効果をつけてもらった。


 使い勝手はそのままに、ヒットした際にダメージが増す効果があるので、こっちと相手とで硬直時間に差が出る。魔王との戦いでは微妙な差が大きな影響になる可能性があったので、いくつかある選択肢から単純なダメージ増を選んでみたけど、これがいい選択であってほしいところだ。


 魔法術式の簡略化に関しては僕が使う魔法にはあまり影響がないから、ふたりが森林で暮らしている人型魔法生物の師匠――ここに来る人たちが勝手にそう呼んでいる――に修行をつけてもらっている内に、僕とギウスで模擬戦闘を繰り返していた。


 ギウスの新調した槍の具合いや防具が馴染んでいるかの確認がメインだけど、僕とギウスは模擬戦をやると熱く盛り上がってしまう悪い癖があり、やっぱり今回も無駄に盛り上がってしまった。


 ネーメウスが先に修行を終えて戻ってきたときに、お互いズタボロになった僕たちを見てため息をつきながらも、瞬時に発動できるようになった範囲回復魔法で一気に回復してくれたのには随分おどろいたものだ。


「……キミたち、なにやってるの」


 そうつぶやいたときの、哀れすぎる人を見るような目がちょっと忘れられない。


「ネーメウスは調子良さそうだね」


「……まぁ、ね」


 照れ隠しなのか、普段は下ろしているローブのフードをすっぽりと被ると、ネーメウスはごにょごにょと聞こえない声で何かを言うと、僕たちから離れたところに行ってしまった。


 そんなに恥ずかしがる部分あったかな?


「リリアはどう?」


「……まだ、かかりそう」


「そっか」


 僕たちは僕たちの強化で訪れる各所を回る間にも、いくつかの魔物の軍勢を討伐している。魔王に敗れてからだいぶ経ってしまったので、魔物の残党が独自に数を増やしてしまったようだ。


 再戦までにもう少し時間がほしいところだけど、あまり悠長にはやっていられないかもしれない。


 焦っても仕方ないので僕はゆったりと構えているけど、世界の状況は悪くなってきているのはよくわかっている。魔王が目立った動きはしなくても、末端の魔物までがそうだとは限らないということだ。




「あら、お待ちかねだったかしら」


「おかえりリリア。どうだった?」


「順調よ。魔力の回復ももうバッチリね」


「そいつは頼もしいね」


「中級の魔法なら無詠唱で連発できるように組み替えてきたわ。あと、複合魔法もだいぶ考えてきたから、前のように何もできずに倒されることはないんじゃないかしら?」


「牽制だけでもだいぶ違うし、僕らと連携できれば今度は勝ち目はあると思うよ」


 リリアはふふんと胸を張る。


「極大魔法もだいぶ早打ちできるようになったはずよ。あと、儀式魔法も事前準備は要らないわ」


「……どんだけ、簡略化してきたの」


「全部よ、全部。何があるかわからないから、全部簡略化してきたわ」


「……キミ、やっぱり天才だね」


 ネーメウスは必要最小限の簡略化しかしていないという。魔法術式の簡略化はたしかに魔法を使う速さが上がるので、簡略化された魔法が多ければ多いほど純粋に手数が増える。


 ただ、簡略化の大小として消費魔力が上がってしまうので、すべてを簡略化させると使える魔法回数が激減してしまうのが普通だ。けど、リリアはすべてを簡略化してきた。それは、簡略化した魔法すべてを使いこなすことができるほどの魔力があることを物語っている。


 圧倒的な魔力量はリリアの持ち味だ。


 ネーメウスはそこまでの魔力量がないので、簡略化させる魔法も厳選している。大小使い分けて戦うスタイルを選んだのだ。同じ魔法使いでも、センスの差はいろいろなところに出てくる。


「さすがに儀式魔法の術式化略化は難儀だったわね。魔法陣を予め書いておければいいんだけど、戦闘中はそうはいかないからね」


「……よく、やるよ」


「あんたもやればいいのに」


「……ムリ」


 ネーメウスは自信満々のリリアとは違い、基本的に自分に自信を持っていない。召喚魔法を使いこなし、精霊王とケンカしたあとは神聖魔法を簡単に覚えて使いこなしているんだから、天才型なのは間違いないんだけどね。


 どうにも研究をしている自分は好きだけど、冒険に出たり戦闘をするのは不得意と思っているみたいだ。充分戦えているから僕もメンバーに選んでいるし、いまだにメンバーにしているんだけど、言っても全然伝わらないのがちょっと悲しい。


「さて、これで準備は整ったね」


僕は、ギウス、ネーメウス、リリアの順に目線を合わせる。みんな、無言でうなずきを返してきた。


「それじゃあ、いよいよ向かうよ。魔王を倒しに――魔王の根城に」


 みんなが視線を揃えたのは、はるか彼方にそびえる魔王の根城がある高山だ。


 そこで、僕らは再び魔王と相まみえる。

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