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居酒屋『冒険者ギルド』  作者: ヒース
第2話 ある魔法使いの苦悩(後編)
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ある魔法使いの苦悩85 出発の日

「あはは……」


 照れ顔のアメリア君が所長と共に登場した。


 私とサラ、それにシンクは王都の南門に集まっていた。所長から連絡が入り、ここに集まるように言われたのだ。


 毛並みの良い芦毛の馬が二頭立ての馬車がすぐ近くに控えていて、サラが興味津々に二頭の馬の内一頭に触ろう触ろうとしていた。御者のおじさんはそんなサラを優しく見守り「触ってもいいよ」とその手を誘導して艶のいい馬体を触らせていた。


 シンクも森のエルフだからなのか馬には興味がありそうだったが、はしゃぐ姿を見せるのがプライドを刺激するのかこっそりとソワソワとしていた。そこまで我慢せずに触らせてもらえばいいのに。


 で、しばらくそうしていたところに所長とアメリア君がやって来たのだ。


 私たちは修行の最終日にちょっと感動的な別れを演じていただけに、アメリア君だけじゃなくて私もちょっと気まずい感じがあるのだが……。


「サプライズになってしまったが、アメリア君にも君たちに同行してもらうことにした」


「……ということのようです。あはは」


 アメリア君の真っ赤な顔を直視していいのかちょっと迷う。昨日の時点でまさかこうなるとは誰も予想していなかった。所長もそんな素振りは微塵も見せていなかったような気がする。


「アメリア君の指導は君たちにハマっていたようだからな。せっかくならしばらく行動を共にしてもっと実践的に伸ばしてもらったほうが今後良い結果に繋がりそうだと判断した。そのためにアメリア君の仕事を軽くしておいたが、気が付いていたかね?」


「……そう言われると、仕事が少ないからファーレンさんたちの修行に付き合える日が多かったような気がします」


「そうだろう? そうなるように調整した。君にも同行してもらうかどうかは決めていなかったが、彼らの目覚ましい成長を見て確信した」


 所長は満足そうに頷いた。自分の判断に自信があるのだろう。私にとってもありがたい話なので、所長の采配に感謝する。


「私にとってもアメリア君が一緒に来てもらえるのは心強い。いくら魔法が使えるようになったとはいえまだまだ初級者レベルだ。達人級の魔法使いであるアメリア君なら千人力だ」


「もぉ! ファーレンさんは大袈裟すぎますよ!」


「そうかな? 本当のことなんだけど」


「……そういうとこです!」


 アメリア君は顔を真っ赤にしたまま私に抗議する。おかしいなぁ、変なことを言ったつもりはないのに。


「はっはっはっ! やっぱり君たちは相性が良さそうだな」


 どこを見て? 所長が私の背をバンバンと叩いた。だから、所長のこれ痛いんだけど!


 よほど面白いのか所長はまだ私を叩いている。馬と戯れていたサラがちょっと心配そうな顔をしてこっちを気にしている。


「しょ、所長ー! 背骨が折れますっ!」


「ファーレン君は大袈裟だな。叩いたくらいで折れるわけがなかろう」


「いえ……割と冗談抜きに結構なダメージですよ」


「そうなのか? ファーレン君ももっと鍛えたほうがいいぞ。魔法使いだからといって身体を鍛えなくていいなんてことはない。健全な精神は健全な肉体に宿る。身体を鍛えれば魔力も鍛えられる。体力があれば魔力がなくなっても戦い続けられるしな」


 所長の理論にシンクがピクッと反応する。魔法を使うには身体を鍛えるのが一番。所長の言い分はこれだ。まさにシンクの望むべく方向性と酷似している。


「今の話、もう少し詳しく」


「おっ、シンク君はわかるのかね? よく見れば、君は華奢なわりには付くべきところにしっかりと筋肉が付いているようだな」


「戦士だからな。鍛えるのは当然だ。それは魔法を使えるようになったとて変わらない。ならばそれが戦士としても、魔法使いとしても有効的に働くなら言うことは何もない。最高効率で肉体を鍛えることができそうだ」


「いっぺんに鍛えようというのか。エルフというのはそんなに欲張りだったか?」


「エルフだから清貧というのは偏見だ。縄張り争いもあるし、より強い者を競う勝負もある。効率的に強くなる方法にはわりと貪欲だぞ?」


「ほほぅ。それはとても興味深い話だな」


 所長とシンクは妙なところで気があったのか、強さを求める談義に花が咲いた。私たちはその間待ちぼうけだけど。


「……おっと、つい話し込んでしまった。炎天下で待たせてしまい申し訳ない」


 そんなに申し訳なさそうでもない感じで所長が謝る。そしてつかつかと馬車の御者の元まで歩いて行く。


「彼はゴードン。私の古くからの友人だ」


「ゴードンだ。よろしく」


 所長と並んでも違和感のない身体の大きさだ。ゴードンさんは所長よりはかなり年上に見えるが、恐らく同い年なんだと思う。そんな雰囲気がふたりの間から感じる。


「ファーレンです。そちらの女の子がサラ。それとエルフのシンク。あと、彼女は同僚のアメリア君です」


 私が紹介すると次々と小さくお辞儀をする。サラは芦毛の馬に頬ずりされている。気に入られたのかな?


「彼らは私の研究所のメンバーだ」


 所長がゴードンさんに私たちの紹介を繋いだ。


「これから南の港町に行くのにゴードンの移動馬車を使うといい」


「かなりの遠方だ。休み休みの長旅になるが、俺に任せておけば大丈夫だ」


 ゴードンさんは腕をぐいと曲げて力こぶを主張する。


 所長といい筋肉の発達が素晴らしいが、類は友を呼ぶというやつなのだろうか。

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