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居酒屋『冒険者ギルド』  作者: ヒース
第2話 ある魔法使いの苦悩(後編)
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ある魔法使いの苦悩77 個性的な料理

 私たちとアメリア君を加えた四人で向かったのはバイキング形式の創作料理店だ。


 王都では評判がいいお店で、店主の作る料理の独自性が話題だ。いつ行っても何種類かは新作の料理が並び、入れ替えも激しいので同じ味には二度と出会えないという、ちょっと大袈裟な言い回しが付きまとうのも特徴的だ。


 私は長いこと王都に住んでいるが、この店に入ったことはない。ひとりでバイキングというのは悪目立ちしそうだというのが理由のひとつだ。もちろん気にしすぎだとは思うのだが。


「シンクさんが何がお好きかわからないので、バイキングのほうが楽しめるかなぁ、と思ったんです」


「食べ放題というのは想像がつかないな。森ではそれほどたくさん食べることなどないからな」


「別にお腹いっぱい食べなくてもいいんですよ? 好きなものを好きなように食べられるというのがバイキングの魅力でもありますから」


「なるほど……確かに、見る限りでは食欲をそそるものもそうでもないものも入り混じっているな」


「食べ放題だと思いっ切り食べて気持ち悪くなっちゃう人とかも多いので、シンクさんも気をつけてくださいね」


「そうだな。まだ私も森を出たばかりで、外で食事というのも何回もない。勝手がわからないので教えてもらえると助かる」


「それじゃあ、一緒に見て回りましょうか」


「ああ。そうしよう」


 アメリア君がこの店を選んだこともあり、シンクへシステムの説明や料理の解説等はしてくれそうだ。私はサラと一緒に料理を選ぶとしよう。


「じゃあ、私たちも行こう」


「うん! たくさんあって目移りしちゃうね」


「そうだね。定番っぽいのにするか、それとも邪道っぽいのにするかという選択肢が存在することは驚きだが、あえて邪道を攻めてみたほうが未知の美味に出会えるかもしれないな」


「わたしも変なの食べてみようかな」


 邪道だとか変なのだとかちょっと失礼な気もするが、見たこともない料理が並んでいる姿を見るとそう形容したくもなってしまう。それくらい創作料理の範囲が広い。得てしてソースによくわからないものが多いので味の予想がつかない。衣を付けて揚げられた上で、青いソースがかかっていれば手が伸びづらくなるのも想像できないだろうか。でもいい香りがする。


 炒め物も煮物も普通の物もあれば、よくわからない食材が混ざっているものもある。かろうじて野菜だろう、とか、肉だろう、という判別しかできないものもある。


 私たち以外のお客さんも反応は様々で、私のように初見の者はやっぱりわーきゃー言いながら色々な料理を取皿に載せて苦笑いを浮かべていたり、訳知り顔でスッスと特定の料理を迷わずに皿に載せている強者もいる。そういう人に限って邪道を多めに盛っているのを見ると、この店の正解は邪道攻めで合っているんじゃないかと思ってしまう。


 サラは自分の直感を信じているのか、初見なのに猛者のような迷いのなさで次々と料理を皿に載せている。ただ単に食欲に従っているだけなのかもしれないけど。


「おや、サラは随分と豪快に盛り付けているな」


 アメリア君の説明を受けながらちょっとずつ皿に料理を載せているシンクが、サラの手元を見て目を丸くする。ある意味芸術的な重なりを描いている皿を見ればそうなるのも仕方ないな。サラは一回で結構な量を盛り付けていこうとしていた。


「サラちゃん落とさないようにね」


「うん、だいじょうぶ」


 載るか載らないかの絶妙なバランスで魚のフライを載せようとしているサラの表情は真剣そのものだ。いや、もう本当にそのあたりにしたほうがいいんじゃないか。私もハラハラと見てしまう。


「サラ、一回戻ろう。足りなくなったらまた取りに来ればいいんだから」


「……そうだね。足りなくなったら一緒に取りに行こうね」


 真剣な顔のままサラは両手でしっかりと料理満載の取皿を掴んで席までゆっくりと戻った。私はサラに気が向いていたので自分の料理があまり取れていないことに席に戻ってから気が付いた。


「ファーレンさんって意外と少食なんですね」


「ここの料理は挑戦的だから少しずつ試してみないとね」


「見た目こんなですけど味は間違いないですよ。あたしは何回か来ていますけどハズレの料理がないんですよね」


 アメリア君は猛者の類のようだ。隣のシンクの取皿に比べると彩りが鮮やかだ。暖色系もあれば寒色系もある。ただ、青い色はあまり食欲がそそられない。いい匂いはするんだけど。


「ファーレンさん、もしかして疑っています?」


「疑ってはいないけど、見た目で食欲が減じているのは事実だよ。と言っても、私も挑戦的な料理を中心に皿に載せてしまったけどね」


 結局シンク以外の三人のお皿はとってもカラフルだ。見たことのない食材が使われているから味の予測も難しい。匂いを信じれば美味しい料理であることは間違いなさそうだが。


 そう思うと、ここの店主は普通に料理を作ったほうがいいんじゃないかとさえ思ってしまう。ただ、これだけ店が流行っているのだから、この見た目と味を直結させないスタイルで正解なのだろう。


 とにもかくにも食べればすぐに答えは出る。私は覚悟を決めてフォークで刺した謎の塊を口に放り込んだ。

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