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居酒屋『冒険者ギルド』  作者: ヒース
第2話 ある魔法使いの苦悩(後編)
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ある魔法使いの苦悩64 白虎との戦闘

 それぞれの戦闘スタイルのためにかなりトリッキーな配列になった。


 まさかの最前衛がサラだ。


 普段ならこんなに前に立たせることは全力で阻止するが、白虎との戦いは試練に相当する。わざわざサラに身体を返して、しかも伝言まで頼むというのには意味がある。白虎はサラの力を試したいのだ。


 サラの斜めうしろではシンクが弓を構えている。その反対側やや後方にはメルティが突っ立っている。精霊を高速で召喚できるので予備動作もないし、直前まで構えを取る必要もないのだろう。


 私はひし形の最奥に位置取り、頼りないナイフ一本を構える。魔導具も使いやすいようにポケットに仕舞い込んだが出番はきっとないだろう。


『……おや、繋がったか』


 不意に白虎の声が脳内にいきなり響いた。


『器を通したからか言葉が通じるようになったようだな』


「この声は……白虎なのか!」


『如何にも。発声はできないので頭の中に直接語りかけている』


 頭の中に直接声が響くのはなんだかとても落ち着かない。普段は耳から聞いているから声の聞こえ方も違う。サラに聞こえていた声もこのような感じだったのだろうか。


『さぁ、攻撃してくるがいい。来ぬならこちらから行くぞ』


「お言葉に甘えちゃうよー! 大地の精霊くん、よろしくー」


 メルティが呼びかけただけで、白虎の足元がいきなり揺らぐ。間髪入れずにいきなり地面が激しく隆起する。アッパージャンプの要領で地面から回転して飛び出してきたのはずんぐりむっくりとした手足のついた塊だった。


 大地の精霊はゴツゴツした丸っぽい岩から長い手と短い足が生えている。鋭い目にキリッとした眉毛のような亀裂が勇ましい。


 白虎は地面が隆起する直前に飛び退っており、大地の精霊の攻撃は不発に終わった。


「コンボ決めちゃいなよ!」


 メルティの指示に大地の精霊は短い足で一気に白虎の駆け寄ると、右手左手とワンツーパンチを繰り返した。白虎は見事な体捌きでそのすべてを紙一重で見切る。


「続けて続けて!」


 大地の精霊はまったく当たらないパンチに懲りることもなく愚直に繰り返す。白虎が一撃をもらうことはないが、反撃もしないので膠着状態になっている。


「ほら、シンク連携して!」


「私に命令するな」


 と言いつつ、シンクは番えていた矢を放つ。三連続で射出された矢は精霊の攻撃を避けている白虎の動きを制限する。避ける先に射線が走る。白虎はチラと一瞥するとステップを切り替えた。わずかにブレが生じ、精霊の攻撃がその頬を掠める。


「チャンスだよ、大地の精霊くん!」


 メルティと気持ちの連動があるのか、大地の精霊は今までのコンパクトな振りから一転大振りの攻撃になった。ぶんぶんと気持ちよく振り回される腕に白虎が避けづらそうにする。だが、インパクトは見事に避けている。


 白虎の行く先を遮るようにシンクの放つ矢が直線で地面に向かって突き刺さる。


 大地の精霊は大きく腕を振りかぶると、姿勢を崩した白虎の頭に向かって思い切り振り下ろした。


『見事だが甘い』


 白虎は肩から大地の精霊に突撃する。リーチを消された大地の精霊は腕を振り抜けず、中途半端に白虎の背中を掠めるに留まった。白虎は頭を低く下げ、首の力だけで大地の精霊の身体を宙に投げ上げた。


 二足で地を蹴り、驚異の跳躍力で空中で身動きの取れない大地の精霊を抜き去り、白虎は隙だらけのボディ目がけて右腕を振り下ろした。


「大地の精霊くーん!!」


 無残に叩き落された大地の精霊は思いっ切り地面にめり込んだ。奇しくも自分が出てきた穴に収まる形になった。白虎がこれを狙ってやったのだとしたらかなりの芸当だ。


「そのまま休んでいてね。ありがとうね」


 小さいくせにパワフルな大地の精霊は白虎の前に完全に敗北した。これではシンクの放つ矢も牽制以外に活用できない。


「……今度はわたしの番」


 いつになく低い声でサラが宣言する。両手の拳がすでに火属性を帯びている。ヒートハンドを使っているようだ。


「サラ、森で火属性の魔法は——」


『構わぬよ。仮に森が大炎上することになればそれまでということだ』


「しかし、そういうわけには」


『大丈夫だ。この森がそうやすやすと火事になるなんてことはない。豊富な水属性と土属性の精霊がすぐに沈静化してくれる。今ならわたしもいる。存分に力を発揮するがいい』


 白虎はあくまでサラを試したいのだ。本来は森で火属性の魔法は厳禁だ。生きた森なら火の回りが遅いとはいえ、術者によっては辺り一帯を一瞬で消し炭に変えることもできる。火属性に特化したサラであれば力が暴走すれば森ひとつ消失させてしまう可能性もゼロではない。


「それなら、全力でいくよ」


 サラが両手の拳をさらにきつく握り締めた。サラの手をチロチロとした炎が舐め始める。その火は強く大きくなり、すぐにサラの拳を覆い尽くすほどになった。


 ヒートハンドの上位状態だ。


 サラが意識的にこれができているのであれば、魔法使いとしての力量は中級に位置する。サラはすでに潜在能力も発揮魔法も初級のそれを超えていた。

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