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居酒屋『冒険者ギルド』  作者: ヒース
第2話 ある魔法使いの苦悩(後編)
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ある魔法使いの苦悩63 白虎の余興

「さて、あまり器の中にいると居心地が良くなりすぎてしまう。そろそろ返すとしよう」


 白虎は右掌をじーっと見ている。


「だが、最後にちょっとした余興をしようではないか」


「余興?」


「そうだ。余興だ。そのためにはまずは器の身体を一度返すとしよう。ファーレンよ、こちらに来るのだ」


 白虎に呼ばれた私は、言われるまま近づいていった。


「ふむ。では、今からわたしは一度虎の姿に戻る。器の身体をしっかりと支えておれ」


 白虎はスッと目を閉じた。黄色の光がサラの身体から白虎の——真っ白い大きな虎へと流れていく。


「……ん」


 サラが目を薄く開いた。その瞳はいつもの真紅だ。


「わたし、自分で立てるよ」


 サラは私の手から離れ自分の足でしっかりと立つ。さっきまで白虎に身体を貸していたのだが、特に違和感なく戻ってこれたようだ。だが、ちょっと苦しそうな表情をしている。


「どうしたんだ、サラ?」


 私が尋ねると、サラは泣きそうな顔をしているようにも見えた。だが、意を決したのかその目に力強さが宿る。


「……トラさんが言っていたんだ」


「白虎が?」


「うん。今からわたしと戦え、そして力を示してみよ、って」


「白虎と戦えって言っていたのか!」


「そうなの。どうせ仮初の身体だから滅するつもりでかかってこいって……そう言っていたの」


「……白虎を滅するとか、そんなのできるのか」


 私は眠るように丸まっている白虎を窺い見る。しばらく動かなかったが、やがてパチリと琥珀の瞳が開き、ゆるりと立ち上がった。


 シンクとメルティが私たちのもとに近づいてきた。


「サラ、白虎様の今の話は本当なのか?」


「本当だよ。結局身体は捨てるから、最後にひと暴れしたいんだって」


「迷惑な神様だねぇー。戦わされるこっちの身にもなって欲しいよね!」


 シンクは深刻そうな顔をして黙っているし、メルティはぷんすこ怒っている。私はどちらかと言えばシンクに近い状態だが、だからと言ってこのまま何もしないという選択肢は許されそうもない。


「……」


 琥珀の瞳に挑発的な色を濃厚に漲らせ。白虎が四肢に力を込めた。


「待ったなしじゃん! なに、そんなに戦いたいの!?」


「加減はしてくれるって言っていたよ。全盛期の一割もないのに、その半分くらいで戦うんだって」


「私たちなんか五パーセントでも充分だってことか。さすが白虎だな」


「なに感心してるのさ!? 神様の五パーセントって普通じゃないからね!?」


 きっとメルティの慌て方が正しいのだろう。シンクの呆然としている姿もそうだ。ただ、神と戦うという時点で正常も何もない。私はむしろちょっと戦ってみたくなってきた。もちろんナイフひとつで敵う相手ではないのだが。


「大丈夫だよファーレン」


「サラ?」


「わたしが戦う。この指輪で魔法制御できるから」


「今日の今日ではまだ力はうまく使えないだろう? 無理しないでもいいんだよ」


「無理してない。わたしも強くなる。トラさんはそのために戦ってくれるんだから」


 サラが力強く拳を握ってみせる。なんだろう……目頭が熱くなってくる。


「ファーレン、感動するのはあとにしてよ!」


 いよいよ白虎の姿勢が低くなる。一気に飛びかかってくる前触れだ。もちろんメルティの反応が正しい。でもね、必ずしも正しいことが正解とは限らないんだよ。だって、サラがこんなに立派なことを言ってくれたんだ。ここで感動せずにどこで感動すればいいと言うのだ。


 とはいえ、さすがに戦闘中にやることではない。サラも頑張るのだ。保護者である私が今頑張る姿を見せないでどうする。ナイフ一本だって戦おうと思えば戦えるんだよ。


「ファーレン、危険だから下がっていろ。私が戦う」


「今せっかくやる気を出したのに挫かないでおくれよ、シンク」


「おまえは非戦闘員の後衛職だろう? ここは前衛の戦闘職に任せるのが筋だ」


「でも、シンクは白虎と戦えるのか?」


「……正直戦いたくはない。だが、これは試練だ。殺し合いではない。せっかく白虎様が胸を貸してくれるのだ、神の力の一端に触れておきたいという欲もある。身勝手なものだな」


 シンクはフッと柔らかい笑みを浮かべた。そして、それをすぐに消し白虎に向き合う。


「私も戦うつもりだが正直足手まといだ。みんなに任せることになるけど、いいかな?」


「元からファーレンに戦力は期待していないから問題ないよー」


「私も戦士として戦うのみだ」


「ファーレンはわたしが守るから安心して」


「よし! 白虎も待ちくたびれているみたいだ……行くぞ!」


 私の掛け声で白虎と私たちの余興が開幕された。

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