おまけのやさしい王子様。
サブタイからお察し、ヴィクトル王子目線です。
(王子の方が乙女かよ!を)お楽しみください。
☆☆☆申し訳ないですが、そんなに期待しないで下さい☆☆☆
王太子妃候補は『好きな者から順番』にした。
それはもう分かりやすく単純に。
今まで、己より弱き者(特に女性)には平等であれと、言われに言われて、今では体中の毛穴から滲み出るほどだ。
それなので、いつも絶えず、楽しくもないのに微笑み、声を荒げることもなく柔らかに話をし、腹が立とうが、悲しかろうが、とにかく柔和で優しくあろうとしてきた。
落ち込んだ友を元気づけたり、一緒に頑張ろうと声を掛け、恥ずかしくないように自分にも努力を課してきた。
次代を担う子どもたちの集まり。
その中に私も混ざっていた。
そこには『第一王子』だなんだのという垣根も何もない、気兼ねのない、簡素な、本当に単純な集団だった。
……まぁ、そう思っていたのは自分だけだったと、後に知るのだが。
レオノワトは候補に残った姫たちの中で、特に物静かだった。
物静かという程度では済まないか。
なんというか、寡黙な女の子だった。
遊んで、じゃれ合って、声を上げて笑うというよりは、ひとり離れた場所でその様子を見ているような。
返事すら声を立てないような、そんな子だった。
部屋の隅で本を読む、大人しい数人のうちのひとり。
遊びに誘っても、首を横に振って終わり。
それでも楽しそうに走り回る他の皆のことを、見ていた。
ものすごく、よく見ていた。
子どもたちはひとところに集められて、この国の歴史や政治に関すること、王家や民との関係、語学、音楽……王城で働くには必要なあらゆることを学んだ。
レオノワトは教師をじっと見て、話をひと言として逃すまいとしている。
そして答えを求められた時には、簡潔に要点をついて、言葉少なに明答をだす。
見て、聞いて、考察をするのがとても向いているようだった。
文官にしたら、とても優秀な人材だろう。
女性の文官、なかなか良いじゃないか。なんて思ったこともあったほどだ。
成長するにつれて、男女で別々に学ぶようになると、何日も会わない日が増えてくる。
男どもは体を鍛えたり、女性について……うん、まあ、色々学ぶ。
女性はお妃に成るべく、あれこれ作法や所作ごとを。
とても内容は厳しいらしい。
ジュリシテは中庭の決まった場所で、毎日毎日泣いていた。
他の姫たちも、見つからないように暴飲暴食したり、誰かの悪口を言い合ったりと、それぞれに発散して、憂さを晴らす術を持っていた。
そこで気になったのが、レオノワト。
あの寡黙な子が、どうやって日々の苛立たしさを紛らわせているんだろう。
感情の起伏があまり表に出ないだけに、少し心配になった。
決まった書庫にいつも篭っているらしい。
こっそり書庫を覗いて、私はそこで、初めて。
本当に初めてレオノワトをちゃんと見た。
窓辺にクッションを積み上げて、それにもたれかかって本を読んでいた。
よほど集中しているのか、私が書庫に居ることは気が付いていない。
窓から柔らかく差し込む陽の光で、彼女の全てがきらきらと瞬いているようだった。
髪も、肌も、睫毛に灯ったような光も。
全てレオノワトを飾る宝石に見えた。
こんなにも綺麗だと、今まで気が付かなかったことに、それはそれは後悔した。
声をかけて話をしようか、それともこのまま見つめていようか。
迷っているうちに、鐘の音が響く。
自由な時間は終わり、また苦行に等しい時間が始まる。
また明日だな。
そんなことを考えていると、レオノワトは静かに本を閉じて、ちいさな額を窓枠にこつんと当てた。
……舌打ちしなかったか? 今。
「……っぁああ。……くっそ面倒くせぇ……」
私は多分、その瞬間に恋をした。
寡黙で明晰な女の子。
可憐で儚げなお姫様。
でも人形のようにただ綺麗なだけでもない。
きっと触れれば私と同じに温かくて、そして、中には毒がある。
王太子妃の第一候補はレオノワトだと、そのすぐ後に、宣言した。
観察していると面白くて仕方がない。
まず、真面目に頑張っていたはずのことを、怒られないぎりぎりまで手を抜くようになっていた。
頻繁に誘ってあちこち連れ回し、疲れた時分を見計らってこっそり様子を見ると、めちゃくちゃ嫌そうな顔をしている。
恭しく女性として扱うと、習った通りに喜ぶフリをする。
魂がどこかに行った抜け殻のような顔で。
手を出せばやんわりと避けられ、顔を見ようとすると、気持ちの良いほど逸らされる。
好意はないという態度。
放っておいてくれという雰囲気。
どれも、私がしてはいけない事だ。
というか、同じに学ぶ皆も、そのように心に留めて努力しているというのに。
今まで培ったものを、惜しげもなく放り投げられる。
誰に嫌われようとも、そんなことは構わない、些細なことだと。
そう考えているのか。
それはとても。
私にはとても羨ましい。
レオノワトの心は、この閉じ込められたような限られた空間で、きっと自由なのだ。
だからレオはこんなにも美しくて、私はこんなにも惹かれる。
貴女と居れば、私も一緒に自由になれる。
城を下りたがっているのは分かっていたけど、本当にすまない。
そうさせる訳にはいかない。
ふたりで公の場に出ること増えてきて、いよいよ周知されていく。
決意が折り重なり、私の想いはどんどん増す。
それと同じくらい、どんどんレオノワトはここを離れたがる。
他の姫たちに厳しく当たり。
(でもそれは彼女たちの浅慮な言動を注意する為)
側近たちに馬鹿だの役立たずだのと当たり。
(結局は効率よくできるように口や手を出す)
私を軽くあしらう。
(そんなに嫌がられると逆にやる気が増す)
ねえ、レオノワト。
私がどうしても貴女を諦めないと言ったら、貴女はどんな顔をするかな。
絶対に王太子妃にすると言ったら、どんな言葉をくれるかな。
どんな反応をするのか、今から楽しみで仕方がないんだ。
貴女を好きだと言ったら。
私も好きだと返してくれるだろうか。
今はひとつもそんなことを思えなくても、そのうち、いつかと、期待しても良い?
さあ、後はきっかけさえ違えないように気を付けるとしよう。
レオがこのまま不満だらけになって、もう我慢できなくなった時に。
私がその堰を切ってあげよう。
どんなに貴女が可憐で儚くて。
どんなにかわいいお姫様なのか。
嫌になるほど教えてやろう。
嫌がったって許さない、ひとつも手を抜く気はないからね。
そうだな。
レオがいつもみたいに嫌味を言って、誰かを泣かせたその後なら、とても良いきっかけになると思うんだ。
おまけのおまけをご用意してございます。
是非ご覧ください。