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かわいくないお姫様。







初めて王城に上がったのは、五つになったばかりの頃。


その時は王子のご学友として。

他にもたくさん同じ年頃の、王族や貴族たちがわらわらといた。

男女問わず。

気が合い、文武ともに優秀な男の子は、将来ヴィクトル王子の側近や騎士になる子たち。

家柄と血筋の正しい女の子は、お妃様に迎えるために。


初めのうちはそれなりに真面目にやっていたのが、後々こんなに響くとは思いもよらない。


まあ、真面目にやっていたおかげでこの国のことを知ることができたのは、悪くはなかったけど。




何年かすると子どもたちは半数に、さらに何年かするともう半数に。


最終的には、王太子妃候補で残ったのは五名。一人を正妻に、残りを側室にと現王はお考えのようだったけど。


陽の沈む一歩手前のようなこの国で、側室を何人も抱えるなんて頭の中お花畑もいいところ。


私は実家に迷惑が掛からない程度に、自分の評判を落としてきた。


もちろんご不興を買って、王太子妃候補から外される気が満々だったから。


家格が高いから王太子妃候補になるのはしょうがないとも言えるけど、いつかそのうち王妃にだなんて、考えただけでも身震いがする。


どうにか持ち崩さず続いているだけの国。

ただでさえ重圧の大きな王妃の立場に加えて。

国の再興という大仕事を抱えた王太子を支える?


無理無理無理無理無理。

無いわー。そりゃ無いわー。


そんな気概も根性も、私は持ち合わせていないもの。


いいのいいの、テキトーにその辺の文官か、下級の騎士様にでも下賜して下さったら、それで充分、満足です。


なんなら王太子以外のお手付きになったとかなんとかでっち上げて、神殿にこの身を預けたって構わない。

実家に帰って、篭ったまま残りの人生を過ごしても良い。

日がな一日書庫で過ごせるなんてたまらない。



実家には兄もいるし、弟もずいぶん大きくなった。


私が汚名を被ったって、お父様なら痛手を負うほど弱い人でもないし。そこまで小さな家でもないし。


だからどうすれば第一候補から外れることが出来るのか、本気で考えた。


それからはお妃教育も適当に手を抜いた。

王子なんて何とも思っていないとあからさまに態度で示した。


他の候補に嫌がらせしてみんなから嫌われるのにも成功したし、それとなくこっそり他の姫様たちの底上げもして差し上げた。






なのになんでこうなった。






「もうヤダ帰って寝たい」

「私と一緒にか?」

「……ハゲろ」

「残念だがそのような家系ではないな」


上手いこと悪目立ちしたはずなのに、ヴィクトル王子はとても嬉しそうに私を連れまわす。


『悪』目立ちだぞ、よく見ろ私のドレスを!

この節穴王子め!!


現王の王位継承記念日の遊宴の会ぞ!!

黒みたいな紺色で、地味で質素かつ、恥ずかしいのを堪えて乳を半分ほど放り出したんだぞ!!


聞こえたろ、さっきご婦人方に私のこと『娼婦のようだ』と言わせてやったんだからな!!


他の候補姫たちを見てやれや!

ふわふわ淡くてきれいな色の素敵な素敵なドレス姿だろうが!!

可愛らしく誘われるのを今か今かと待ってますけど、無視ですか!!


「さあ、レオ。そろそろ私と踊ってくれ」

「……足を挫け」

「もう少し頭を使ったことが言えないのか」

「腹を下して三日三晩苦しめ」

「はは……かわいいな、レオは」

「王子こそ頭を使ったらいかがかしら、あと目をよく使って、周りもよく見て。気はもっと遣って。私のことは放って置いて」

「こんなに美しい君を放って置くのは気が気じゃないんだけど」



気を失いそうだ。失わないけど。





おっと、あそこに見えるは騎士のリスティド様じゃありませんか。

おひとり!

今が好機!!


「ヴィクトル様、失礼してもよろしいかしら」

「……どうしたレオ」

「失礼してもよろしいかしら?」

「何故リスティドを見ている」

「……失礼しますわね」

「噂を立てるか、既成事実でも作る気か」

「あら、とても冴えていらっしゃるのね」


離れようにも手をがっちり握られて、なんなら肘がキメられていてぴったり横にくっついたままだ。痛くて動けない。


「本気で痛いから、離して下さらない?」

「……そこまでするほど私が嫌いか」

「王太子妃になりたくないだけです。好きでも嫌いでもありません、誰のことも、です」

「リスティドを好いてはいないんだな?」

「好きだと言ったらどうなるのかしら」

「騎士がひとり国境の砦送りになるだけだ」

「暴君か」



ダメだ。

これでは埒が明かない。

進展しないまま堂々巡りだ。

もうこっちの意思は知れたのだから、もたもたしてもしょうがない、それなら少しでも早く解決したい。


「……きちんとお話をしましょうか、ヴィクトル様」

「その言葉を待っていたよ、レオノワト」




んん?

おやおや?

あれこれ失敗した?


他人に聞かせられない話だから個室。

おおっぴらに出来ないから小さな部屋に連れてこられたはいいけど。


近くね?

距離。


誰かもうひとり挟んでも良くね?

これ。


それこそ、王子の腹心がひとりリスティド様とか。

お妃様にぴったり、ジュリシテ姫とか。

なんならふたりとも巻き込んじゃえば良かったんじゃなかろうか?


なんじゃこりゃ。

両手を握られて膝をすり合わせて。



「……離して下さい。ていうか、離れて下さいよ、お願いですから」

「こちらこそ、お願いだからこのまま……レオノワト。私が貴女のことを初めて想ったのは……」

「いやいやいやいやいや、待って待って」

「……なんだ」

「ちょっと待って下さい、ヴィクトル様……ここまでされたらいくらなんでも、分かりやす過ぎです」

「何がだ」

「私のこと好きなんですか」

「……ここにきて確認するのか」

「頭は大丈夫ですか」

「その確認も要るのか?」

「一国の王子が好きとか嫌いとか言える立場だとお思いですか」

「……レオのそういうところが好きだ」

「ふざけるのも大概にして下さい、貴方が思うのは、誰かが好きかどうかではなく、この国の先のことです」

「……見くびらないでくれ、私はどちらも思えるぞ」

「……それこそ過大評価です。女を構う余裕など貴方にもこの国にもないでしょう?」


にやり、と音が聞こえるほどヴィクトル王子は口の端を片方だけ持ち上げる。


「そうやって……私とこの国の事を考えてくれるのはレオだけだよ」

「失礼な。他の候補姫たちだって、この国の為を考えて……います……多分」



この国について学ぶ時には、いつも、それはそれはご立派な回答をしていたのは。


それは……国の為ではなく、自分の為だったのかな、もしかして。



「彼女たちは着飾り、美しく見せて、私に気に入られようとしか考えてない」

「あ……当たり前です、彼女たちは王子の為にここに居るのですから」

「レオは違う」

(わたくし)は……元々(わたくし)には、王妃をやる気なんて無いですから」

「相手が誰だろうがはっきりものを言ってくれる」

「さっさと城を辞したいので」

「人に嫌われるのを厭わない」

「それ褒めてるんですか? 別に、私だって好んで嫌われにいっている訳では……」

「それでも真っ直ぐ、折れない」

「折れたら即王太子妃じゃないですか、そんなの勘弁です」

「そういう貴女だから相応しいと思ったんだが」

「……言葉は分かるのに、ここまで通じないなんて……」

「レオノワト、王太子妃以外は無いからな」

「……だから……。何この平行線!」

「貴女が一番に向いている」

「消去法か!」

「他は根性が悪過ぎる」

「王子……。王子の為を思って言ってるんですよ……。ジュリシテにしといた方が良いですよ……」

「ジュリシテは気が優し過ぎる」

「年取るか、子どもでも出来たら女は強くなりますから……」

「良いな。ではレオはもっと強くなるんだな」

「私の事は数に入れないで下さい」

「そうはいかない、私の周りでもレオが妃で満場一致だというのに」







ヤダもう消えたい……溶けてなくなりたい。


この国はアレか。


王子からなにから馬鹿しかいないのか。

無くなって然るべきじゃないか。

無くなっちまえ。



「この手が離されると思うなよ」

「こうしましょう。……もう一回、最初から候補を募って、選び直しましょう。お手伝いしますよ、全力で」

「……諦めろ、そんな時間の猶予も、資金もこの国には無いぞ」

「王子こそ、諦めてはいけません。これで終わるなんてまだ早い」

「いやなに、ここからが始まりだ。……楽しみだな」





わぁぁ!!

何このおめでたさ!!

先行き不安!!

亡国決定!!

逃げて実家のみんな!!

全速力で!!







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