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外れた世界で少年は。  作者: 西山ナリタ
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神宮司 蓮二の場合

 神宮司蓮ニは殺人鬼である。

 妹の甘奈とは違い、彼の場合、緻密に計算され念入りな計画性のある犯行だった。妹がシンプルで単純な犯行であるのとは対照的に、彼のそれはむしろ芸術的とも言えた。

 芸術的殺人、と言えば聞こえはいいのかもしれないが、彼はそれを自負するように――自分の能力を自慢するように、周囲に見せ付けるように、殺人を犯す。その証明として、わかりやすい証拠をあげるとすれば、妹とは対照的に、あえて現場に証拠を残すのであった。それは捜査する警察機関を煽るようなメッセージの時もあれば、犠牲者を弔うかのように添えられた花束の時もあった。

 わざわざ、そのような物的証拠を犯行現場に残して去る犯人に共通して同じことが言えるだろう。


 捕まえてみろ、と。

 解決してみせろ、と。

 挑戦的、且つ、挑発的な行為だったけれど、そんな物的証拠があるにも関わらず、それでも彼を逮捕するには至らなかったのである。


 神宮司 蓮二の場合。

 彼の姿を見たという目撃証言は勿論、犯行現場を目撃したという証言すらも皆無だった。発展したこのご時世において、完全犯罪は不可能のように思えるが、事件解決への糸口すら見い出せない彼の犯行は確かに芸術的であったかもしれないし、仮にそうでなかったとしてもそれに近しいものだったと言えよう。

 芸術的な犯罪が完全犯罪なのか。

 完全犯罪が芸術的なのか――それは彼しかわからないことなのであろう。

 それを言えば、妹の甘奈の犯行が特殊であり、彼女の犯す殺人事件が解決されないことの方が異常で、むしろ、彼の犯行こそが殺人事件らしいと言えばらしい。確かな証拠もなく、証言もなく、捜査が難航するに十分な彼の犯行こそ、殺人事件とも言えるのかもしれない。一方で、妹のそれは殺人事件と言うより、衝動的に行為に及んだ通り魔事件とでもした方が理解し易いように思える。

 しかしまぁ。

 通り魔事件も殺人事件と言えるのだから、わざわざそこに明確な線引きをしなくてもいいだろう。そして、殺人事件は通り魔事件と言えないのだから、わざわざそこに明確な線引きをする必要があるとも言えるのかもしれない。


 兄妹、対照的な犯行だった。

 よくよく考えてみれば、神宮司蓮ニの犯行が殺人事件らしいと言ったことは誤りだったかもしれない。それが『らしい』と表現できるのは探偵が事件を解決する推理小説の場合のみだ。

 殺人鬼を活かすための被害者、殺人鬼を魅せるための犯行。

 探偵を活かす殺人鬼。

 これこそが、フィクションで描かれる作品の芸術性だろう。犯行が芸術的でなくとも、殺人鬼の知能は高くなくてはいけない。相応の確かな犯行動機も必要不可欠だ。

 つまり、兄である彼の犯行はむしろ、小説的だと表現した方が正しいように思える。それならば、妹の犯行こそが現実味を帯びており、身近に感じることができよう。殺人事件の大半が恨み辛み、妬み憎みによる犯行なのだとすれば、彼女の衝動的に身を任せた殺人もまたそれと同様に捉えられなくもない。


 とは言え、何をどう表現しようと、兄妹共通して殺人鬼であることに変わりはない。さらには二人とも曖昧な存在で、都市伝説であるかのような殺人鬼なのだから奇妙である。

 奇妙というか、これは最早怪奇だろう。

 まさしく、彼らの犯行を怪奇現象とした方が、捜査が難航している理由にもなるかもしれない。まぁ、怪奇現象で人が死なれては困るから、それについては誤解のないよう否定するけれど。

 対照的な兄妹の犯行と同じく、対極的なのは犯行動機だ。

 兄である彼は、犯行を芸術に見立て、自分の能力を披露するかの如く殺人を犯す。対象は誰でもいいというわけではなく、恐らく選りすぐりをして犯行に及んでいる。妹である彼女は、衝動的な殺人衝動に駆られるかのように、『どこでも』『誰にでも』殺人を犯す。対象は誰でもいいし、場所も問わない。芸術性なんて、それこそどうでもいいような、道すがらの犯行である。


 そんな兄妹が世間を震撼させた一連の殺人事件――通り魔事件の最初の被害者は僕であった。

 僕こと――南名衛理である。

 勿論、第一の被害者と言えど、幸いにも犠牲者になることはなかった。いや、深くその意味を追求するのなら、犠牲者と表現した方が言い得ているのかもしれない。

 その時の僕はと言うと、当然、神宮司甘奈のことも蓮ニのことも何も知らない――ただ『誰か』に襲われた、そんな風に捉えていたのである。

 まさか、それを皮切りに、十五人の犠牲者が出てしまうなんて、そんなことは露知らず。


登場人物紹介

南名 衛利みなみなえいり……僕

神宮司 甘奈じんぐうじかんな……殺人鬼

神宮司 蓮二じんぐうじれんじ……殺人鬼


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