スタート・スヴェルザ・フォンチャーター
帝国暦131年───。
中央連邦の主要戦闘機、無人進撃機の暴走が各国へと知らされた。
無人進撃機の総数およそ13万。
自動学習装置付属の最新機械であり、これからも増え続ける可能性あり とされている。
東帝国側でもそれは変わりなかった。
イーストライト最東端の街、レンジェン。
今まさにここは戦場となっていた。
無人進撃機〈アドヴァンス〉の攻撃・侵略をゆるし、もはや壊滅状態である。
「スーザ、いきなさい。」
「おかぁ、さま、?...おかぁさまは、一緒じゃないのですか、.....?どこに、行きますの..?」
“おかあさま”は不安がる少女を抱きしめた。
黄金色の瞳から透明な透き通る涙を流しながら“おかあさま”はただひたすら少女を抱きしめた。
「スーザ、…...私のために、...ううん、私の分まで笑って生きなさい…っ...!」
“おかあさま”と同じ白銀の髪を靡かせる少女は黄金色と紅玉色の瞳を揺らす。
「...無人進撃機.....、私はそれと戦いに行くのよ、.....」
少女の両肩を震える手で掴み笑う。
「スーザっ........あなたを愛していたわ。」
“おかあさま”の初めて見る涙はあまりにも透き通って綺麗で、残酷で濁った葡萄茶色をしていた。
“わたし”は思った。
いつかおかあさまの元へ。
“おかあさま”はそのまま背を向け、周りの人達と同じ死んだような、何かを覚悟したような暗い顔をして、二度と帰ってなど来なかった。
♠︎
しかしそれは昔の話。
時は流れ帝国暦139年。
「フォンチャーター少佐、...貴様に不滅の部隊への異動許可を出してやろう。」
わたしは飛び級に飛び級を重ね、最年少での出世。
わたくし、スヴェルザ・フォンチャーターは帝国軍に属し、少佐まで上り詰めた。
が、しかし 上からの命令無視、勝手行動、上官への暴言など...多数の命令違反により“ゴミ置き場”の不滅の部隊への異動になってしまった。
不滅の部隊とは、文字通りだが、入れ代わり立ち代わりの激しい部隊。
不要とみなされた兵士が最終的にたどり着く戦場。
最前線の部隊であり、死亡率・死亡者兼行方不明者が1番多い部隊である。
「何故ですかね、上官殿。...いえ、ダンベルン中佐。」
厳つく額に傷のある訓練兵時代の上官であるおじ様。ダンベルン中佐。
そしてそのダンベルン中尉が見下ろす片目に眼帯をかけ白銀の長い髪の隙間から黄金色の瞳が覗き見える。
「貴様の言動を思い返してみるといいだろう。」
蔑むような、軽蔑の目。
「...わかりました。今まで大変お世話になりました、ダンベルン中佐殿。」
口角を上げて少し大きめの帽子を取り、胸の前にやり頭を軽く下げる。
「あぁ、次に会う時はまた食事でも行こう。」
“次”なんて来ないと思っているくせに。
と内心毒づくスヴェルザ。
「はい、ぜひお供させてください。」
こう言うのが礼儀ってものだろう。
自分をたくさん褒めながら、ダンベルン中佐との話を終えた。
そしてそれも前の話。
♠︎
数日経ち、私は異動した。
不滅の部隊の本基地へ。
戦場における最前線。死者多数のいわば“ゴミ箱”。
重級犯罪者などもここにいる。
指定された場所へ行くとそこは汚れた落書きばかりの廃墟のような建物だった。
無人進撃機のために作られた進行を妨げる壁から外に80km。
昔のレンジェンの街辺りである。
SQこと空飛ぶスケボーで休み休み進むこと3日。
SQのエンジンをふかせ、帽子を押さえながら進んでいく。何もない荒野である。
いい加減この殺風景の景色も見飽きてなにか変化が欲しいところであるが…
「(見えた。)」
廃墟のような建物が。
もはや廃墟と言っていい気がするが、そんな建物の茶色い両開きの扉をノックした。
返事がない。それともこんな棄てられた場所に返事を求めることが間違いなのか?
まぁ何にせよ、やることは変わらない。
「(いいや、入ってしまおう。)」
失礼します と心の中で念じて中へ入る。
カチッと音を立てて向けられたのは銃口。
ハンドガンである。
「...誰だ、お前。.....殺しに、俺らを始末しに来たってのかっ…!!」
黒い髪に青玉色の瞳。
美少年である。銃さえこちらに向けてなければね。
「私の名はスヴェルザ。何があったのかは知らないが私の敵は〈アドヴァンス〉だけだ。」
目の前の敵(青玉の瞳の少年)は一緒動揺したかに見えたが、すぐに現実へと思考を戻したらしい。
「じゃあ、...何をしに来た.....」
「今日からここ、〈パーペチュアル〉で世話になる。私が来たからには、死人を減らして戦果を挙げようではありませんか。」
銃口を下からこちらに向けたままの少年は、驚いた顔をした。しかしすぐに馬鹿にしたような顔をした。
「...こんな部隊で、戦果など挙げられるわけがない。生身で、あんな化け物と戦うなんて頭が狂ってやがるっ...!!」
やっぱりみんな同じことを言う。
そんな時、わたしのレーダーに“奴ら”が引っかかった。
〈アドヴァンス〉たちが。
「じゃあ、行こうか。運動ついでに見せてやろうではありませんか。」
私はすぐに折りたたんでしまっていたSQを取り出し組み立てた。
「な、なんだよそれ...」
「SQと言います。小型の空中移動装置です。」
物珍しそうにSQを眺めている。
その時やっとこちらのレーダーに“奴ら”が反応した。
頭が痛くなるような警報音が鳴り響いた。
「、!〈アドヴァンス〉...!!」
銃を握り締め、地平線上にゾロゾロと見えてきた〈アドヴァンス〉達を睨みつける少年。
「お前も逃げるぞ!!こんな所にいちゃ、死んでしまうっ...!!」
逃げようとする彼を私は止めた。
「大丈夫だ。ここには来させない。」
「は?何言って...」
彼の言葉を遮りわたしは言う。
「私が撤退させてみせよう。
撤退できたら、私の指示に今後従ってもらう。」
彼の目を見てわたしは言った。
「...わかった。」
彼も覚悟を決めたのか、その瞳はもう揺れない。
「さて、いっちょやるとしましょうかね。」