第四話 雨の城の探検 ①
次の日、リィは山賊の娘につれられて、朝はやくに山賊たちの隠れ家をあとにしました。
フクロウは、どうやら山賊の娘のことが気に入らない様子で、最初のうちはリィたちから離れて遠くの方を飛んでいました。けれど、しばらくすると眠くなってしまったようで、リィの肩におりてきてそのまま寝息を立てはじめてしまいました。山賊の娘は「あんたにはずいぶんと美味そうな友だちがいるんだねぇ」などとわらっていましたが、ふくろうはもう眠ってしまっていたので、怒ったりはしませんでした。
しばらく歩くと、少しずつあたりが暗くなってきて、やがて雨が降りはじめました。雨は、冬の雪よりも冷たくて針の先のように鋭い、見たことのないような雨でした。こんな雨にぬれてはこの先に進むことなんてできない、とリィは困ってしまいました。すると山賊の娘が、持ってきたかさを開いてくれました。
「このかさは、女王が用意したものなのさ。あたしたちが、城に近づこうとする奴をつかまえたときに、雨の中を歩いていって女王に報告できるようにね」
山賊の娘が、おしえてくれました。
そのかさはとてもおおきくて、山賊の娘もリィもフクロウもその中に入ることができました。けれどふつうのかさよりもずっと重そうで、リィには持てそうにありませんでした。
そうしてさらに森の奥へと進んでいくと、ついにリィは、雨の中に佇む古いお城に辿りつきました。お城といっても、リィの目に映ったのは石と鉄でできたぼろぼろの城壁だけでしたけれど。石のかべはあちこちけずれて、ひどいところは穴があいていました。開いたままになっている鉄の門扉は赤黒く錆びてとても脆そうに見え、いやな匂いがしました。
門の奥は、雨霧に包まれていてよく見えませんでした。
「ここが、雨の女王のお城だよ」
山賊の娘は言いました。リィは強く、力強くうなずきました。ここにアオがいるんだ、と思うと、怖い思いはみんなどこかへ吹き飛んでしまいました。
フクロウももう目を覚ましていました。ただ、フクロウのほうは大分とお城を怖がっている様子で、はらはらと羽をふるわせていました。
「ここから先へは、あんたたちだけで行くんだよ。でも、決して女王に見つかっちゃいけないよ。女王の雨は、このとおり氷よりも冷たくてナイフよりもするどい。女王の雨に捕われた人は、だれでもみんな凍えて体を切り刻まれてしまうんだ。そうなると、もう逃げ出すことはできないよ」
山賊の娘はそう言って、リィに注意をしてくれました。リィはそれを真剣に聞いて、忘れないようにとしっかり心に刻みつけました。
「雨に捕われないようにするには、どんなに冷たい雨にも凍えない、暖かくて強い心が必要なんだ。それを忘れちゃいけないよ」
「わかりました。ありがとう、やさしい山賊さん」
リィはもういちど、心をこめてお礼を言いました。
そして、ついにリィは冷たい雨の中、女王の城の中に走り出しました。
†
広い前庭を走り抜けて、リィは真っ直ぐにお城の中に飛び込んでいきました。お城はまるで廃墟のようでした。正面の扉はもう崩れてしまって扉でなくなっていましたし、その中もほこりとカビでいっぱいでした。
リィとフクロウは庭を走りぬける間に少し雨にぬれてしまって、お城の中がずいぶん寒く感じられました。実際にお城の中は寒かったのですが、リィにはまるで、冬の雪の中に薄着でいるような寒さだったのです。
「いけない。心まで凍えたら、もう女王から逃げられなくなっちゃう」
そこでリィは山賊の娘の話を思い出しました。そして、心が凍えてしまわないようにとアオのことを考え始めました。するとだんだんと体が温かくなってきて、リィは元気を取り戻しました。
お城の中をゆっくり歩いていくと、やがて広い部屋につきあたりました。天井が少し高くなっていて、おおきなシャンデリアが傾きながら吊るされていました。正面には王様がすわるようなりっぱな椅子がふたつ並んでいて、そのあたりは、リィのいる入口のあたりよりも三段ほど高くなっていました。
そして足もとが石の床ではなくて、ふわふわと土のような感触があるのにも気がつきました。最初は本当に土なのかとも思いましたが、よく見るとじゅうたんがくさっただけのものでした。
「ここは、何の部屋なのかしら」
リィは首をひねりました。
「おそらく、玉座の部屋です。あの正面の椅子に王様と王妃様がすわって、お城の兵隊たちに命令を出していたんです」
フクロウが、リィの肩の上で説明してくれました。そして、「もしもこのお城にそんな時代があったなら、ですけど」と、悲しそうに付けたしました。リィも、それを聞いて悲しくなりました。
リィはすぐに、その部屋を走り抜けました。
それからまたしばらく歩いていくと、今度はさっきよりももっと広い部屋に出ました。そこには足のくさった丸いテーブルや、カビのはえたカーテンの切れはしや、穴だらけのドレスなどが散らかっていました。
二階の高さにはぐるりと壁にそって回廊があり、そしてその真ん中を、橋のようにかけられた廊下がつないでいました。
「ここは、何の部屋なのかしら」
リィは首をひねりました。
「おそらく、大広間です。ここで舞踏会やいろいろなパーティが行われて、いろいろな人が踊ったり歌ったりして楽しんだのです」
フクロウが、リィの肩の上で説明してくれました。そして、「もしもこのお城にそんな時代があったなら、ですけど」と、悲しそうに付けたしました。リィも、それを聞いて悲しくなりました。
リィはまたすぐに、その部屋を走り抜けました。