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雨の城の女王  作者: 乾 隆文
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第三話  山賊の娘に捕まったこと ①


 リィとフクロウは、森の中をどんどんと進んでいきました。森のなかはすずしくて静かですがすがしくて、その先に恐ろしい魔女の住むお城があるなんて信じられないくらいでした。


 とちゅうで、リィはアジサイの花が咲いているのを見つけました。赤や紫のかわいらしい花をたくさんつけているアジサイを見て、リィはなんだか楽しい気分になりました。そしてリィは「アオといっしょにこのアジサイを見ることができたなら、もっと楽しかったろうに」と思いました。それで、またアオのことがいっそう恋しくなりました。


 またとちゅうで、リィはおおきな杉の木を見つけました。何十年もそこに立っているようなりっぱな杉の木を見て、リィは自分のなかに勇気がわいてくるのを感じました。そしてリィは「アオといっしょにこの杉の木を見ることができたなら、もっと心強かったろうに」と思いました。それで、またアオのことがいっそう恋しくなりました。


 お昼ごろ、リィとフクロウはすこしだけ休憩を取りました。それから、お日さまが傾きはじめたころにももういちど、またすこしだけ休憩を取りました。けれど、リィはパンをひとくち食べておなかがふくらむと、たいして休みもしないうちにまた立ち上がって歩き出してしまいました。どんなに疲れていても、側にアオがいないと思うと、のんびりと休んでなんかいられなくなってしまうのでした。


 そうやって一日中歩き続けて、ついに夜になりました。


 リィは眠る場所を探すことにしました。昨夜と同じように、夜の森は月のあかりが届かなくて、とても暗いのです。いくらなんでも、夜のあいだをずっと歩き続けるのは危ないと、リィも思いました。


「木の上に上って眠るのが、安全だと思いますよ」


 そう、フクロウが教えてくれました。リィはフクロウの言うとおりに、一本の樫の木を選んでよじのぼりました。少しのぼると、すわるのにちょうどいい、太い枝がいくつも重なっているところがあったので、そこにすわってみました。慣れないものでうまくすわるのはとても難しかったのですが、木のぼりなんてちいさいころにやったきりでしたし、ましてや木の上で寝るなんて初めてのことでしたから、リィは本当のところ、わくわくしていました。


「怖がらなくても大丈夫ですよ。木の上から落ちないように、ちゃんと私が見ていてあげますから」


 リィのすわる枝のすぐ横にとまって、フクロウがそう言ってくれました。それで、リィは安心することができました。


 ようやくリィがしっかりと木の上に座って、今度はどうやって眠ろうかと体勢を選んでいたときでした。木の下の方から誰かの足音が聞こえてくるではありませんか。足音の正体は、一体なんでしょう。トラでしょうか、クマでしょうか。それともリィを追い返そうとして、雨の女王がやって来たのでしょうか。


 そっと木の下を覗き込んでみますと、そこには人間の影がひとつ見えました。やっぱり暗くてよくはわからないのですが、まるで何かを探しているように、その人影はきょろきょろと辺りを見回しています。


「こんな森の中に、私以外にも誰かを探しに来る人がいるのかしら」


 リィは気になって、枝の上からもう少し身を乗りだしてその人の顔を見てみようとしました。けれどフクロウが、そっとリィの足を羽でたたきました。


「動かないで。見つかってしまいます」


 ちいさい声が、リィにだけ聞こえます。リィは素直にうなずいて、それ以上体を動かすのはやめました。そしてフクロウをまねて、声をちいさくしてたずねます。


「あの人、一体何者なのかしら」


「あれは、この森に住んでいる山賊です」


「山賊?」


「そうです。彼らは、森に迷い込む人や近くの村に住む人を襲ってお金を奪っているんです。きっと、このあたりにも迷い込んだ人がいないかどうか見回りに来たのでしょう」


 フクロウは、ていねいにリィに教えてくれました。そこでリィは見つからないように、もうしずかな声で話をするのもやめました。


 そうしてしばらくじっとしていると、やがて山賊は見回りを終わらせて、森の中へと戻っていこうとしました。どうやら見つからずにすんだようです。リィはここで安心して、ほっと息をつきました。


 けれど、リィはほんの少しだけ、安心するのが早すぎたのです。なんと、リィは息をついたときに手を滑らせて、ポシェットを木の下に落としてしまったのです! ぱさ、と音を立てて土の上に落ちたリィのポシェットは、すぐに山賊に見つかってしまいました。さらには木の上にいたリィまでも、山賊に見つかってしまいました。


「そこにいるのはだれだい? さっさと出ておいで」


 山賊は、リィに向かって怒鳴りつけました。声を聞いて思うに、どうやらこの山賊は女の人のようです。


 リィは恐ろしくて、すっかり体をふるわせてしまっていました。木をおりることも返事をすることも、すぐにはできませんでした。


「どこのだれだか知らないが、いつまでもかくれてるんじゃないよ」


 山賊がまた言います。リィはまだ返事をすることができません。


「いい加減にして、早く下りておいで! さもないと、あたしは今すぐあんたのところまで上っていって、自慢のナイフであんたの胸をかっさばいてやるよ」


 山賊が、またまた言います。ここでついに、リィは返事をする覚悟をしました。


「待って、待ってください、乱暴なことはしないでください」


「おや、ようやく返事をしてくれたね。さぁ、それじゃあ今度はほら、早く姿をお見せなさい! さもないと、あたしは今すぐあんたのところまで上っていって、自慢のナイフであんたの喉をかっ切ってやるよ」


 山賊が、もういちど言います。慌てて、リィももういちど返事をしました。


「待ってください。今すぐにおりますから」


 リィはそう答えて、ふるえながら木をおりました。


 下におりると、ようやくリィにも山賊の顔が見えました。目がほそくてするどくて、とても怖そうな女の人に見えました。「なんだい、おりてきてみればちいさなお嬢ちゃんだったのかい」といって、山賊の娘は少しつまらなそうに鼻を鳴らしました。


「お願いです、山賊さん。どうかそのポシェットを私に返してください」


 リィは勇気をもって、山賊の娘にそうたずねました。


「私は、アオを探しに行かなければいけないんです。そしてそのためには、ポシェットの中に入っている指輪とナイフがどうしても必要なんです。お願いです、山賊さん。どうかそのポシェットを、私に返してください」


 けれど、山賊の娘はそのポシェットを、リィに返してはくれませんでした。


「このポシェットによっぽど高価なものが入っているのなら、これを返すわけにはいかないね。だって、あたしは山賊なんだから。それに、あんたをこのまま逃がしてあげるわけにもいかないね。だって、あんたはあたしに捕まった、ちいさなお嬢ちゃんなんだから」


 山賊の娘はそう言って、そのまま、リィのことを森の奥へと連れて行ってしまいました。





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