はじめのお話 リィとアオ
童話風のお話。雪の女王と霧の女王から多大な影響を受けています。
――世界が、まだ魔法で作られていた頃のお話です――。
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世界のどこかに大きな森があって、森の入口から歩いてすぐのところに、小さな町がありました。小さな町の真ん中には小さな通りがあって、小さな通りの真ん中には、小さな花壇のある小さな家がありました。
その家に、女の子が住んでいました。
女の子は、名前をリィといいました。濃い緑色をした長い髪と大きな瞳とを持っていて、それから透き通るような桃色の肌も持っていました。そのかわいらしさといったら、まだ十三歳の子供だというのに町でもたいそうな評判でした。靴屋のおばあさんなどは、いつもこう言ってリィのことを誉めるのです。
「あなたのお母さんもたいそうな器量良しだったけれど、あなたはそれよりもさらに綺麗だわ」って。
リィのお母さんは、リィが小さい頃に病気で死んでしまいました。ですからリィはお母さんのことをよく覚えていません。それを淋しいと思ったことももちろんありました。けれどリィは、そんなときにはお父さんやアオのことを思うとすぐに元気になれることを、よく知っていました。だからリィは、お母さんがいなくても、辛くなどありませんでした。
リィのお父さんは、お話を書くお仕事をしていました。リィが小さい頃は、よくお父さんが自分で作ったお話を、リィに読んでくれたものでした。お父さんの書くお話はいつも暖かくて優しくて、リィはそれを聞いたり、自分で読んだりしていると、とても暖かくて優しい気持ちになれるのです。
第一に、お父さんはいつも家にいるのですから、リィが淋しいことなんて、あるはずがないではないですか!
その上、リィの側にはいつもアオがいてくれました。アオは青い髪の毛と黒い目をした男の子で、小さいときから片時も離れずリィといっしょにいてくれました。けれど二人は、兄弟というわけではありませんでした。
実はアオは、森の中で偶然にリィとお父さんが見つけた、捨て子だったのです。
小さい頃に、リィはお父さんと一緒に森へハイキングに行きました。そして、川のほとりにアオが一人でぼんやりとしていたのを見つけたのです。アオは最初、何も覚えてはいませんでした。どこから来たのかも、お父さんやお母さんのことも、自分の名前さえも覚えていませんでした。
リィとリィのお父さんは、その男の子を家に連れて帰って一緒に暮らすことに決めました。アオという名前はあとでリィが付けてあげたものでしたが、今となっては男の子の本当の名前なのです。アオ自身がまず、そう信じていましたから。
リィはアオがとても好きでしたし、アオもリィのことが好きでした。学校に行っても、教会に行っても、広場に遊びに行っても、もちろん家にいても、二人は必ずいっしょにいるのでした。
アオのおかげで、リィには、淋しいなんて思うことはほとんどありませんでした。