ep23~悲劇の始まり~
ZONEは毎週日曜日21時更新です。
紅葉のストーカー事件を無事解決して以来、紅葉の口からは身に危険を感じているといった類の話は聞かなくなった。と言っても部活帰りは僕と一緒に帰る事になっているので、僕の目から見てもそう言った心配事はなさそうに見える。
事件が解決して安堵した僕たちは、すぐに目先の目標である春季大会二回戦突破へと視点を切り替え、事件解決から三日後に行われた春季大会二回戦目へと臨んだ。
相手はこの地区の中ではそこそこ強いと評判の凌雲高校。前半が開始して間もなく僕が先制点を勝ち取り、その後は一定して海聖高校ペースで試合が進んだ。
結果は4-0の圧勝。そのうち僕は二得点で、残りは風見キャプテンと奏真のそれぞれ一得点ずつ。ただ、勝てたのは言わずとして嬉しかったが、自分自身としては晴れた気分にはなれなかった。
「で、ZONEの次段階への手掛かりはどうなんよ?」
「んーそれなんだよね……」
第一回戦目の久留沢先輩率いる時雨高校との試合前に、僕自身のZONE能力のレベルアップの一つの方法として、「心のしがらみの解除」という一つの主題を提示した。
その理由としては、もともと僕のZONE能力が目覚めたのは、中学生時代最初の試合でコーチとチームメイトに心を圧迫されたからだった。それは心に携わる気持ちの面で何かしらの力が働いたのではないかと疑心してきた。
だから自分のZONE能力に関係のある久留沢先輩と思いっきり対峙することで、自分自身に何かしらの変化が訪れるのではないかと思った。だが結局、試合中にそう言った傾向が一切訪れず、二回戦の凌雲戦でも兆候が見えず、何も成果が得られないまま終わってしまった。
「確かもう一つ言ってたよな」
「あー、基礎能力の上昇ってやつね」
これはサッカーの基本みたいなもので、ボールコントロールからキック力、勝利につながる行動の選択など、決して短期間では身につける事ができない能力の事だ。
……桜井劉輝は、その能力が全国レベル……いや、普通に日本代表で通ずるレベルに高いと感じた。たった一瞬で戦場をひっくり返す事が出来るゲームメイクとポテンシャルが今までの簿奥のサッカー人生の中で飛び抜けてトップレベルだ。
「どうすればあの人を超す事が出来るんだろう……」
「まだチャンスはたくさんあるんだし、焦んなくても良いと思うぞ」
「……そうだね」
とは言ったものの、桜井に勝る事が出来なければ決勝戦に駒を進めた時に確実に敗北する。海聖高校のサッカー部全員が歯が立たなかったんだ、それが紛れもない根拠だろう。
だからサッカー部の中で唯一ZONE能力を使う事が出来る僕が最前線に立って、何としても桜井を上回わなければならない。それが勝利につながる一つの可能性だと僕は思っている。
「さ、まずは準決勝に向けて頑張ろうぜ」
「うん、絶対に勝たないと」
どんな相手か知らないが、桜井ともう一度戦うために何としてでも決勝に這い上がらなければならない。
僕は奏真に言った事を心の中でもう一度固く誓い、練習の準備に取り掛かった。
スターティングメンバーが発表され、各自がウォーミングアップへと取り掛かる。準決勝の相手は火花高校で、監督の話によるとフィールドに立つ選手全員のフィジカルが強く、体力が豊富で前半開始から後半終了にかけて良く走るらしい。
だがこれといって目立った選手はおらず、全員が平均して上手いので優れた組織サッカーをしてくるという情報が流れてきた。
「蹴也ー、調子はどうなの!」
ベンチに座ってスパイクの紐を結んでいると、ウォーミングアップの準備を終えた奏真が僕の肩に腕を回してきた。
「まー体調的には普通かな。あとはこの試合で何かキッカケを掴めればいいんだけど」
「怪我しない程度に頑張れよー、俺はのんびりかましてくるから」
「そっちこそそんな調子で怪我しないでよ」
今までの試合もそうだが、僕は奏真が緊張しているところも怖気ずいたり怯んだりしているところも見たことがない。東堂高校と練習試合をした時、桜井劉輝が登場して会場にいた人たちがそわそわしている中、何も知らない僕と奏真だけが「あ、劉さん」と言ってけろりとしていた。
そしてこんな飄々とした雰囲気を醸し出しているのに、試合中のプレーは常に妥協点がなく、最高の質と言っていいほど完璧なプレーをしている。
スパイクの紐を結び終えて入念にウォーミングアップをしながら、ZONEを使っている訳でもないのに奏真は凄い奴だなと思っていると、審判から招集がかかって相手選手たちと挨拶を交わした。
監督の言っていた通り、相手選手全員の体格が良く、「ボディービルダーかよ」と思わず言ってしまいそうなくらい肉付きがしっかりとしていた。
「それじゃあ火花高校対海聖高校、春季大会準決勝を始めます」
両高校の選手がそれぞれのポジションに着いたところで、前半開始のホイッスルが鳴る。
僕が奏真にパスをだし、中盤の選手が主体となって相手陣地に攻めあがる。そして風見キャプテンからピッチの左奥へと走り込んでいた虎太郎へとボールが渡る。
「行けー虎太郎!」
前半開始早々いきなりチャンスとなって、虎太郎が相手選手を抜き去ろうとフェイントをかけた。……その時だった。
「うわぁぁぁ!」
走ってきた火花高校の中盤の選手の激しいタックルによって、「どん!」という身体同士が当たった音と共に、虎太郎の身体はピッチの外へと弾き飛んで行ってしまった。
(……虎太郎!)
宙を舞った虎太郎はそのまま地面に打ち付けられ、腰を抑えてそのまま動かなかった。
お読みいただきありがとうございます。虎太郎はどうなってしまうのか。来週もよろしくお願いいたします。
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