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ZONE  作者: 北斗 白
春季大会編
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ep20~紅葉の葛藤と衝撃発言~

ZONEは毎週日曜日21時更新です

海聖海岸での浜辺の練習では、主にダッシュ系統の練習メニューが多く、等間隔でマーカーを置いてスタート地点とマーカーを行ったり来たりする20メートルシャトルランや、100メートルダッシュ20本など、肉体的疲労の激しいメニューが多く、蹴也の疲労は最大限に近い状態で練習が終わった。

 最後の練習メニューではリフレッシュ感覚で、バレーのルールを原則として二人組でペアを組んでリフティングをしながら相手コートにボールを返して五回落としたら負けというサッカーバレーも行った。

 僕は終始奏真とペアを組んでいたが、風見キャプテン・氷上先輩ペアには一階も勝つ事ができなかった。それも奏真は全然ミスしてなかったのに僕のパスがずれたり最後のアタックをヘディングで決める事ができずに終わってしまった。

 ピッチが砂浜という事もあって足がとられて動くのに不便な分、いつもよりミスをしやすくなったり踏み込めなかったときがあったが、心なしか砂浜から抜け出した今では体幹がしっかりしているような気がする。


 「……あの、蹴也君。一緒に帰っても良いですか?」

 「あ……そっか」


 初めての砂浜練習で疲労が困憊しすぎて練習前に紅葉から話された内容をすっかり忘れてしまっていた。

 その内容は衝撃すぎて当時の僕は驚いて息が詰まったのを覚えている。脳内を一回片付けて整理しよう。僕は数時間前、紅葉の口から話された事を思い出した。



 (……明日から毎日一緒に帰ってくださいだって?)


 紅葉の目に視線を合わすと、僕を勧誘してきたときの真っ直ぐに透き通っていた瞳の色は、どんよりと暗い曇天色に滲んでいてどこか不安な雰囲気を感じた。

 これは男子の誰もが期待するラッキーなシチュエーションのうちの一つのイベントなはずだが、そんな「好意」に満ちた誘いではない事は紅葉の瞳からしてはっきりとしていた。


 「何かあったの?」


 紅葉は足を止めると、俯きながら申し訳なさそうに小さい声で口を開いた。


 「……はい、実は私、ストーカーに付きまとわれてるかもしれないんです」

 「え……」


 正直愕然とした。クラスメイトだけではなく、先生からの支持も厚い人気者で華やかな高校生活を過ごしているのかと勝手に想像していたが、こんな大変な事に巻き込まれていたなんて。

 僕の想像をはるかに超えた紅葉の衝撃発言にたじろいで声も出ないでいると、紅葉が振り絞ったような声で話を続けた。


 「実は……気づいたのが一週間前で、毎日一人で帰っている時に後ろから足音がしていて、それがずっと続いているんです」

 「でも確か紅葉って車で送り迎えされてるんじゃなかったっけ?」

 「それはちょっと前の話で、家までそんな遠くもない距離なので最近は歩いて帰るようにしてたんです。相談しようにも女の子の友達には怖い思いをさせたくないし、肝心のサッカー部の人達は丁度春期大会とかぶってて邪魔しちゃいけないかなと思って。でもとうとう抱えきれなくなって……」

 

 確かに周囲の女の子に相談したとしても、「じゃあ私が一緒に帰ってあげるよ」という友だちはそうそういないし、もしいたとしてもその子も危険にさらすことになる。かといって自分達に相談するにしても、その悩み事で練習に支障をきたしたりしたら春季大会どころの話ではないだろう。

 だから正義感の強くて真っ直ぐな性格をしている紅葉は彼女なりに考えて抱え込んでしまったのだろう。自分が誰も見ていない夜道で危険に遭うかもしれないのを我慢して。

 

 「でも、紅葉。そういうのは言わないと駄目だよ。元気のない紅葉を見てたら逆に心配だし、僕たちにとっては紅葉が一番大事なんだよ。今度からそう言う事があったら正直に教えてね」

 

 僕がそう言うと、紅葉は「ごめんなさい……」と言って俯いたまま堪えきれなくなっていた涙を溢し始めた。

 内容も内容だったので、少し厳しく言ってしまったが、元はと言えば紅葉をこんなに追い詰めたストーカー野郎が一番悪い。そう思考を巡らせれば巡らせるほど異常に腹が立ってくる。

 

 「とりあえず、今日は送っていくから明日教室で話そう。とりあえずそんな顔で練習に行ったらみんな心配するから涙拭いて」

 「はい……本当にありがとうございます蹴也君」


 それから僕たちは憤然とした気持ちで浜辺へと歩き出した。道中、女の子向けのクレープ屋や服屋など興味を惹かせるものがあったので、浜辺に着く頃には紅葉の顔から涙は消えていたが、多分僕は彼女の泣き顔を一生忘れる事が無いだろう。あんなに心が締め付けられた感情になったのは生まれて初めてだ。

 数年前に亡くなった僕の父さんが頭に焼き付くくらい言っていた「例えどんな女の子であっても泣かせちゃ駄目だ」というのは、恐らくこの感情の事だろう。


 

 「じゃあ帰りましょうか」

 「うん、そうだね」


 僕と紅葉は浜辺から消えていく人影と同様に、学校内でのことや部活の事を離しながら元来た道を歩き始めた。

 この紅葉ストーカー事件だが、実際問題僕一人で解決することは多分不可能に近いので、奏真たちにも相談した方がいいかもしれない。でもそう考えると何で紅葉は僕一人に相談したんだ……?

 別に結局サッカー部員の誰かに相談するなら何人か集めて相談すればいいのに……。練習前の紅葉の態度から、恋という感情ではないにしても他の理由が思考を繰り返してもなかなか見つからない。


 「あの、紅葉。何で僕に相談したの?」

 「元々同じ班だし……あとは最初にサッカーをやらないって言った罰です!」

 「あー、懐かしいなぁ」


 なるほどな、と全ての疑惑に合点がいく。確かにその面では紅葉をがっかりさせてしまったかもしれないが、妙に雑な言いがかりをつけているようにも見えなくもない。

 だがそんなことより、今一番大事なのはこのストーカー事件をどうやって片付けるかを決める事だ。一番結論的に良いと思うのは、後をつけてきた犯人を捕まえて刑務所に送り届けるという考えだが、捕まえる時に犯人が凶器を持っていたり物凄い強い人物だったりしたら、最悪こちらの命にもかかわる。

 それに、その場合には奏真たちにも全面的に協力してもらうのが必要となってくるが、みんな良いやつばかりなのでその点は心配ないだろう。

 その帰り道、紅葉と今後どうしていくかを話し合いながら海聖橋を渡って家まで送り届けた。幸い何事もなかったが、僕は家に帰るまでストーカー事件にどう片を付けるかを真剣に考えていた。

お読みいただきありがとうございます。はい、まさかの紅葉ストーカー事件というストーリーに発展しました。春季大会の最中どうなっていくのか。次回をお楽しみに。


北斗白のTwitterはこちら→@hokutoshiro1010

お知らせなどは活動報告をご覧ください。

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