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ZONE  作者: 北斗 白
春季大会編
37/46

ep15~試合運び

ZONEは毎週日曜日21時更新です。

 センターサークル付近に立った審判が手元の時計を確認し、笛を加えて片手を上げる。海聖高校ボールからのスタートで、ホイッスルの音と共に試合が始まった。

 

 (……久留沢は中盤か)


 見ると、時雨高校のフォーメーションの中盤に久留沢先輩がいるのが分かった。やはり奏真が知っていることだけあって、足元の基礎はしっかりしているようだ。

 だがそれよりも気になったのが、総合力は海聖の方が上なはずなのに十分経っても試合が動かず、時雨とどっこいどっこいなゲーム内容になってしまっているという事だ。

 

 「奏真……笑ってないな……」


 ベンチから見た奏真の表情は、近くで見ていたときのそれとは正反対で、苦しんでいるようにも見えた。やりにくそうな……いや、奏真だけではなく、他の部員だってそうだ。僕の代わりにはいた銀島先輩も、風見キャプテンも同じ表情をしている。

 

 「おらぁ! もっといけ時雨ぇえ!」

 「おっしゃぁー!」


 試合が始まってからずっと時雨ペースだ。それどころか向こうの「良い試合運び」のせいでチームの士気の上昇が著しく感じる。


 (……ん? 良い試合運び?)


 注意深くフィールド全体を観察してみると、時雨高校の選手はフォワードの選手からディフェンスの選手まで、キーパーを除いた選手全員が一丸となってディフェンスに徹している様に見える。

 ……いや違う、それは海聖高校の攻撃の人数が少ないからそう見えるだけだ。もっと単調な、だけど選手一人ひとりの仕事量が多い……簡単な仕組みがあるはずなんだ。


 「行け銀島!」

 「うおぉぉ!」


 中央でボールを奪った風見キャプテンからの、相手のディフェンスラインを超えるような大きいロングパス。銀島先輩は自身に付いていた三人のマークを振り払って裏へ抜け出した。

 ……が、風見キャプテンのロングパスの距離が長すぎて、そのままゴールキーパーにキャッチされてしまった。


 「對馬の奴……ここまでチームを立て直すとはね……」


 ベンチメンバーが頭を抱えて落胆している中、俺の隣に腰を掛けていた黒崎監督がぽつりと口を開いた。


 「誰っすかそいつ」

 「今まで時雨高校は地区予選一回戦か二回戦どまりのそこまで強いとは言えない高校だったの。だけど今年時雨高校に對馬という監督が赴任してきた。對馬は以前全国にもいくようなチームを指揮していたからサッカー協会での名声も高かったわ」


 俺が感じていた疑問を黒崎監督も感付いていたんだろう。だがこれで時雨高校のサッカーの仕組みが分かった。何ですぐ気づかなかったのか不思議だが、日本のサッカー中継でも取り入れてるチームは少ないはず。

 日本のサッカーが面白いと言われないのも、そういった試合方式のボキャブラリーの少なさからも理由となって出てくるのだろう。


 「ピーー!」


 結局前半は0対0のまま終了してしまった。フィールドから海聖高校の部員たちがそれぞれやるせない顔のまま引き返してくる。


 「蹴也……あいむたいやーど」

 「何ふざけてんの、まあ奏真もやりづらそうだったからな」

 

 ベンチに引き返してきた選手たちは、投げやりに水を喉に通して明らかに不満をあらわにしていた。それもそのはず、実績的には海聖高校の方がまだ上だ。

 多分自分たちの思うようにプレーできず、自信がひっくり返されていらないプライドが傷ついているのだろう。


 「全員座りなさい」

 

 奏真は「ちょっと休むわ」と言って自分が座っていた椅子の隣に腰を掛けた。


 「後半からは銀島君と風谷君を替えていきます。上手く自分たちのサッカーをできていない理由を各自考えるように」

 「なあ蹴也、なんで俺ら攻めれないと思う?」

 「ふっ、どうせ気づいているんだろ? 任せろって。心配は無用だ、今すぐ点を取ってやるよ。ただ、少し全員に言わなきゃならない事があるけどな」


 時雨のディフェンス陣を突破するには俺と奏真だけでは不可能に近いかもしれない。だがチームサッカーにはチームサッカーで対抗すれば可能性は高くなってくる。

 俺は戸惑って頭上にクエスチョンマークを浮かべている奏真を置いて、部員が座るベンチの前に立った。


 「後半からは、出来るだけツータッチに近いタッチ数でボールを触ってくれ」

 「……その根拠は」

 「相手は全員がゾーンディフェンス。それだけ」

 「……なぁ、蹴也ってあんな怖い奴だったっけ……」

 「……いやサッカーの時になると時々ああなるんだよな……」

 「何か言ったか?」

 「いや何も言っておりません」


 こそっと何か聞こえたような気がするが、そんなことよりもまずは久留沢……ようやく潰せる時が来た。

 奏真に点を取ってやると言ったが、一点だけじゃ気が済まない。桜井を超えるためにも、最低で三点……いや、五点ってところか。あいつならそれくらいは点を取るだろう。


 「ピピッ! 後半始めます!」

 「風谷君、わかってるわね」

 「ああ。点取ってくるよ」


 腕を組んだ監督は、「そう」とだけ言ってまた座ってしまった。俺はスパイクの紐を結びなおし、フィールドへと駆けだした。

お読みくださってありがとうございます。来週からは後半戦が始まりますね。

今思えば、私が小説を書き始めたのは去年のこの時期でした。その時に書いたのがこの小説ZONEで、今まで何度も筆をおいた小説家を見てきましたが、ZONEをはじめ、蒼眼の旅人、恋が始まらないという三作を通して、色々な方に関わる事ができたのをとても嬉しく思っています。

もしこの時期からZONEをお読みしていた読者の方がいたら、連絡でもなんでもください。

2018の最後なので多く書きましたが、三作を読んでいただいている読者の皆様、心から感謝します。そして、2019年もよいお年になりますように! 北斗白も元気に執筆活動を続けていきます!


北斗白のTwitterはこちら→@hokutoshiro1010

お知らせなどは活動報告をご覧ください。

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